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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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6

 全国大会に向けてのトレーニングは大体週二回のペースで行われている。各々が課題をクリアしていく中で自身が強化されていくのを実感していた。そして、三回目の練習が終わった後の放課後、三年Sクラスのメンバーは第二層にある遮音魔法の掛かったミーティングルームへと集まっていた。


「各々やることがある中で集まってもらって申し訳ない。一度、各々が協力を仰いだ結果を共有しておきたいと思ってな。家の両親に関しては当然協力してくれることにはなったが機会を伺って本人に確認したいと思っているようだ。その反応自体は普通なのだろうがことがことなだけに難しいところだ」


 申し訳無さそうに告げたカーレスに対して、まずはラティナが結果について話し始める。


「御両親の気持ちは察するけども被害にあったことを本人が隠したがっていると思うと聞くのは得策ではないわよねぇ。叔母様に協力を仰いだら本来なら学園に伝えないといけないことらしいけど、とりあえずは秘密裏に動いてくれるみたい。事が事だから。ただ、ちょっと気になること言ってたのよねぇ......」


「......気になることとはなんだ?」


「いえね。叔母様が言うには妹さん、どうやら定期的に眠れていない様子があるらしいのよ。本人は上手く隠しているつもりみたいだけど隈とか出来てるのを化粧や表情で誤魔化しているだけだったみたいだから叔母様には隠せなかったみたいなの。一番酷い時に比べたら良いみたいだけど最近も余り良くないみたいでーー」


「あちゃ〜、やっぱりフラッシュバックも確定ってこと?まあ、そうなっても仕方ないのだろうけど......」


 若干辛そうな表情を見せるエルニシアに「それと他にもあるんだけど」とラティナは歯切れ悪く呟いた。


「その......私も叔母様に言われて気付いたんだけど。妹さんはフラッシュバックと戦ってると仮定して、どうして誰にも相談してないのかしら?」


「うん?どゆこと?酷い目にあってフラッシュバック起こしてるってことを家族に知られたくないって話じゃないの?レディキラーが捕まれば本人的には解決だし?過去の事を変な形で思い出したくないとかじゃなくて?」


 サンダースが不思議そうに問いかけるとラティナは「そうかもしれないけど......」と前置きした上でーー。


「あの事件からって考えたらもう四年は経つことになるじゃない?四年間も苦しんでまで隠したい理由って何なのかなって不思議に思ったのよね。確かに酷い目にあったのかもしれないけど、一応はオールクリア判定が出るくらいに回復していた訳じゃない?周りにお願いして捕まえてもらえるように協力を仰いだ方が本人的にも楽じゃないのかしらって」


「一理あるね。僕たちは今までトラウマが何なのか、どうしてあんな口調で喋るのか、解決策は何なのか、そこばかりに目がいっていたけど、そもそも言いたくない理由があるってことは見落としていたみたいだ」


「う〜ん。言われてみると確かに......逆に言えばそこさえわかってりゃあ別にコソコソこんなことしないでいいもんなぁ。本人から周りに警戒を頼めばもっと効果あるし、世界最強君も動かせそうじゃね?」


「それ聞いてるとそこが最重要になってくるよね。コルニトワ叔母様はリュシカちゃん来るのは大喜びだったから本人が嫌がっても協力してくれそうな感じだけどさ。神託については特に答えてくれなかったみたいだから私達で考えなきゃだし......となるとリュシカちゃん的には知られると困る何かがあるってこと?」


唸り声を挙げながら頭を悩ませる五人。しかし、当然といえば当然だが思い当たる節が全くない。


「ちょっとリュシカ嬢の情報を纏めてみよう。一応捜索網を広げてもらえるような話にはなってるけど本人が協力的ならばもっと色んな方法が出来るだろうから」


「そうだな。エルニシア。書記頼めるか?」


「もちのろんよ!どーんと任せなさ〜い!さあ、どんどん言ってみて!事件云々は整理済みよ!」


 エルニシアの言葉に皆がそれぞれ思考を始める。


「あ、妹ちゃんは世界最強君が好き!」


「おい」


「いや、一応情報じゃん!!」


「あーハイハイ、んじゃ一応書いとくけど、あんま馬鹿なことばっかり言ってるとしばくからね?」


 呆れた様子でノートにペンを走らせているエルニシアにラティナは小さく手を上げてーー。


「時期によって波があるけど眠れていなさそうって感じかしら?」


「それはあるね」


「将来の相手は自分で見つけたい、とか?」


「レーベン......お前まで」


「ご、ごめん。サンダースの言葉を聞いてたらそれしか出て来なくなって......」


 はぁ、とあからさまに溜息を吐いたエルニシアは一応といった様子でノートに記録する。


「原因の大元はレディキラーでほぼ間違いない」


「じゃあ、一応、本題書いてもらって人に言えない秘密がありそう」


「確かにそうねぇ.....他には?」


「う〜む。そう言えば母親がエルフの領土が見つかった時には大層調子を崩していたと言っていたな.....関係ないかもしれんが」


「う〜ん。まあ何が繋がるか解らないし、とりあえずね。時期がハッキリしてるの大きいし?そのくらいかな?うーん、何も繋がらないねぇ」


「そういえば闘技大会の次の日にデートしてなかったっけ?」


「本当にどうしたんだ?レーベン」


「いや、怒らないでよ!何が繋がるか解んないって話だったよね?いや、なんかすごく体調良さそうだったのが逆にムカついたとか言ってたし、一応体調関連かな?って」


「ふふふ、でもエルフレッド君と過ごすと体調良くなるって考えたら、もう婚約してもらった方が良いんじゃないかしら?」


 少し可笑しそうに笑うラティナに「今日は全体的に頭がおかしいのかもしれんな......」とカーレスは深く腰を下ろした。


「そう考えるとよぉ!もうあれじゃね?最強君と結婚出来なくなっちゃう〜的なヤツだったりしーー「サンダース帰り道は気を付けろよ?後ろから刺し貫かれる予定だからな」


 サンダースは顔を真っ青にしながら「ごめんごめん!今のはちょっとやり過ぎたって!真面目な時に冗談言って悪かったてぇ」と土下座でもする勢いで頭を下げていた。













「......え?そういうこと?」













 エルニシアが頭を抱えながら「いや......え......ちょっと......嘘だよね」と呟いた。ガタガタと震えながら顔色を真っ青にしている。あまりの状態の酷さに皆が言葉を失ってしまう。


「お、おい!エルニシア!どうした⁉︎というか、闘技大会の日みたいに名探偵モード入っちゃたのか⁉︎」


 サンダースが心配そうに問いかけるとエルニシアは青ざめた顔のまま、ゆっくりと皆の方へと顔を上げた。


「あ、あのさぁ。これちょっと確定的じゃないと言えないって言うか流石に間違ってたらじゃ済まないから。まずラティナ。悪いけどアマリエ先生にリュシカちゃんが体調悪かったのって四月頃じゃなかったか聞いてくれる?アプリで今すぐ......」


「わ、わかったわ」


「カーレス、私の携帯でメイリア様にリュシカちゃんお腹痛そうでしたけど大丈夫ですか?って聞いてもらっていい?ちょっと私、頭整理するから......」


「......わかった」


 すると五分もしない内にラティナとエルニシアの携帯端末が返信を告げる音を鳴らした。


「あ、叔母様曰く新しい祝日の前後だったハズだって......生徒が勲章貰った時と重なってたから記憶していたらしいわ。あと闘技大会の時も正直代表から外すか迷ったらしいけど実力的に外せなかったって......」


「......そうだよね......カーレス。返信は私が見るから。流石にデリケートすぎる......」


 無言で携帯端末を返したカーレス。エルニシアは返信を見て「やっぱりか......」と呟いて何事かを返信すると机に突っ伏してしまった。あまりに深刻な様子に皆は顔を見合わせていたが埒が開かないと焦れたサンダースが声を掛けた。


「お〜い、エルニシア。流石にここまで来たら言わないのは無理だろ?ここは復活してもらわねぇとーー「サンダース、あんた正解だわ」


 怪訝な表情で「はぁ?」と返したサンダースは自身の発言を思い出して「いやいやいやいや」と否定するように手を顔の前で振った。


「結婚出来なくなっちゃう、なんてそんな冗談じみた理由で黙ってられたら、こっちだって本当に困っちまうぞ?」


 流石に皆も怪訝な表情を浮かべているがサンダースの言い方が冗談じみた様子だったので軽い調子に感じてしまったのかもしれない。しかし、言葉の意味を反芻すれば実はかなり深刻な話であってーー。


「でも、それが答えなのよ‼︎ただ、その理由があまりにも絶望的すぎるってだけの話で‼︎」


 ダンッ‼︎と机を叩いて立ち上がったエルニシアに皆は静まり返った。エルニシアは「ごめん」と呟いてーー。


「もしかしたら、まだ希望が残ってるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない......ねえ、カーレス?」


「......なんだ?」




「リュシカちゃん、産婦人科とかに連れていける?」




 その言葉に皆は顔を見合わせながら表情を失わせていった。

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