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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(中)
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23

 それから十秒くらい時が止まったような静寂に包まれた。


「え、え?嘘!あんな可愛い娘に好かれて恋愛感情抱かないなんて、そ、そんなことありえるのかしら?」


「現実そうなんだよねぇ」


「あ、あれ?ちょっと待って、えっと、じゃあ、フェルミナちゃんとリュシカちゃんの問題って二人がエルフレッド君を取り合ったってだけ?こう両方に気があるような感じを醸し出していたとか色を好む系って訳じゃなくって?」


「行動の部分は知らねぇけど......感情見てると単純に妹と女友達みたいな?」


 エルニシアは頭を抑えながら「うわ、切ない、それめっちゃ切ない!」と天を仰いだ。


「ふむ。なるほど、エルフレッドはああ見えて女性だったのか。ハハハ、俺としたことがとんだ杞憂だったなーー「カーレス⁉︎落ち着いて!妹馬鹿が行き過ぎてただの馬鹿になってるよ⁉︎」


 カーレスが遠い空を見ながら笑っている姿を見てレーベンが両肩を掴んで正気を取り戻そうと揺すっている。その混沌とした状況の中でラティナは少し冷静になった頭を抑えながら呻くような声でサンダースに確認する。


「少し私達の視野が狭くなっていたのは解ったけど、その予兆みたいなものが零という訳ではないのよね?あの長く近くに居過ぎて異性と思えないとか、こう完全に終わってしまってる恋愛小説の幼馴染みたいなーー」


「......ラティナ。あんたどんな小説読んでるのよ。というかそうよ!簡単に言えば私らみたいな関係よ!仲はいいけど恋愛感情全くないみたいな!」


 サンダースは「ああ、俺とエルニシアみたいな感じね?」と笑ってーー。


「それに比べたらほんのりマシかな?英雄様が少し周りを見てみようって気になってるし友達といえど一番仲良さそうなのは妹ちゃんっぽいから。まあ、でも、ここで変な方に転ぶとそうなり兼ねない可能性もあるから、そっとした方が良さそうなんだよねぇ」


「逆に邪魔をするなら今ということかーー「カーレス。それ本当に嫌われるヤツだから絶対やめた方がいいよ?」




「三年Sクラスの皆様。そろそろ集まって頂いてもいいでしょうか?」




「というわけで最後に爆弾落しといてあれだけど闘技場向かおうぜぇ!詳しい話はまた後日!散‼︎」













○●○●













 慌ただしく闘技場へと出てきた三年Sクラスが整列したことで表彰式が始まった。正直な所、客席に戻った生徒からすれば拍手をする意外特にやることはない上に完全な観客扱いなので基本的に自由であった。


「いや〜、有名人と知り合いばっかで驚いたけどめっちゃ息抜きになったよ♪エルちん♪」


「そうか、ならよかった。こちらも色々解決したから助かった。明日の舞台は楽しみにしている」


 エルフレッドが微笑むと「わ〜い♪招待で友達呼んだの初めてだから嬉しい♪そして、リュシカ様も来るから最高♪」と万歳を繰り返していたノノワールだったが突然ハッとしたように真顔になると彼の方を振り向いてーー。


「てかさ、今更気付いたんだけどさ」


「なんだ?」


「一番の有名人ってエルちんじゃね?」


「......俺自身にはそんな自覚は一切ないと言っておく」


 彼女は少し思考した後に「まあ、良いか〜♪んじゃ私舞台の練習あるから早退するね♪バイビー♪」と手を振って闘技場の外へと消えていった。騒がしくもあったが中々に面白い奴だったな。とエルフレッドは微笑んだ。会場を見れば一年Sクラスに準優勝のメダルが授与されるところだった。エルフレッドはクラスメイトの健闘を讃え惜しみない拍手を送るのだった。




 表彰式も終わり急いで観客席へと向かったヤルギス兄妹は事案発生の可能性があるクレイランド帝国の正妃殿下様を見つけて声を掛ける。


「叔母様‼︎」


「あ、カーレス君とリュシカちゃん‼︎遊びに来たよ!」


 手を振るアーテルディアの横でコルニトワはゆっくりと手を振っている。


「アーテルディア様。来て頂いたのは大変嬉しいのですが、そのコルニトワ叔母様は来られても大丈夫だったのでしょうか?」


 カーレスがアーテルディアに対して慌てた様子で声を掛けると彼女は少し首を傾げてーー。


「え?流石にノンアポで来てないでしょ!だって私の訪問決まってから二週間も時間あったんだよ?許可取る暇くらいはあったし!ねぇ?お義姉ちゃん」


 アーテルディアが笑いかけるとコルニトワは首を傾げる。


「あ、あの叔母様。許可は取られましたよね?」


 リュシカが聞くとコルニトワは反対側に首を傾げた。コルニトワ以外がダラダラと冷や汗をかくなかコルニトワが口を開いた。


「......我が子に会いに来た......後、依頼がある......」


 依頼と聞いて皆が胸を撫で下ろした。どうやら、この国に来る予定があっての行動らしい。ならば流石にノンアポは無いだろう。そうこうしている間に突如ヒシッと抱きしめられたリュシカは「もう、叔母様ったら」と言いながら頬を緩めている。


「叔母様。依頼というのはどういった要件なのでしょう?」


 依頼と聞いて少し安心したがまだ完全には安心しきれていないカーレスが訊ねると彼女は頷いてーー。


「......巨龍退治の依頼......ユーネリウス様に来て欲しい......」


「ああ、エルフレッドですか。今日の夜に準優勝祝いのホームパーティーで会う用事があるので伝えておきますね!」


 リュシカが笑い始めるとコルニトワは頷いてリュシカに頬擦りを始めた。


「ハハッ‼︎擽ったいですよ‼︎叔母様〜‼︎」


 相変わらず妹に対するスキンシップが激しいな、と思いながらカーレスが苦笑していると誰かの携帯端末が鳴る音がした。すると婚約者であるアーテルディアがポケットから携帯電話を取り出してーー。


「なに?お兄ちゃん?私、アードヤードだけど......えっ?いや、知らないもなにも今隣に......あ、うん。なんかユーネリウス様に巨龍退治の依頼に来たって......あ、え、嘘、私、どうしたらいいの⁉︎」


 何やら雲行きが怪しくなって来た会話を聴きながら皆が再度コルニトワへと視線を送った。すると彼女はやはり不思議そうに首を傾げるだけだった。


「あ、あの叔母様、依頼と言われていましたが誰からの依頼なのでしょうか?」


 リュシカが恐る恐ると言った様子で訊ねるとコルニトワは極々当たり前と言った様子で告げた。


「......ユーネ=マリア様......」


「そうですよね‼︎そうだと思いました‼︎因みに皇帝陛下には言いました⁉︎」


「......言ってない......」


「どうしてですか?叔母様‼︎」


 カーレスが大慌てで詰め寄ると彼女は不思議そうに首を傾げた。


「......陛下より神様の方が偉いから......」


「偉いですとも‼︎偉いでしょうけども‼︎」


「と、とりあえず、今日はヤルギス公爵邸にお世話になる予定になってるから連れて行こう‼︎明日の早朝には上手いこと連れて帰れるようにお兄ちゃんがするって言ってたから、それまで待機で‼︎」


 切れた携帯端末をポケットにしまいながらアーテルディアが告げる。


「とりあえずだが、リュシカはクレイランドの巨龍退治の件をよろしく頼む!」


「わかった!詳細は後日ということで伝えておく!......あ、叔母様、私、ユーネリウス様のところに行って来ますので離してもらってもーー」


「......いや.......」


 首を横に振るコルニトワにカーレスは頭を抑えながらーー。


「急に我儘言わないで下さい‼︎......連れて帰る?連れて帰れません‼︎見た目が幼いから外聞はどうにかなってますけど中身は良い歳した大人なんですから、そういうの止めてください!......意地悪?意地悪じゃありません‼︎」


「あはは、どうしようかなぁ。ヤルギス邸に着くまでにバレたら密航を補助したとかで身柄拘束されたりするのかなぁ......」


「アーテルディア様、お気を確かに‼︎」


 ヒシッとリュシカを抱きしめながらブンブン首を横に振っているコルニトワを前に三者三様の反応を見せるリュシカ達だった。

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