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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 テントを片付けて飛翔したエルフレッドは視界の端に広がる赤茶色の大地を見て表情を引き締めた。岩石と土が広がり泥混じりの川が流れる荒野ーー。それがミッドオルズの住まう荒野だ。元はこの荒野がクレイランドの全体をの八割を占めていたことを考えると今の砂漠化の深刻な様が伺える。自身の魔力を使いサンドワームを生み出すことで砂漠を広げていってるミッドオルズは最終的には自分の住む場所さえ困らなければ全てを砂漠に変えても良いと考えているに違いない。


 無数に開いた大きな穴のどれかに砂獄の巨龍が居るのかーー探索が必要だが、こちらの動きを察知して飛び出す可能性を考えれば風の魔力を行き渡らせたままの方が良いだろう。調べるのは穴蔵の奥の奥だ。警戒は怠らない。


 ハッキリ言えば最も楽に終わる可能性がある巨龍だ。単純に属性相性で言えば風の魔力は地の魔力に強いのである。暴風が砂塵を撒き散らすように、岩石を巻き上げるように、大地をまくりあげるように、トリッキーな動きと強靭な硬さに気をつければ何のことは無かった。元来、他の属性ならば地面を揺らされて岩石を打ち出されれば立つ事もままならないだろう。しかし、風属性は空に舞う。そういった手段は殆ど効かないといって良い。


 逆に言えばミッドオルズを簡単に倒せないようではこれからの巨龍討伐は時間を置いた方が良いだろう。同属性の巨龍に闇属性の巨龍、そして、十全な天空の巨龍アルドゼイレンだ。その巨龍達に比べれば一方的な展開になっても許される唯一の巨龍と言えた。


 風が穴蔵の中を隅々と行き渡る。反応はーーあった。いや、あるにはあったが何かがおかしい。大きさは似ているがどうも一度戦ったあの時と違うようなーー。




 ゴオオオンッ‼︎




 その一撃は空を舞うエルフレッドの後方の砂漠より現れた。どうやら穴の中に同じ大きさのサンドワームを忍ばせて騙し討ちを決行したようである。エルフレッドは障壁にてそれを受けたが、その硬さは即ち攻撃力だ。跳ね飛ばされて土の上を無様に転がった。


「ゴホッ!ゴホッ!相手もやはり弱点属性だと警戒するか......」


 内臓にダメージがあったのだろう。血を吐き出しながらエルフレッドは呟いた。中級風魔法、癒しの風で回復して大剣を構えた。ミッドオルズのプラズマを受けた首の鱗は未だにボロボロであったが傷自体は回復しているようだった。魔力で生成した岩石を飛ばしながら牽制をしてくるミッドオルズのそれを避けながらエルフレッドは中空を飛翔する。


 体を畝らせ、しならせては頭突きを放つミッドオルズの攻撃を避けながら彼は一、二、三と大剣を閃かせた。風の魔力が十分に行き渡った大剣がその鱗を傷つけるがやはり破壊するには至らない。異様な硬さは健在だ。しかし、これが魔力で強化されていることを思えば無限に大剣を当て続ければ何れかはそれが消えるのである。


 エルフレッドは様々な箇所に攻撃を当てながら相手の意識を逸らし首元の鱗が破壊された箇所を狙いたい。ミッドオルズはそれをさせないようにしながらエルフレッドを地上に引き摺り下ろしたい。互いの思惑が解りやすいが故に膠着状態に陥るのも早かった。


 サンドワームを使って更なる牽制を掛けるミッドオルズ。その数は五匹で強さはBランク相当だ。その間に自身の体当たりや岩石の攻撃を織り交ぜての乱舞である。しかし、今のエルフレッドならば有利に戦える属性のBランクなど一撃も一撃だ。即座に風の魔力を纏って自身を一陣の風となり纏めて五匹を両断した。一瞬にして砂と化した巨龍の僕は砂の山を形成する程度の効果しかない。そんなミッドオルズの猛攻を薙ぎ倒して避けたエルフレッドはその四対ある不気味な白眼に袈裟斬りを放った。




 ガインッ‼︎




 その硬さは鱗以上だ。目は弱点では無いらしい。一瞬驚いた彼は大剣を引いて横から迫って来た尻尾をやり過ごしすと後方に飛翔ーー再度、距離を詰めて剣撃を繰り出した。右袈裟、左払い、右払い、回転斬りと連続的に攻撃を当て続けて一方的な展開に持っていく。


 何度も何度も攻撃を当てられ続けてミッドオルズが嫌がっている様が見て取れた。しかし、それでもエルフレッドに慢心は無い。隙をついては連撃ーー氷海の巨龍エルキドラにしたように纏わりついては斬撃を繰り返して避けに撤するのである。


 その対策は完璧だっただろう。ミッドオルズの嫌がることを繰り返した上で巨龍の攻撃を封殺していた。それ以上にない攻めだった故に彼はパターンに入っていたことに気付かなかった。


 それは突然のことだった。攻めの時間が四半日に達した頃、口を開いたミッドオルズがサラサラとした何かを彼に吹き掛けた。それはブレスではなかった上に砂のような物だった事からエルフレッドは警戒が薄れて一瞬だけ風の障壁が遅れた。もし、その妙な砂が()()を放っていることに気づいていたなら彼はそれを最速で防いでいたことだろう。


「がああああ‼︎」


 目が一瞬にして赤に染まり尋常じゃない痛みから地に落ちたエルフレッド。吸い込んだそれのせいでゴボりと血を吐き出しながらのたうち回る。そして、その隙を逃すミッドオルズではない。地を砕くであろう硬い尻尾を弓のようにしならせて振るうとエルフレッドのことを弾き飛ばした。


 ドゴオオオン‼︎


 岩石に打ち付けられて頭が割れた。しかし、それ以上に痛いのは目と肺だ。ミッドオルズが吐いたそれはガラス質の鉱物であった。砂ほどの大きさのそれがエルフレッドの眼球に無数に突き刺さり、肺を傷つけたのである。シュルルとコブラのような舌を揺らして吹き飛ばされた彼を仕留めようとするミッドオルズ。それは砂獄の巨龍にとって最大のチャンスであったのだろう。この機会を逃すまいと自身の攻撃が当たる距離まで近付いていった。




「......舐めるな‼︎地属性風情が‼︎」




 雄叫びと共に血を吐き出したエルフレッドが清めの風をかけて立ち上がった。要はガラスだろうが砂だろうが汚れなのである。血の涙を流すエルフレッドは近距離転移で少し距離を作り、癒しの風を唱えて視界と頭を回復ーー。首を振り下ろさんとするミッドオルズに対して痛む肺もそのままに飛翔した。中級風魔法ウインドウエポンを唱えて首元の破壊された鱗を横薙ぎで一閃ーー。鮮血が吹き出したミッドオルズを上空から振り下ろしで叩きつけた。


 打ちつける神の鎚と共に打ち下ろされた大剣はミッドオルズの頭を地面で跳ねさせる程の威力を持っていた。二度三度とドリブルでもするかの如く何度も振り下ろされた、それは当然無茶な動きであった。エルフレッドの腕の腱はボロボロだ。治りきってない肺から吹き出した血が口から吐き出されて巨龍の鮮血と混ざり合う。しかし、遂にはその硬い鱗をもカチ割って鮮血を噴き出させるに至ったのだ。そして、その破壊力は肺の回復の時間を捨てて唱えたもう一つの魔法にあった。


 上級無属性魔法、リミットブレイク。


 覚醒と能力上昇を司るこの上級魔法はエルフレッド本来の能力を根底から引き上げて、その上で覚醒させる魔法だ。あのメルトニアの隕石を砕いた本来の一撃はこの魔法で底上げされたところにあった。無論一回目の遭遇の際も長引けば使おうという考えがあったがその前に逃げられてしまった経緯がある。


 狂ったように何度も何度も覚醒状態での振り下ろしを繰り返すエルフレッドにミッドオルズの動きが鈍くなっていく。ウインドウエポンで強化された大剣、打ちつける神の鎚の威力、そして、リミットブレイクの強化ーー。それは一撃一撃がAランクの魔物を叩き潰さんとする威力まで到達していた。


 堪らずミッドオルズが煙幕を撒いた。粘土の赤土の中とはいえ穴を掘って逃げることは可能だ。この風属性の人族には自身では勝つ事が怪しいことを悟ったのだろう。サンドワームを放ち、砂にガラスを混じらせ、ただただ延命のためだけに行う逃亡の一手が全てエルフレッドへと襲い掛かった。

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