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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 苛烈な打撃音と破壊された地面が飛び散る横でレーベンと対峙しているルーミャは申し訳なさそうに頭を下げた。


「レーベン王太子殿下。改めて先日は暴走状態にあったとはいえ大変申し訳御座いませんでした」


「ああ、ルーミャ殿下。気にしないでくれ。きっと私が挑発策などを取ったから気分を害してしまったというのもあるのだろう。すっかり良くなったようで安心したよーーしたんだけど......」


 レーベンが苦笑しながらプリントを眺めているのも無理はない。その内容はなんと”神化したルーミャとの戦闘”である。まだ暴走して一ヶ月ぐらいだというのにそれをトレーニングに組み込もうと考える辺りが無茶苦茶だと言わざるを得なかった。だが話しによると数分限定で正常な状態の維持が可能になっただけでなく、万が一暴走してもアーニャが入れば相殺にて止めることが出来るとのことだった。


 そして、これはアマリエとシラユキが話し合った結果だ。来年の闘技大会までにルーミャに神化の制御を成功させたいアマリエと早い内に神化を制御させて自身の後継者としての地位を確立したいシラユキとの考えが合致した形だ。無論アーニャがいつでも止めれる状態であることが前提のトレーニングであるが、カーレスと同じくらいの強さを持ちながら王太子殿下として冒険者になることが難しいレーベンにとってはある意味最適なトレーニングだと言えよう。


「前回のようにいきなり暴走することはもうなくなりました。とはいえ妾の今の限界は五分といったところでしょう。もしお使いになられる上級魔法が攻撃的なものでないのならば初めからお使い頂くことをオススメします」


「なるほどね。確かにあの破壊力を見ていると何の対策もなく剣術だけで戦うのは難しそうだから早速上級魔法を使わせてもらうことにするよ!」


 レーベンは右手で印を描いて上級樹魔法「ホールドユグドラシル」を唱えた。するとレーベンの背後に小さな世界樹が出現しする。この魔法は全能的能力値上昇とオールリヴァイヴァルを超える回復力を持つユグドラシルの苗木を生成する魔法だ。但し苗木自体に耐久力が有って破壊されると効能が消えてしまう点が欠点である。


 それを確認してルーミャは深い呼吸を一回、神炎の式を身に纏うとその姿を白の半神へと変えた。


「少しトラウマだけど......どうにかなってそうだね」


「はい!妾も今は高揚感くらいで全く問題ありません!話す時間が勿体無いので早速行きますよ!」


「そうだね!前回のリベンジだ!」


 レーベンが剣を抜いて走り始める。そして、それに応えるようにルーミャも足のバネを使って飛び掛かった。




 ラティナとの近接戦闘に付き合いながらエルフレッドは少し思考を巡らせていた。無論、それはラティナに関することである。小回りの利くトンファーで一、二、三と拳を打ち込んでハイキックを二発、バックブロー、膝蹴り、中段回し蹴りと繋げたコンビネーションで攻める彼女の連撃を大剣での受けと体捌きで躱しながら、まずは近距離転移をお覚えてもらうのが良さそうだと考えた。


 受けが上手に決まり攻勢へと転じたエルフレッドが大剣で十を描くような斬撃を放って風の刃で牽制を掛けると彼女は少し跳ぶようして距離をあけた後に軽やかにステップを踏んだ。


「大剣使い相手に近距離戦であれだけ攻撃してるのに一発も攻撃を当てられないなんてショックだわ......」


「結構ギリギリですよ?それにあまりこういう言い方はしたくないですが自分に攻撃当てれたら結構凄い強さだと思います」


 苦笑しながら告げるエルフレッドの言葉に彼女はエイネンティア公爵家が得意とする重力魔法を唱えながら動きを更に軽やかにしてーー。


「じゃあ、まずはその結構凄いを狙ってみるわ!」


 彼女がフワリと距離を詰めてくる。そして更に印を書いてエルフレッドへ放つ。


「[フォールグラビティ]‼︎」


 中級重魔法ファールグラビティは相手単体に掛かる重力の重さを変換する魔法だ。より重力が掛かる状態にするならば三倍、軽くして吹っ飛ばしたい場合は四分の一倍まで調節出来る。当然、エルフレッドに対しては遠慮している場合ではないので初めから三倍の重力を掛けている。


「ーー何でいつも通り動けるのかしら⁉︎」


 攻撃しながらラティナが驚愕した。当然ラティナのスピードが上がった分は攻撃を避ける速度を上げる必要はあるが三倍の重力が掛かっても尚エルフレッドを捉えるのは難しい。彼は「効いてないわけではないですよ?」と微笑んだ上で上下にコンビネーションを打ち分けてくるラティナの攻撃を大剣で受け流す。


「方法は色々ありますが今やっているのは風の魔力で重くなった分だけ補助しています。ずっと魔力を使って相殺することも出来ますが、それだと魔力の効率が悪いので......」


「......そこまで精密にコントロール出来るものなのかしら?世界一は伊達ではないってことね」


 右、左とフック気味にパンチを伸ばしてハイキック、そのまま足を上げてカカト落とし、避けられたとわかった瞬間に落した足を引きながら足刀、受けに出された大剣を蹴ってサマーソルト。着地後、飛び掛かってデンプシー気味にパンチを二発。大剣の振り下ろしを左に避けた彼女は空いた側頭部にハイキックを伸ばした。


 パシッ‼︎


「......お見事です」


 それはエルフレッドの左腕にガードされているが魔力操作で障壁が張れないーー振り下ろした大剣で防ぐことも出来ない一撃であった。相手は重力操作で威力を上げていたので頭を守っただけのそれは左腕に軽度ながらクリーンヒットのダメージを与えている。


「これだけ打って一発のクリーンヒットで褒められるのは正直言って複雑だわ。それに攻撃に関しては相当手加減されているみたいだから......」


「それでも冒険者で言えばC上位からB下位には届きます。十分すぎる戦力です」


 自身の腕に回復魔法を掛けながらエルフレッドは肩を竦めた。


「......アードヤード王国軍に入れるかしら?」


「一般兵の戦闘力はCランク下位相当だと言われています。スカウトが居れば問題ないでしょう。それにしても女性憧れのブルーローズ宮殿を蹴ってまで軍人になりたいなんて少し不思議です」


 ラティナは「そうよね」と微笑んでーー。


「お母様は嫌がるでしょうけど私の憧れは叔母様だから......勿論、家族仲は良いのだけど夢と家族って別の話じゃない?」


「そうですね。それにアマリエ先生が憧れならば仕方ありません」


 女性軍人が少ない訳ではないが選ばれる人間はやはり恵まれた体格をしている人が多い。その中でアマリエは一般女性の平均より少し低いくらいである。軍人女性の中だと頭一つ分は低いかもしれない。そんなハンデを物ともせず隊長格を勤めているのだから憧れる者が現れるのも当たり前だ。


「そうでしょう?それに体格面では私の方が恵まれているわ。全国大会に残らなければブルーローズに甘んじただろうけど棚ぼたでも残ったのだから私はそれを掴むつもりだわ」


 実際に戦ってみて思ったことだが彼女が万全の状態だったならばアルベルトを圧勝することが出来ただろう。場合によってはイムジャンヌ以上で一番実力が拮抗しているのはアーニャである。そう考えると今回の選出はある意味順当であそこで落とされていたことの方が運が悪かったようにも思える。


「良いですね。夢を追う人間は嫌いじゃないですよ?自分も協力は惜しみません」


「ふふふ、それは嬉しいわ。世界最強が指導してくれるなんて何物にも代え難いチャンスですもの!」


 本当に嬉しそうに笑うラティナを見ていると今回はこれで良かったのかもしれないなと感じるエルフレッドだった。




「作戦名、半神と半神(かみとかみ)発動ミャア‼︎」




 ルーミャと同じ白になって飛び出したアーニャを見ながら「......なんか危ない上にどうやら駄目だったようだ」とエルフレッドは冷や汗を垂らした。


「あのエルフレッド君。多分あれ貴方のこと呼んでるわ?」


 お互いの手をガッチリ握りあって押し合いをしている二人の内、アーニャが何やらチラチラとエルフレッドの方を見ているのが感じ取れた。


「......本当ですね。とりあえず行ってみます」


 相殺に関して、どうして自身が必要なのかは全く解らなかったがトレーニングを任された身として状況確認は必要だろう。とりあえず、ラティナ先輩へと個人練習の指示を出したエルフレッドは未だに押し合い圧し合いを続けている二人の方へとその足を速めたのだった。

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