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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 放課後になり早速第二層のカフェへと繰り出したエルフレッドとアルベルトは下町特有の活気がある熱を帯びた市場に辺りを見回した。


「ここら辺は本当に凄い活気に溢れているよね」


「全くだ。男爵子息の頃などは王都と言えばこの辺りのことだったのだがな」


「ハハハ。そう考えると君はとても出世したみたいだね」


「まあ、今では伯爵子息だからな。そうかもしれん」


 果物屋の女性が威勢の良い声を挙げて、それに負けないように魚屋の男性が声を挙げている。その隣では焼き鳥を焼いている男性が「安いよ安いよ!」と客寄せの声を挙げていた。エルフレッド達はそれぞれ買い食いしながら少し腹を満たして目的地である小洒落たカフェへと入っていく。


「いらっしゃいませ!二名様ですか!」


「はい。そうです。すぐに入れますか?」


「カウンター席であれば入れます。いかがなさいますか?」


「大丈夫だよね?......じゃあ、そこでお願いします」


 こういった場なら特に席など気にしないエルフレッドはレジでコーヒーとサンドイッチを頼んでアルベルトの後を追う。そして、席に座ると軽く背伸びをして先に席に座っていたカフェラテを飲んでいたアルベルトへと声を掛けた。


「それでメルトニアさんがどうしたんだ?」


「う〜ん、何から話したらいいか解らないのだけど......メルトニアさんの生い立ちとか知ってることを聞いても大丈夫かな?」


「生い立ち?まあ良いだろう......」


 その辺りは本人に聞いても教えてくれるだろうが彼女はどこか茶目っ気に溢れた性格をしているので変な風にはぐらかされたのかも知れない。エルフレッドは知ってる限りと言われたので彼女の生まれから聞いている話すことにした。


「メルトニアさんは孤児院育ちで生まれは本人も知らない。魔法の才能に気づいたのは五歳の頃でそれを使って小遣い稼ぎをしながら孤児院を助ける生活をしていた。孤児院を出たのは十三の時で金銭援助のみは今でも続けているそうだ」


「結構大変生活をしていたんだね。それで?」


「冒険者をしながら魔法研究に没頭する生活を始めた。十六の時にアードヤード王立学園に入ったが魔法研究の時間が減るのが嫌になって自主退学。魔法研究に使える魔物を倒しながら魔法研究に没頭していたところ気づいたらSランクになっていたそうだ。まあ、筋金入りの魔女だな」


「そうなんだ。だからなのかな?少し家に招かれたんだけど食事とかお茶とか、とても人間が食べているような物ではなくてね。家政婦は絶対必要だと思ったよ」


「......家に呼ばれたのか?」


「うん。元々はカフェで話してたんだけど魔法の話で意気投合知っちゃってさ。遅くなりそうだからって連れてってもらったんだけど......まあ、魔法では綺麗にはしてるんだろうけど、それ以前に書物とか謎の呪術道具とかで足の踏み場もなくてね。仕方ないから片付けして料理作ったりしたんだ」


 エルフレッドは何となくだがアルベルトが困っていることが解ってきた。アルベルトはオールマイティーを素でいく人間である。その料理の腕や片付けのスキルはメルトニアをとても感動させたことだろう。


「住み込みでの弟子でも頼まれたのか?」


「そうだね。下手したら学園辞めされられるレベルで」


「それは......大変だな」


「そうなんだよねぇ。こうやって話してるけど今日もこの後に夜ご飯作りに行くことになってるよ。無理矢理前金つかまされちゃったしね。弱ったなぁ......」


そういってベイクドチーズケーキにフォークを刺している彼の姿を見ると困惑しているといったところか?しかし、言うほど嫌そうではなさそうだ。


「まあ、学園卒業までは我慢して欲しいところだな。その後は仕事次第か......」


「そこが難しいのだけど......流石にSランク冒険者の弟子止まりじゃ親も納得しないんだよね。とはいえ冒険者というのは正直僕には向かないし......学者や研究職に就くのが一番なんだけど......」


「なるほど。そうなって来ると意外にもメルトニアさんの弟子という仕事自体はアルベルトに向いているのか。ただ役職もない肩書きもないような職業だと親が納得しないと?」


「そうだね。父は貴族ではないけど世界政府内での役職を考えれば侯爵くらいには権力がある。母は元々騎士爵の娘だけど世界政府の研究所で働いていたエリートだから......きっと僕にはある程度の役職を得て、出来れば貴族の娘でも娶って欲しいと思ってるんじゃないかなぁ」


 世界政府の研究所は世界的に見ても最上位の研究機関である。その狭き門を潜ったエリート志向の強いエリートならば息子にそのくらいのことを求めても不思議ではないだろう。


「現実的に見て打開案が見当たらないのが難しいところだな。逆に言えばメルトニアさんの魔法研究はそれほどまでに魅力的ってことか?」


「......そうなんだよね。今まで見たことない術式ばかりで独自性が高いから多分他の所だったら学べないんだ。それに今回の全国大会の選抜に選ばれなかったことで気付いたんだけど来年度とか再来年度とか、またクラス代表に選ばれるのなら、あそこで学ぶのが一番何だよね。それに何というか、あそこまで酷い食生活見せられるとほっとけないというか......」


 その言葉を聞いたエルフレッドは少し過去の出来事に思いを馳せていた。何かの折にSランク冒険者とエルフレッドで集まったことがあった。こういう集まりには来ないジャノバも来ていたので印象深かったのだが遅れて来たメルトニアが余りにも酷い状態だった。窶れこけて今にも倒れそうな状態でボロボロの服にとりあえずのマントを羽織ったという出で立ちである。


 とんでもない魔物が現れて襲撃されたのではないかといった状態だったが彼女の第一声に皆が耳を疑った。


「......家に、大きな蜘蛛がいるんだけど、焼いたら食べれるかな......」


 とりあえず出来る限り身綺麗にさせて庶民的な居酒屋で食べれるだけのご飯を食べさせて話を聞いたところーーとても高価な研究素体を購入してお金がなくなった。そのことに気付かないまま依頼もなかったのでずっと研究していたら電気が止まって、水道もガスも止まって、携帯端末も止まっていた。カビたパンに浄化魔法かけながら食べていたがそれも無くなり、カレンダーの赤丸で今日の飲み会を思い出してどうにか雑草を食べて生きていた。こんな状態だから魔力あっても戦えないし下手したら餓死しそうだったから蜘蛛食べれないかなってーー。


 その時は皆でお金をカンパしてして帰らせたのだが話を聞く限りだと今度は食べれる物なら何でも食べるみたいな方向に進化してしまったらしい。


「......そんなに酷かったのか?」


「僕は人の食生活には文句はつけない方だと思ってたけど、自生していたヨモギを炒ったお茶と何処で取ったか解らない馬鹿でかい蛙が出てきた時はちょっと言葉を失ったかな?しかも、それ客人用だから。普段、何食べてるんだろうね......」


 それを聞いてエルフレッドが言葉を失っていると「どうみても食用じゃない蛙切り始めたから、お腹壊しますよ!寄生虫とか怖いですよ!って注意したら蛙ってどの蛙でも焼いたら食べれるんじゃないの〜⁉︎だから、この前お腹痛かったんだ〜って笑っててSランク冒険者なのに......ってなんか凄く悲しくなったよ」


元来、Sランク冒険者の報酬などは普通の人間では使い切れるものではないのだが、メルトニアとジャノバに関しては使い切ってしまうことがある。しかし、ジャノバは皇帝の弟の法衣貴族で名誉だけの大公の為に何もしなくてもお金が入ってくるのだが、メルトニアは訳の分からない魔法研究品を買ってお金を使う上に貴族を断っている平民のため副収入もない。


 アルベルトの言う独自性の高い魔術をいくつか世に出せば特許で生きていけそうなものだが自身が頭で考えているものが完成した時点で満足してしまう天才なので世に出そうという考えがない。その上、普段は人を家に招くことがないためアドバイスのしようがない。

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