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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 大剣が一瞬の内に三度閃いた。飛びかかってくるサンドワームを肉塊へと変えながらエルフレッドは額に浮かぶ汗を拭った。サンドワームの猛攻と隙をついたかのように飛び出してくるミッドオルズの体当たりは単調ではあるがエルフレッドの体力を的確に奪っている。


 何より気温は安定しているが乾燥している為に水分の抜けが早い。無論、ガルブレイオスと溶岩の近くで戦った時程ではないが、このような戦いを繰り返していれば何れは消耗してしまうことだろう。再三同じ攻撃で攻めてくるミッドオルズに剣撃を加えながらエルフレッドは考えるのだ。


(要はさしたるダメージも無いから同じことを繰り返すのだろう)


 結局、相手が何らかの形で危険を感じているならば、こちらに対する攻めようも変わってくるハズだ。しかし、隕石を受け止めた一撃ですら相手にとっては軽傷にも満たない擦り傷だったようだ。そう考えると態々サンドワームなどを生成して偶に地震で攻撃することが最も効率が良く安全だと考えられても仕方がない。


 そして、その考えにエルフレッドは口角を上げて堪えきれるものではないと忍び笑った。


 何故か?それは小手調べの一撃しか放っていない自分がそのような単調な攻撃で倒せると考えられている事実があまりにも可笑しかったからだ。ならば得意としているその砂の中から引き摺り出してやろうと考えるばかりである。再度、ウインドフェザーを解いて公道の真ん中へと降り立ったエルフレッドは襲いくるサンドワームを切り刻みながらその時を待った。


 サンドワームの処理し続けて五回は繰り返しただろうか。僕から砂へと戻ったサンドワームが公道の上に小山を作る中、その瞬間はやって来た。飛び掛かって来たミッドオルズは先程より勢いがある。ウインドフェザーの捲き上る竜巻もともすれば押し潰さん勢いだ。エルフレッドは極力引き付けることで巨体を晒させているミッドオルズを竜巻で喰い止めると全身の魔力を高ぶらせて印を書いた。


「魔力も十分、広域の()()ーー。エルキドラの時とは比べ物にならないぞ?」


 バりバリと大気を食い荒らす音を立てながら発生したプラズマの球をミッドオルズの首元へと放った。閃光が迸り辺りを轟音が鳴り響く。ぶち当てられた爆発が首元の鱗を破裂させミッドオルズは鮮血を撒き散らしながら上空へと反り返った。


「近距離転移などは対人戦闘でしか役に立たないと思っていたがーー今回は中々使えそうだ」


 体の半分以上を砂から引っ張り上げられて全貌が見え始めたミッドオルズの後方ーー。倒れ込むその背中の鱗と鱗の間の節を捉えたエルフレッドはそれを引っ掛けながら上空へと飛翔。ミッドオルズの巨体を投げ飛ばした。砂からズリズリと引きずり上げられて全身の姿を露わにした巨龍の首元に飛翔したエルフレッドは大剣を突き立てんと襲いかかる。その狙いは鮮血を撒き散らしている首元だーー。













その瞬間、ミッドオルズの全身から砂が吹き出した。













 全く予想していなかったエルフレッドはそれを諸に浴びて一瞬視界を失った。その間に巨龍の側頭部で弾き飛ばされ砂漠の上を転がる。風を切る気配から何かが近づいて来ていることを察したエルフレッドは清めの風で視界を取り戻して襲いくるサンドワームへと大剣を閃かせた。その猛攻を退けながら視線をミッドオルズがいた辺りに戻したエルフレッドは驚愕した。



「居ない......だと?」



 初めはまた潜っただけだと思った。油断無く大剣を構えた彼は捜索の為に風の魔力を放った。方向を変えて上空を旋回ーー。それを三度繰り返したエルフレッドは公道の真ん中に降り立ってサンドワームの素で出来た小山を風の魔力で払うと溜息と共に結論を出した。


「......逃げられた。討伐は失敗だな」


 今まで巨龍が姿を消すなんて経験をしたことがなかったエルフレッドは困ったように頭を掻くと魔力回復薬を取り出して煽った。不完全燃焼な気持ちに憤りを覚えたがこうなってはどうすることも出来ないのだ。煙幕を張られて逃げられた。それが結果ということだ。


「次は逃げられないような対策もたてないとな」


 真っ直ぐと伸びる公道の上ーー空間から取り出した携帯端末で時間を確認したエルフレッドは太陽の位置から粗方の方向を確認してウインドフェザーで飛び立った。


『巨龍に襲われたと聞いたが大丈夫か⁉︎解決したら連絡してくれ‼︎』


 慌てた様子で書かれたメッセージに苦笑しながらエルフレッドは携帯端末に指を走らせる。


『大丈夫だったが逃げられてしまった。討伐は失敗だ』


 燦々と輝く太陽の下ーーエルフレッドの感情はモヤモヤとした何かに囚われているのだった。













○●○●













「遠路遥々御苦労だった。そして、我が国の救援要請に答えて頂き誠に感謝している。私がクレイランド帝国の皇帝アズラエル=アセト=クレイランドだ。よろしく頼む」


 豪華絢爛な白の皇城ーー赤の絨毯が引かれた謁見の間に案内されたエルフレッドは片膝をついた状態で申し訳無さそうに頭を垂れる。


「バーンシュルツ伯爵家嫡男エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツで御座います。此度は巨龍討伐と護衛の件で馳せ参じました。しかしながら巨龍に逃亡を許してしまう失態を演じて真に申し訳ありません」


 アズラエルは特に表情を変えることなく「いや、気にすることはない。英雄殿」と冷静な声で告げた。


「元来、主な生息地は砂漠より少し外れた所にある粘土質の土が広がった荒野の大地なのだ。無論、砂漠に下ることもないことはないが巨龍としても小手調べだったのだろう。我が皇城内の書庫に他国で知られている以上の資料を用意してある。是非討伐に役立てて欲しい」


「心遣い感謝致します」


「いや、礼にも及ばぬ。かの巨龍の被害は当国において甚大なものだ。その討伐に立ち上がってくれる者に何の非難が出来よう。何より実際に遭遇していながら五体満足な姿を見れば討伐の本懐も期待出来ようぞ。本日は一度客室にて休まれよ。ヤルギスの姫もそなたのことを待っておったぞ」


 アズラエルは微笑を浮かべると「私は公務に戻るとしよう。英雄殿。最上の歓迎で持て成す故に今日は楽しんでくれ」と告げて横の通路へと消えていった。それを礼で見送った彼は大臣より「英雄殿、係の者に案内させます。どうぞ、あちらへ」と促されるままに係の者について行った。


「英雄様。どうぞこちらへ......正妃殿下、皇子殿下と共にヤルギス公爵家の姫君も中でお待ちです」


 水のカーテンに包まれた赤の長い廊下を華美な衣装に身を纏った侍女に案内されて「ありがとう」と中に入るとそこには不思議な光景が広がっていた。


「リュシカ。これはどういう状況だ?」


 公式の場での言葉遣いを思わず忘れてしまったエルフレッドに「何時もの事だ。気にするな」とリュシカが告げる。


 大き目な椅子の上で正妃殿下の股の間に座り抱き締められているリュシカが十歳になるかならないかの高貴な少年から妙に気障ったらしい言葉で口説かれている。そんな光景が何時ものことなどあるのだろうか?御付きの者と思われる家来がその光景に何も言わないことに首を傾げながらエルフレッドは案内された席へと着いた。


「大丈夫だったようだな?巨龍に襲われたと聞いた時は肝が冷えたぞ?」


「まあ、元々予定にはあったことだからな。だが、こうも早く出会うとは思わなかった。また情報を集めてからやり直しだな」


 そうやっていつも通りの様子で会話していると高貴な少年が面白くなさそうな表情でこちらを見ている。


「ご挨拶遅れて申し開けありません。正妃殿下、皇子殿下。私が伯爵家嫡男エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツでございます。よろしくお願い致します」


 コクリと頷いた正妃殿下は「......ユーネリウス様......コルニトワ=アイーダ=クレイランドです.......」と言ってリュシカを抱き締める手を強めた。


「皇子のユリウス=アセト=クレイランドだ。随分と傭兵地味た様相だが礼儀だけは弁えてくれよ?」


「かしこまりました。ユリウス皇子殿下」


 もしかしたらリュシカとの会話で礼儀のなっていない人物だと思われたのかもしれない。頭を下げながら告げれば「......ならば良い」とやはり面白くなさそうな表情で告げるユリウスだった。

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