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「そうですね。アマリエ先生曰く、魔法戦闘部の部長をされている時はもっと強かったとのことでしたので戦い方的に魔力に依存されているのかと......そこら辺を加味してトレーニングを組み立てようと思います。全国大会からはローテーションも採用されるので個々の実力把握は必須です」
アルベルト戦では良いところを出す前に倒されたラティナだったがアマリエが顧問を務める魔法戦闘部で部長をしていた実績はかなり期待できるといってもよい。無論、それでも決勝戦の様子で切り捨てようとしたアマリエは流石といえるがルーミャが出れなかった以上、繰り上がりであっても戦力に数えれるようにする必要があるだろう。
「わかったわ。折角落ちてきたチャンスですから拾えるように頑張るわ」
そして、自身が一番相応しくなかったことなど既に把握済みのラティナからすればこのチャンスは降って湧いたようなものだ。掴めるかどうかは彼女の頑張り次第である。しかしながら、ブルーローズ宮殿が事実上内定しながらアマリエと同じような軍人としての道を掴みたいなどという夢は非常にエルフレッド好みではあったが異端と言わざるを得ない。エイネンティア公爵家の血が成せる技なのだろうか?アマリエはかなり特殊と聞いていたがーー。
「今日はあくまでも実力把握なので気張り過ぎないようにお願いします」
エルフレッドは彼女がその言葉に真剣な表情で頷いている様子に真面目すぎる先輩だから少し心配だなぁと感じていた。
「あ〜、エルフレッド殿」
「カーレス先輩いかがなさいましたか?」
「いや、このトレーニングとは言えないトレーニングはどういうことなのかと思ってな?」
エルフレッドはカーレスとリュシカの紙を見直しながら妙な点がないのを確認すると少し首を傾げてーー。
「カーレス先輩とリュシカに関しては足りないのは実戦経験のみという判断ですので全国大会までに冒険者ランクBを目指して日々ギルドに行ってもらいます。特に不思議な点はないと思いますが......」
「いや、不思議もないも何も俺だけならば解るがリュシカに冒険者の真似事をさせる訳にはいかん。何かあったらどうするつもりだ?」
「良いではないか兄上!私達が強くなるにはそれしかないというのは先生の判断なのだろう?エルフレッドに言ってもしかがないではないか!」
「お前は本当に解っているのか?命を奪い合うのだぞ?生半可な気持ちでは出来ない。それに令嬢に必要な技能とも思えない」
売り言葉に買い言葉で口喧嘩の様相を取り始めた二人にアルベルトが声を上げた。
「お、落ち着いて下さい!安全に関しては最大限考慮させて頂きます。エルフレッド君ではありませんが一応世界最高峰の実力者が助っ人に来ますので......」
「世界最高峰の実力者?そのような人間がそうそう力を貸してくれるのか?エルフレッド殿は例外みたいなものだろう?」
訝しげな表情でカーレスが告げると「Sランク依頼の護衛としての報酬と僕の人生を捧げることでもぎ取りました」と哀愁漂う表情でアルベルトが告げた。
「......人生を捧げる?」
その言葉に反応したのはリュシカの方だ。文字通り人生を賭けて望んでいる生徒もいるだろうが基本は学生同士の戦闘大会である。それに出場もしない友人の人生を賭けさせるとは何事かという剣呑な表情を浮かべ始めた彼女に対してエルフレッドは苦笑しながらーー。
「アルベルトのこれは戸惑っているというか照れ隠しみたいなものだ。大体アルベルトも満更ではなかっただろう?でなければ、あんなに甲斐甲斐しく面倒を見たりはしないハズだ」
「......最近、思うんだけどさ。エルフレッド。君はもしかして最初からこうなることが解ってて僕に作戦を実行させてたんじゃないの?」
「......さあな。俺は神じゃないから人の気持ちは解らん」
「その妙な間が答えだよね?」
周りが置いていかれてる中でコントのようなテンポで掛け合いを始めた二人である。しかし、その言葉は転移と共に現れた人物によって掻き消された。
「やっほ〜!ダーリン、エルフレッド君準備出来たよ〜!」
トンガリ帽子にマントーー魔女の基本的な外装に変わりはないが整っているとはいえ普段無頓着なハズのメイクや専門的な所で整えられた髪型と中から覗くセクシーな服装はこれからデートにでも行くような服装である。そして、そのセクシーな胸元には"御来賓"の札とネックレスに掛けられたシルバーのリングが輝いていた。
「メ、メルトニアさん。その、皆も見てるし、外でダーリンっていうのは......特に学園内はちょっとーー「え〜良くな〜い!それよりも今日はダーリンに可愛いって言って欲しくて頑張ってお洒落したんだけど〜どうかな〜?」
アルベルトは詰め寄られ顔を真っ赤にしながら普段は全く見えない糸目から瞳を覗かせて焦っている。興味津々に瞳を輝かて何事かを根掘り葉掘り聞きたそうにウズウズしているリュシカの後ろ、それを見ていた他の女性陣は鼻から変な息が抜けるのを感じながら思いを一つにした。
確かに満更じゃねぇな、と。
「......ということでカーレス先輩とリュシカの助っ人はアルベルト・メルトニア夫妻にお願いしていますーー「なに言ってるのエルフレッド君⁉︎まだ婚約‼︎婚約だから‼︎」
「や〜ん!将来を誓い合ってるからって夫妻だなんて〜!」
とても嬉しそうに身を捩っているメルトニアにリュシカが鼻息を荒くしながら「馴れ初めは?好きになったきっかけは?」と喰らいついている。そして、そのまま自然な流れでギルドに向かい始めた彼女達ーー。
「う〜んと闘技大会の日に気になって〜、次の日にカフェで意気投合して〜、その夜からダーリンが家庭的な部分を面倒見てくれてーー」
「ほほう!通い妻ならぬ通い夫なのですね!」
「通い夫って何⁉︎というかメルトニアさん、本日から護衛するのヤルギス公爵家のご兄妹って伝えたよね⁉︎失礼ないようにってエルフレッド君もーー」
「ハハハ。ウチのリュシカも他人の恋愛ごとなどに興味があるのだなぁ。凄く女の子らしくて微笑ましいなぁ」
わちゃわちゃとしている前三人の少し後ろを他言語を覚えたての海外の人のような変な笑い声を上げながら付いていくカーレスを見送ったあと、今までずっと無言を貫いていたレーベン王太子殿下が頬を掻きながら言った。
「......とりあえずあっちは上手くいきそうだから説明を続けてもらってもいいかな?」
「勿論です。レーベン王太子殿下」
妙な雰囲気のギルド組に視線を奪われていたエルフレッドだったがレーベンの言葉を聞いて咳払いを一つ。何事もなかったかのようにプリントに視線を戻して続きを話し始めた。
○●○●
それぞれプリント通りのメニューへと取り掛かる。闘技大会で使われていた闘技場でエルフレッドとラティナがドンパチしている。その横の控室のベンチのところでサンダースとアーニャは精神戦略系の勉強をしていた。
「サンダース先輩はとても人を揺さぶるのが上手ですミャア。でも、もっともっと相手の心にダメージを与えるような感じでいって欲しいですミャア」
「う〜んダメージ系かぁ......因みにアーニャ殿下ならどうするの?」
アーニャは立ち上がり拳を固めるとシュッシュッとワンツーをして見せてーー。
「これでもし今から殴るミャア。っと言ってもあんまり怖くないですミャア。なので何時、何を、何で、どうするか。というのを具体的にしてもらうと良いと考えますミャア」
彼女はニコッとした笑顔を浮かべてサンダースに近づくと彼の耳元でこう囁いた。
「今からここでお前の鼻を妾の右手がグシャグシャに叩き潰すミャア」
そして、クルッと背を向けて席に戻りーー。
「こんな感じで相手が思わず恐怖するような具体的な感じにしてもらいたいとーー「そうだね!凄く解りやすかったけどさ!俺もう鼻をグシャグシャに潰されるんじゃないかって思ったよ‼︎」
「ふふふ、具体的にって言ったのはサンダース先輩ミャア♪おかしな事を言う先輩ですミャア♪」
バサリと開いた扇子で口元を隠しながら楽しげに笑うアーニャを見てサンダースは溜息を漏らした。
「アーニャ殿下って普段からそんな感じ?つうか、本当良い性格してらっしゃる」
「九尾にとっては褒め言葉ミャ!それではトレーニングを続けるミャ♪」
心底楽しそうにーー実際、尻尾がゆらゆらと揺れてるから楽しいのだろう。心の中でも弄り甲斐のある先輩だと喜んでいる色が見えている。
(俺、性格が悪くなっちゃいそう......)
猫目のフィアンセに心の中で謝っていると「ルーナシャお姉様のことを考えている場合じゃないですミャ‼︎」とアーニャから檄が飛ぶ。
「何で解るの⁉︎もしかしてホーデンハイドみたいにーー「妾の場合はあくまでも確率と取捨選択ですニャ。因みに今先輩がルーナシャお姉様のことを考えていた可能性は九十六%でしたミャア」
無限に思える確率とその中の取捨選択で今起こっている事象をほぼ正確に理解する力ーー。
「実はアーニャ殿下が最もチートじゃねぇ?」
思わず呟いたサンダースに「チートはエルフレッドですミャ!いいからサッサとトレーニングしますミャア......」と呆れた様子で呟くアーニャだった。




