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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 歓迎の演目が行われる中でスペシャルゲストとして舞台中央に現れた人物にエルフレッドとリュシカは驚きの声を上げた。コミカルな動きで両手を振りながら現れた人物はノノワールであった。本当に何処にでもいるクラスメイトである。どうやら舞台などで国交正常化前から何度か呼ばれたことがあるらしく上位層しかいない会場において大きな歓声で迎えられる様は彼女の人気の高さを表していた。


 以前の感情を震わせる演技とは違い終始楽しげに歌って踊る演目であったが、会場全体に耳に痛いところ無く綺麗に響く歌声と周りの人々と完全にシンクロして軽やかに踊る様はポップでキュートな魅力を振り撒いている。終盤になると後方宙返りなどを加えた相当ハードな振り付けになっていたが呼吸も乱さず完璧に踊って歌いこなしている様子が彼女の技術力の高さを表していた。


「さっき驚いていたけど知り合いかなんかなのか?」


「知り合いも何も友人ですよ。学園のクラスメイトでリュシカとも交流があります」


「へぇ!それは驚いたろう!というか知り合い凄いやつばっかじゃねぇか!」


 驚嘆の声を漏らすジャノバに対してエルフレッドは「大公でSランク冒険者より凄い知り合いは中々居ませんがねぇ」と肩を竦めてーー。


「一応、アードヤード王立学園のSクラスですからクラスメートには有名人しか居ませんよ?それに冒険者としても特Sランクですから、ある意味必然だと思いますが?」


「ハハ、ちげぇねぇな!まっ、交友関係の幅の広さは素直にすげぇと思うけどな!おっと終わったみたいだ」


 笑顔ではあるが肩で呼吸するほどには息が大きくなっているノノワールにスタンディングオベーションが送られる。そんな中で彼女はエルフレッドとリュシカに解るように「また後でね♪」と口を動かすと観客に手を振りながら袖の方へと消えていった。


「それでは歓迎の演目が終わったところで主賓の方々より挨拶をお願いしております。エルフレッド=ユーネリウス伯爵子息殿、リュシカ=ヘレーナ=ヤルギス公爵御令嬢です。よろしくお願い致します」


 立ち上がった二人は打ち合わせていた通りに話し始めた。クレイランドの文化を尊重するようにヒラヒラとしたレースがふんだんに使われた薄い赤のドレスに身を包んだリュシカの言葉に観客として招待された人々が大きな歓声と拍手を送る。


「本日は素晴らしい友好の手助けを出来たことを誇りに思うと同時に喜びーー協力して下さった方々に感謝の言葉を贈りたいと思います。ありがとうございます」


 そう締め括ると横で聞いていたコルニトワが涙を流しながら「......流石、我が子......」と呟いていた。内心、違うだろ?と思いながらマイクを受け取ったエルフレッドが話し始めると今まで歓声を上げていた人々が静かにーーそして、真剣な表情で巨龍討伐を成し遂げてきた英雄の言葉に耳を傾け始めた。


「私はここに誓いましょう。砂漠を広げる原因であるミッドオルズを討伐し、クレイランド帝国へ数百年の平和を齎すことをーーそして、その功績を持ってアードヤード王国とクレイランド帝国の友好の餞とすることをーー。ミッドオルズの脅威は私がアードヤード王国に帰るその日までに必ず終結させてみせます。楽しみにお待ちください」


 拍手をする者、拳を上げて歓声を上げる者、様々な反応を示す者がいる中で隣に座るジャノバが声を掛けてきた。


「ハハハ!大きく出たねぇ!エルフレッドらしいが失敗する可能性は考えていないのか?」


 陽気な様子でありながら真剣な瞳で告げるジャノバに対してエルフレッドは苦笑しながら耳打ちした。


「あまり大きな声で言えませんが失敗する時は死ぬ時なので何とでも言えるんですよ?まあ、負ける気も有りませんがーー」


「なるほどねぇ!確かにな!まっ、俺じゃあ全然歯が立たなかったから、しっかりやってくれよ!英雄さん!」


「......善処致します」


 軽く激励するように肩をポンポンと叩いてジャノバは席へと着いた。その反対側の肩を叩かれて振り返ればリュシカが楽しそうな表情を浮かべながらーー。


「英雄殿は言うことが違うな!私は感心したぞ!」


「ただ負ける気がないだけだ。それに友好の手助けをしたいという気持ちは本心だからな」


「ハハ!それは有難い!友好が成されて初めに恩恵を受けるのは我がヤルギス公爵家だからな!兄上やアーテルディア様の為にも宜しく頼むぞ!」


 両国の友好は歴史的背景や政治的背景から見ても代えの利かないものであったが真っ先に私的な恩恵を受けるのは何処であるかと問われれば確かにヤルギス公爵家だろう。嫡男と皇妹である皇女との婚姻を持って友好に尽力した功績は計り知れないが妹の目から見て”〜為に”と言わせる程ならば関係自体は良好と判断しても良さそうだ。


 となれば当人同士も良好な関係を築いていて金銭的にも更に裕福となる。そして、外交面ではクレイランド帝国と深い結び付きを持つ事になるであろうヤルギス公爵家は他髄を許さなぬ家としての地位をより高めることになるだろう。


「肝に銘じておこう」


 果たしてそれが良いことかは解らない。忠誠を誓う彼等が大きな権力を持つことは一時的に見て大きなプラスであるだろう。しかし、時が経った後に王政の根幹を揺るがす可能性も否定は出来ない。特にレーベン王太子などは未だに相手が決まっていないのである。有力な家がドンドン婚姻を決めていく中で当人が何を思っているかは解らない。如何に優秀な王太子であるとはいえ、このままでは不味いのではないだろうかーー。


「......エルフレッド。思考の渦に巻き込まれるのはお前の悪い癖だぞ?要人の方々との挨拶が始まるから少しこっちの世界に戻って来てはどうだ?」


 ハッとして顔を上げれば晩餐会に出席していたクレイランドの要人達が列を成してこちらに向かって来ているところだった。


「すまん。助かった」

 

 バツが悪そうに頭を掻いたエルフレッドにリュシカは悪戯っ子の様な表情で微笑んでーー。


「気にするな。まあ、どうしてもって言うなら明日の観光地巡りの際にお礼をしてくれても良いのだぞ?」


「ハハハ!そうだな!それではこの私目がしっかりとお礼をさせて頂きましょう!」


 おちゃらけた様子でボウアンドスクレイプを決めて笑うと彼女は「ええ。そうしてくれると嬉しいわ!素敵なジェントルマン様!」とカーテシーを決めてみせた。そうやって、ふざけ合って笑っていた二人だったが、その様子をリュシカの背面で眺めていたコルニトワが何故か瞳をキラキラと輝かせて拍手をし始めた。


 すると周りもなんだか解らないが素敵な礼を見せた二人に拍手をし始めてーー辺りを見回した二人は顔を赤くする。


「......アズラエル......ミュージック......」


 コルニトワが告げると「そうだね......偶には......解ってるよ!マイハニーコルニトワ!」と妙に気障ったらしい様子でーーなるほど、ユリウスは父親から学んだのかーーと告げて高々と上げた指をパチンと鳴らした。軽快なジャジー系の音楽と共に辺りがボウアンドスクレイプとカーテシーで埋まって軽快に踊り始めたのを見て自分達が何を勘違いさせて、何を求められているのかが解った二人ーー。


「ふふ、どうやら英雄様に妙な絡みをすると何かに巻き込まれるようだな?」


 恥ずかしそうにしながら身を寄せてきたリュシカの手を優しくとって「ハハ、困ったな。しかし、良い宴に良いダンスを返すのも粋な計らいか」とスッと腰を落として彼女の手を取った。


「ふはっ!才能ある若い子達が考えることは違うねぇ〜!それじゃあ叔父さんも楽しんで来るかねぇ!アデュー♪レディー&ジェントルマン!楽しい夜を♪」


 揶揄うように笑ったジャノバは巻煙草を吸って灰皿に落としていたが、ちゃっかり国一番の女優の元に向かって二言三言ーー。すっかりその気にさせてウットリとしている彼女の手を取って踊り始めた。ーー本当に悪い男である。


 それにしても何の脈絡もなくダンスが始まるのはクレイランド映画の中だけの話だと思っていたが、そうではないらしい。少し激し目のステップを踏んで軽やかに踊り始めたエルフレッドとリュシカーーその頬に少しの朱を入れて楽しい一時を過ごすのだった。

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