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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 様々な造形物や観光地を二人で眺め、その様子をカメラで取られながら半日を終えたリュシカとエルフレッドはジャノバに連れられてカジノのVIPルームへと足を運んだ。既に何人かの人物がカジノで遊んでおり、ジャノバはその中をハイタッチやハグをしながら進んでいく。


「おいおいジャノバさんよ!とても可愛い娘を連れて来てるじゃねぇか!」


 リュシカを見ながら興奮の声を上げる男にジャノバは「俺の姪っ子だぞ?しかも隣のは俺の友達で龍殺しの英雄さんだからな?」と笑ってタバコを吸った。


「......あー、それはそれは楽しい時間をお過ごし下さい」


 一気にテンションが下がった男にリュシカは「初めてなので困った時はよろしくお願い致しますね?」と微笑んだ。


「え?本当にジャノバさんの姪っ子なの?全然雰囲気違うじゃん!」


 ギラギラに染めた金髪と刺青を掘ったケバケバしくも美しい女性が笑う。


「まあ、厳密にいえばコルニトワ義姉さんの姪っ子だから血の繋がりはないけどな。ま、でも最近はそういう関係でも叔父叔母、姪甥だろう?」


「はは〜ん?そういうことね!まっ確かに血が繋がってないのなら納得だね!」


「なんだと![エキドナ]てめえ!」


 楽しそうに笑いながら手を打ち合っている彼ら彼女らを見てリュシカはエルフレッドに耳打ちした。


「......彼らが何者か知っているか?」


「ああ、彼等はAランク冒険者だな。その中でも特にジャノバさんと仲が良い面子だから自分達が初めてであることを考慮して呼んでくれたんじゃないか?」


 そこにいたのは珍しい銃剣術で有名な[コーディー]と蛇腹剣の使い手であるエキドナを筆頭にエルフレッドの見知った冒険者達の姿だ。彼は少し心配そうに裾を掴んでくるリュシカへ「心配無いぞ?」と笑い掛けた。


「つうか、龍殺しの英雄ってよく見たらエルフレッドじゃん!あんまり様相が変わったから同名なだけかと思ってたぞ!」


「ああ、コーディーさん。久しぶりです。彼女は学園のクラスメートで友人のリュシカです。ヤルギス公爵家の御令嬢だから要らないことはよして下さいね?」


 コーディーは「公爵令嬢ってのもあれだけど、そもそもエルフレッドの友人にどうこうしたいヤツなんて冒険者の中にはいねぇよ!」と笑ってリュシカに「Aランク冒険者のコーディーです。よろしくお願いしますね」と改めて自己紹介をして微笑んだ。


「はい!ご丁寧にありがとうございます!スロットなどを回して見たいと思っていますわ!」


 満面の笑みで答える彼女にコーディー口笛を吹いて「ハッハー。リュシカのお嬢さん。VIPルームは安全だけど他の所に行く時はエルフレッドから離れないで下さいね。コーディーおじさんとの約束ですよ?」と頬を掻きながら苦笑した。


「離れるも何も護衛で来てますから心配無用ですよ?」


「キャッハー!エルフレッドが護衛とか何から守るつもりなのよ!お姫様のことをドラゴンでも攫いに来る訳?」


 ルーレットを回しながら白に半分のチップを賭けているエキドナが爆笑しながら振り返った。


「まあ、何からもですよ。何があっても大丈夫なようにしてるんです。こうやって内部にいれば友好条約なんて関係なく思えるでしょうが一応まだ国交正常化前なので......」


「なるほどねぇ〜!まっ、ジャノバさんに誘われたんだろうけど気を付けてね?お姫様?あの人、本当に手が早くて早くてーー」


「馬鹿やろう!どこに姪っ子に手ェ出す馬鹿が居るんだよ!十六になったし折角だからこういうのも悪かねぇだろって連れて来ただけだってぇの!それに何かあってみろ!アードヤードや聖国が一気に敵に回るぞ!」


「うっひゃー怖い怖い!冗談だって冗談!ごめんねぇ!意外と単なる叔父馬鹿だったわ!」


 ルーレットが白に止まりガッツポーズと共に返ってきたチップを抱きしめるエキドナを見ながら「何だか異文化交流みたいな感じだな」とリュシカが呟いた。


「あ、エキドナさん。ご忠告有難うございます。でも叔父様が手が早いのは重々承知の上ですから心配しないで大丈夫ですよ?昨日も早速ダンスに誘った女優さんと目を離した隙に何処かに行ってましたから」


「ーーえっ‼︎マジ⁉︎もう落ち着いたんじゃないの⁉︎そんなんだから嫁来ないんじゃん!クレイランドの住人は呆れ返ってるわ!」


「ちょ、リュシカ!それは誤解だ!確かに二人で酒は飲んだが何もしてねぇよ!それにその事は絶対に兄貴に言わないでくれよ!年棒もらえなくなっちまう!」


 まさかの暴露に大慌てで言い訳を始めたジャノバに対してエルフレッドは「一年くらい年棒無しで大丈夫なんじゃないですか?落ち着いて人生省みた方がいいですよ」と半笑いを浮かべたのだった。













○●○●













「エルフレッド」


「どうした?リュシカ」


「七が三つ揃ってコインが一杯出てきたんだがこれは何だ?」


「......大当たりだな」


「ふーん。思った程の爽快感は無いな」


 彼女はジャラジャラとコインを引っ掻きながら「おそそわけ」とエルフレッドに半箱分くらいのコインを渡した。彼は席確保の為だけに座っているのでコインがなくならない程度に回しながら「ありがとう」と受け取る。


「あ、あのリュシカちゃん?おじさんにもコイン分けてくれないかな?」


 その後ろでジャノバが必死に媚売りながらリュシカに頭を下げている。どうやらルーレットで有り金を全部使ったらしい。


「叔父様はあげても直ぐ失くしますからねぇ。どうしましょう?」


 彼女が視線だけでその姿を見ながら呆れた様子を見せると隣で溜め息を吐いたエルフレッドは今し方貰ったコインを漁りーー。


「......自分は護衛の為に横に座っているだけなのでリュシカから貰った分の半分で良ければどうぞ」


「ううっ!ありがとう!リュシカ、エルフレッド!絶対倍にして返すから!ありがとう!本当にありがとう!」


 彼女は先程負けたルーレットに齧り付くように向かって行った叔父に憐れむような視線を送ると真顔でエルフレッドの方を向いてーー。


「なんで叔父様ってモテるのだろうな?」


 心底不思議そうな表情で訊ねてくるリュシカにエルフレッドは困ったように頭を掻いた。


「......才能が凄いからじゃないか?それに連れ添うわけでもなければ見た目も良いから......まあ、解らん」


 そんな話をしているとリュシカの台がフォンフォンフォンと謎のブザーを鳴らしながら仰々しい画面に変わった。




 まさかとエルフレッドがスロット台上部の全ての位置から確認できるデカデカとした電光掲示板を確認するとjackpot‼︎と表示されており、とんでもない金額が点滅している。


「おい、リュシカ」


「なんだ」


「もしや、その台ジャックポットって表示されていないか?」


「そうだな。謎のルーレット画面からジャックポットって表示されてからスロットが回らなくなったな。故障か?」


「いや、とんでもない大当たりだ」


「そうか。明日からの観光で贅沢が出来そうだな。受け取りはどうするんだ?」


「そろそろ係の者が来ると思うぞ?というか、この場合どうなるんだ?国交正常化前の国で友好の使者がジャックポットを当てて受け取りなんて出来るのか?」


「知らん。因みに幾ら当たったのだ?」













「十二億だ」













「ふーん、十二億か......十二億⁉︎」


 どうせゲームの大当たりだろうと欠伸をしていたリュシカがギョッとした表情で振り向いた。その周りには手を擦り合わせながら現れたオーナーとボディーガード含む五人のスタッフが立っていた。デカデカとしたボードに十二億獲得おめでとうございますと書かれており、彼女らそれを使った写真撮影やら受け取りのサインやらを求められていた。


「エルフレッド......私、どうしたら良いの?」


 本当に困っているのだろう。オロオロとしながら何処か可愛らしい口調に切り替わっている彼女がウルウルとした瞳でエルフレッドを見ている。正直な話どうしようもないエルフレッドは困ったように頭を掻いたが、何か良い方法はないかと頭をフル回転させてーー。


「......ギルドカードで手続きしておこう。あれなら何処の国でも関係なく使えるはずだ。そして、コルニトワ正妃殿下に連絡。確認が取れ次第ご両親に連絡だ」

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