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少し時は遡ってリュシカがエルフレッドとの朝練を終えた後の話。
彼女は身支度を整えると第四層にある会員制のレストランへと向かう。普段はそういった場所を使うことはあまり無いのだが、これから会う友人はそういった場所を使わなければ"ならない"友人だ。
四層入りを示すトンネルをくぐり格式の高い門構えが乱立する通りを抜けた少し奥まったところにある庭園を備えたレストランが本日の目的地だ。
店前に佇むドアマンに扉を開けてもらい、それに微笑んで答えると多方面から送られる「いらっしゃいませ」に迎えられる。
「ヤルギス公爵御令嬢、本日はご来店頂き誠にありがとうございます。[ルーミャ=アマテラス=イングリッド]殿下におかれましては既に御到着されております」
内心ルーミャだけか?と考えながらリュシカは令嬢然とした微笑みを浮かべた。
「ご丁寧にありがとう。席まで案内していただけるかしら?」
「慎んでお受けいたします」
慇懃に頭を下げるオーナーにエスコートをされながらリュシカは廊下を進む。はしたなくならない程度に視界の隅に流れていく花の名前を冠した部屋を眺めていると、その中でも一際豪華な三部屋の方へと案内された。
そして、その三部屋の中で他の部屋とはテイストの違う[櫻の間]と呼ばれる襖開きの部屋の中から薄っすらとだが聞こえてきた楽しげな声にリュシカは頬を引き攣らせた。
「ふわぁ〜♪此処の鮎の姿焼きは絶品ねぇ♪鰹のタタキ叩きも踊っちゃう〜♪コンコンって感じ?ふふっ♪」
その瞬間、彼女は能面を思わせる表情になったが何やら冷たいものを感じる笑みを浮かべると何かを察し襖を開けるべきか迷っているオーナーへと顔を向けた。
「櫻の間で見聞きした事は全て他言無用でお願い致しますね」
「......かしこまりました」
オーナーは背中に悪寒を感じながらそう答えるのだった。
「まあ!リュシカ!妾は待っておりましたよ♪」
オーナーのエスコートで入室したリュシカは鹿威しの小気味良い音と共に放たれる耳触りの良い声に微笑みを返した。
歳の頃は十代中頃ーー。しかし、それに似合わぬスタイルの良さと年相応に幼くも整った顔立ちをしている彼女は自身を際立たせている満月色のウェーブがかった髪を揺らしながらリュシカへと微笑んでいる。そして、その機嫌の良さに合わせたかのように髪色と同色でボリュームのある九本の尻尾が揺れて根本がモフモフとした狐耳がピクピクと動いていた。
「ルーミャ=アマテラス=イングリッド殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます。この度はこのようなーー」
「よいよい♪妾とリュシカの仲ではないですか!そのような口上は必要ありません!今宵は誠に良い席をーー。妾は大満足ですよ♪」
満足げな表情のルーミャを見ながら思わず微笑んでしまった。そんな表情を浮かべているにも関わらずリュシカの目は全く笑っていなかった。一早く状況を察したオーナーは「ごゆっくりお楽しみ下さい」と一礼と共に部屋を出ていった。
そして、個室のプレイベートを守る風の遮音魔法が掛かったのを確認するとリュシカは片手を添えるようにして口元を隠しながら咀嚼する彼女へと視線を強めーー。
「ルーミャ‼︎遮音魔法が掛かるまで素を出すなと何度言ったら解るんだ‼︎何がコンコンだ馬鹿者‼︎」
咀嚼を終えた彼女、改めルーミャ=アマテラス=イングリッドは「ヒェ⁉︎」と変な驚声を挙げた後に自慢の狐耳を触わりながら「あちゃ〜」と呟いてーー。
コツンと頭に拳を置いてテヘッと舌を出した。
......。
席が向かい合わせで本当に良かったと思う。
でなければ、王族とか関係なく頭を叩いていた事だろう。歯を食いしばり目を見開くくらいにはイラっとした。
リュシカはそんな気持ちを振り払うかの如く咳払いをすると鮎の姿焼きに箸をつける。
「全く、そんなことではこの国では上手くいかんぞ?来る前から勝手が違うとあれ程伝えたと言うのに......まあ良い。それよりもルーミャ、アーニャはどうした?一緒にくる予定だったでは無いか?」
彼女は「あははぁ、はぁ......」と気まずそうに溜息を吐いた。
「”オマエといると飯がまずくなるみゃあ”って言ってどっか行っちゃたんだよねぇ。昔はこうじゃなかったんだけどぉ......大体ウチらは誇り高きアマテラスの血筋なのにぃ、あの子ったら猫族弁なんてお父様の真似をしてぇ......」
トホホ、と嘆く彼女にリュシカは溜息を零す。
「お前達双子は一卵性だろうにどうしてこうも違うのだ?まあ、嫌なものを無理強いする気はないが......」
「いや、リュシカに会いたくないって訳じゃあ無いみたいなんだけどぉ。なんか”EQ全振りのお前とIQ全振りの私じゃあ相容れないみゃあ‼︎”とか言ってさぁ。本当に難しい事ばっかり言って困ったちゃんなんだよねぇ?」
「困っちゃんがどっちかはさておき案内までには合流できるように連絡入れておくのだぞ?」
ルーミャは「解った〜」とスマホを取り出してメッセージアプリを開いた。
「メッセージ送信っと♪それでこっちはそんな感じで来ないんだけどさ。リュシカの方こそ今日は”我が国自慢の英雄”を連れてきてくれるんじゃなかったの?」
我が国自慢の英雄なんて一言も言ってないんだがな、とリュシカは苦笑した。
「あ〜、その予定だったんだが、どうやら英雄殿は更なる伝説を創りにいくようで邪魔出来なくてなぁ......」
練習終わりに友人と合わせたいと誘ったのだが実はこれから灼熱の巨龍と戦いに行くんだと断られてしまった。リュシカがその時の様子を説明するとルーミャは「また巨龍を倒しにいくのぉ⁉︎」と驚きながらも明らかに不満げな表情を浮かべた。
「それって隣国の殿下との食事よりも優先される事なの⁉しかも自国の公爵令嬢に誘われてぇ⁉あり得なくなぁい!ウチの国でそんなことしたら社会復帰できないよぉ!」
「まあ、私がルーミャに会わせると言わなかったのも悪いのだがーー、とはいえ、そうは言っても[ライジングサン]は極端な例であろう?」
特例だと言わんばかりのリュシカの言葉にルーミャは少々面白くなさそうな表情で眉根を寄せるのだった。
リュシカの言う[ライジングサン]はルーミャの先祖である[アマテラス]という女神が起こしたとされる獣人の国だ。
魔力を源とした魔法の才能が薄い変わりにそれぞれが動物的特徴を持ち、身体能力に優れ、更に”理力”と呼ばれる特殊な力を使った”妖術”を使用する獣人族が人口の約九割をしめている。
アードヤードから見て東に位置し、大陸続きでありながら西方を山に塞がれた陸の孤島を思わせる領土もあって他国とは全く異なった独自の文化が形成されている。
そんな他国との違いが様々な面に現れているライジングサンの中でも特に際立っている違いは女性の地位が尋常じゃなく高いことにある。例をあげるならばライジングサンでは要職の八割は女性が占めており、それをおかしく思う者はいない。
どころか産まれた時点での雌雄によって優劣をつけられ待遇に差が出るのが当たり前というお国柄であった。
そうなった理由には女神発祥の国であるからというのもあるのだが獣人男性ではどうしても覆せない獣人特有の理由があるからでーー。
思考を巡らせていたリュシカが苦笑するとルーミャはあからさまに不機嫌になって頬を膨らせた。
「ウチの国が極端って......他の国の方がおかしいんでしょ!大体さぁ、ウチらの国の成り立ちって殆ど女神由来じゃん?なのに男男ってあんたら何様よってぇ!私から言わせればぁ!」
リュシカはヒートアップし始めた彼女を見ながら地雷を踏んでおいてなんだが始まったか、と溜息を吐いた。
「遺伝子関連の学問が進んでる国の殿下の言葉とは思えんな。それを言えば仕方有るまい。我々人族の場合、遺伝子はYしか引き継がれないのだから。そして、Yが引き継がれたら男性が生まれるのだから。特に我らが貴族なんかは青い血が引き継がれなければ困るであろう?」
しかし、ルーミャは「でもでも」と早口で捲し立てる。
「その話じゃあ女神の血なんて三代もすれば終わってるじゃん!って話なんですけど!何そのYの遺伝子っ?女神に選ばれた幸運な男の遺伝子ってことぉ?劣化する遺伝子の癖にそんなんで威張れるなんて全く男って単純ねぇ〜」
ルーミャの国では文化的にも理論的にも理にかなっているものだから納得といかないのだろうが、その小馬鹿にしたような態度には流石のリュシカもムッとしてしまう。
「だから仕方がないと言っているだろう?青い血が途切れればその家は終わるのだから。大体、お前の家なんかが我が国の王家に来てみろ?次代は耳か尻尾が生えて乗っ取り完了ではないか?」
ついつい聞き分けのないルーミャに嫌味を零す。そして、その嫌味はルーミャを激高させるのに充分なものだった。
彼女は顔全体を真っ赤に染め上げると耳と尻尾を逆立てながらテーブルに両掌を叩きつけた。人族よりも遥かに身体能力の高い獣人の一撃にテーブルがグワンと撓んで乗っていた食器が飛び上がる。
ジュースやワインを入れた背の高いグラスが地震が来た時のようにグラグラと揺れて倒れかけた。
「そんな言い方してぇ‼︎なによ‼︎女神の系譜が継承されるんだから最高じゃない‼︎大体そんなこと言ったらリュシカの家なんか既に乗っ取り完了じゃん‼︎」
「ふん!四代前に嫁いで来ただけであろう‼︎それに男系継承しているから全く問題ないわ‼︎」
バチバチと理力を滾らせ憤怒の表情を浮かべるルーミャとそれを冷徹な視線で睨みつけるリュシカーー、どちらかが手を出せば一触即発と言っても過言ではない雰囲気だ。
既に怒りによって無意識で放たれている不可視の力がバチバチと音を立てて小競り合いを始めていた。
「......たく。もう良いであろう?寧ろお前の家が恵まれていたと考えれば良い。"獣系継承"で身体的特徴は母親のZしか引き継げないなんて神に愛されてるとしか思えないぞ?」
苛立たしげにドカリと座り、しかし、目を瞑って自分を落ち着けるようにそう言ったのはリュシカの方だった。
実際問題としてこれは単なる文化の違いであるところが大きい。他国に押しつけ国際問題になるようなことがなければ寛容に取組まなければならない話だ。
「それはそうだけど......」と少しだが落ち着きを取り戻したルーミャは何処か不満げであったものの溜息一つ吐いて席に腰を下ろした。
獣人特有の"遺伝子Z"における獣系継承。それがライジングサンにて女尊男卑を高める理由となっていた。
そもそも、Zという遺伝子が何を決めるのかというとそれは何の動物の特徴を持つ獣人であるか、である。
獣人といっても千差万別で犬もいれば猫もいる、鳥もいれば魚もいる。そんな人ならざる特徴を持った獣人において様々な交配が進んだ時に子供の種族を決めるのがZである。
そして、この遺伝子の最たる特徴は"母体となる母親の種族がそのまま子供に反映される"ということにある。
例を挙げるならば、Zの遺伝子情報が犬(y)犬(xz)の犬獣人男性と馬(xz)馬(xz)の馬獣人女性の間に子供が出来た場合、必ず、馬(xz)を持つ馬獣人が生まれるというものだ。
例えこれが猫(y)羊(xz)の羊獣人と犬(xz)馬(xz)の馬獣人女性との間の子供だとしても馬(xz)の馬獣人が産まれるのだ。
要するに男性は種族を減らし女性は種族を増やすことが出来るのである。古くは"滅びの性"と"産みの性"等と呼ばれる程に酷い扱いがあった程だ。
ただ、近年では人族など他種族との婚姻であれば男性獣人であっても特徴を引き継げることが解っており扱いも前ほどではなくなっている。それでも文化として強く根付いており、特に開国の祖である"アマテラスとアマテラスに仕えた五人の聖女"の末裔とされる一族の女性は生まれながらにして殿上人といった扱いであった。
「まあ、だからと言って女尊男卑はいかがと思うがな」
思考するがままに言葉を滑らせたリュシカだったが、その言葉に関しては特に気にした様子はなかった。
「それは仕方なくなぁい?種族的価値から見ても当然だし?それに、そっちだって男尊女卑でしょ?似たり寄ったりじゃん」
寧ろ、それが当たり前だと言わんばかりの態度にリュシカは悩ましげに思考を巡らせた。
「う〜む。私は生まれてこの方、性差別なんて感じたことはないんだがなぁ」
自身の人生が偶々そうであるとも言えなくはない。最上位の貴族の令嬢として生まれ、親に愛され、才能があるが故に我儘も許されている。無論しないが差別があったとしても受ける側ではなく、する側だ。
そう考え、少し自国を鑑みても職業選択や管理職の割合でも男女間では大差無い上、寧ろ問題にあがるのはカーストや学歴差別だろう。家庭に入れば奥というのを差別だという人間もいるがリュシカはそうは思わなかった。
彼女が両腕を組み、う〜む、と唸り声を挙げるのを見てルーミャは「だって」と呟く。
「能力を平等に見てるんだったらヤルギス公爵家の次期当主はリュシカじゃん?ウチの国だったらそうなってるはずだけど?」
それはルーミャにとって余りにも当たり前のことだ。否、誰が見てもそう言わざる負えない事実である。そして、それを示すのに相応しいこんなエピソードがあった。
近年アードヤード王国の人材は黄金期を迎えていた。数多の名家から黄金の卵が産まれたのである。今であれば、その中に平民上がりのエルフレッドと加わるだろうが以前よりとなると十人程に絞られる。
そして、その中でも特に名前が挙がる者が3名いる。
一人はレーベン=ライン=アードヤード。
身分の低い正妃の子であったがそれを払拭するかのような夥しい数の功績、獅子奮迅でありながら正確無比な働きと見る人を惹きつけてやまない容姿、そして共存するカリスマ性を持つ。そのような恵まれた存在ながら謙虚であり努力を怠らない未来を期待される王子である。
次にカーレス=ツヴァイ=ヤルギス。
稀代の天才で”軍神”と名高い現アードヤード王国軍総元帥ゼルヴィウス=ライン=ヤルギスと北方の聖国[グランラシア聖国]一の才色兼備と名高い第三王女蒹大聖女、メイリア=クラレンス=グランラシアとの間に産まれたヤルギス公爵家の嫡男でリュシカの実兄である彼は両親の良い所を総取りしたような存在である。文武に優れ、寡黙だが情に厚く、鋭く切れ長の目と歴戦の軍人を思わせる整った精悍な顔立ちが世の女性を魅了する。王太子殿下と同い年で親友の間柄、アードヤード王立学園を今年度卒業予定で既に王国軍最難関のエリートである[王国軍第一師団]への配属が決定している。
そして、最後に挙がるのがリュシカである。
ヤルギス公爵家の姫として生まれ天下一と呼ばれる才能と傾国の美女といって過言ではない美しさを持つ彼女は齢十六歳にして逸話がつきない。"歴代最高の王になりえるレーベン王太子を持ってしても過ぎたる者と諦めた""最高の才能を持つカーレスを持ってして女性として産まれたことを惜しまれた"などと、実しやかに語られている話であるがそれを当人達が事実として認めているという人物である。
それでいて野心がなく忠誠心の固まりの様な人柄で、しかし、余りに過ぎた存在に王妃にする事も出来ず王族の人々を大層悩ませた話は有名だ。
カチャリーー。
食事中には耳慣れない音にルーミャが目線を向ければ、それはリュシカが箸置きに箸を置いた音だった。よく見ればその手は震えている。そして、視線を戻せば彼女は俯いていて表情は伺えない。
「それは聞き捨てならんな。兄上は非常に優秀な方だ。私なんぞ及びようもない。それに優れた人格者でも有られる。いかにルーミャと言えど、そのような愚弄は許さんぞ」
無感情に思える程に冷たい声色だった。しかし、そこから伝わってくる感情は燃え上がる炎よりも激しい怒りである。
「えっと、確かにカーレス様は本当に優秀だけど......」
放たれる怒気に萎縮しながらもルーミャが言う。それも無理は無い。確かにヤルギス公爵家に産まれた二人は人智を超えた天才であるが二人の才に優劣をつけるとするならばーー。
「なんだ?ルーミャ、まさかお前ーー」
「兄上よりも私の方が当主に相応しいとでも言うまいな?」
「......ううん、そうは言わない。ただ勿体無いなって。その才能を生かせる方法が本当に無いのかなって」
そこまでの激情に当てられれば彼女もそう濁すことしか出来なかった。何より才能を見ればリュシカだが当主に相応しいのはどちらかと言えばカーレスとも言えなくはない。
俯向き悲しげな表情を浮かべるルーミャを眺めながらリュシカは箸を取ると天井を見上げた。
「お前が言わんとする事もわかるが、そもそも私はヤルギス公爵家を継いで自分の才能を生かしたいなんて野心を抱いたこともない。協力は惜しまんが当主という柄ではないのだろう。適任である兄上がこなしてくれて、私に自由をくれ、ヤルギス公爵家の”慣わし”さえも曲げてくれるのだ。これほど幸せなことはあるまい?」
得意気な表情で飄々とは言ってのけた彼女にルーミャはジトリとした視線をくれた。
「ホント、リュシカって乙女だよねぇ。そこまで自由に恋愛したいだなんてぇ」
「仕方あるまい。それが私の夢なのだから。愛し愛される相手くらい自分で決めたいものだろう?」
話は戻って困り果てた王族から頼まれた両親はリュシカが十歳の時に彼女自身どうしたいのかを確認するに至った。その当時の話を知る者曰く、彼女が望めばこの国で手に入るほぼ全ての職業のほぼ全てのポストが手に入る状態であったと言われている。
当時の彼女は長い髪を指に巻きつけながら、それはもう可愛らしく悩んだ挙げ句、両親に向けて真剣な表情でこう告げたのだった。
「私お母様やお父様みたいに幸せな結婚をしたい!相手を自分で選ぶ権利が欲しい!」
思わず表情を緩めた両親は半分親馬鹿な様相で王にそれを伝え「政略結婚は無し。リュシカ嬢の気持ちを尊重する。ヤルギス家においての王族との結婚も望んだ場合だけとする」という裁定を呆れながらに下したと言う。
素知らぬ顔で味噌汁を啜るリュシカ。態々大豆を醗酵させた物をスープにするなど変わった種族だな、と思っていたが一度飲んでみると中々に深く暖かな味わいだと味噌汁は彼女のお気に入りの一つでもあった。
「まあでも。そこまで言うリュシカが連れて来たがってた英雄さん。なんか気になって来ちゃったなぁ〜」
頬杖を付いて嫋やかに微笑むルーミャにリュシカは訝しげな表情を浮かべた。
「む?急に興味を持ちおって。なんだ?幾らお前の国の男の価値が"個の強さ"であったとしてもエルフレッドはやらんぞ?あいつは我が国の宝だからな」
「はぁ。何でそうなるかなぁ?別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ。そもそも会わせるって言ったのそっちじゃん......」
溜息を吐きながらぼやいていたが気を取り直した様子で表情を変えてーー。
「まっ、いいやぁ。どうせ、入学したら会えるんだしぃ。その時はちゃんと紹介してよぉ?何なら今日の件を謝ってもらうから」
「うむむ。紹介するのは構わんが謝罪云々はやめてくれ。さっきも言ったがお前に会わせるとは言っていない。寧ろ謝るべきは私だ。済まない」
申し訳なさそうな表情で軽く頭を下げるリュシカを見てルーミャは心底驚いた表情を浮かべた。
「う〜ん、そもそも自国の公爵令嬢の誘いを断るだけでもヤバいと思うんだけどなぁ〜。まあ、リュシカがそう言うなら紹介だけでもよろしくねぇ?」
リュシカはホッとした様子で表情を緩めるとこう言うのだった。
「ああ解った。その際はよろしく頼む」




