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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(中)
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「エルフレッドく〜ん!君に恨みはないミャア。でも君に勝ったら、罰の期間を半分にするってシラユキ様から言われてるからニャア!だから本気でやらせてもらうミャア!」


「ふむ。本日が初めましてだな、エルフレッド伯爵子息殿。妻からは非常に真面目な青年だと聞いている。しかし、どうやら異質な存在なのか君は少し浮いているようだ」


 巫山戯た戦いに終始していたエドガー・メルトニア組とは違い、初めからやる気満々の二人にエルフレッドは困惑気味の表情を浮かべた。


「お初にお目にかかります。アハトマン侯爵閣下。私も本日までは自身がこの様な扱いを受けていると知りませんでした。そして、コガラシ王配殿下。殿下の都合は解りませんが戦うからには勝利する気で戦わせて頂きます」


「なるほど。まあ良い。私としても一度闘ってみたいと思っていたのだ。よろしく頼む」


 軍人らしい隙のない構えを見せるアハトマンに対して、コガラシはダランと脱力した様子で身を屈めた。


「娘たちから聞いてるミャア。油断も遠慮も無しでいくミャア‼︎」


 ジャッキンと爪を尖らせて準備万端な様子を見せる彼に「お父様〜!プライドをへし折ってやってくださいミャア!」とアーニャからいつも通りの野次が飛んだ。深呼吸を一つ。大剣を構えて闘気を滾らせたエルフレッドは相対している二人の隙を探る。そして、ジリジリと距離を詰めてあと少しで大剣の間合いというところでコガラシが飛びかかってきた。


 爪による攻撃を左右三発、合わせるようにアハトマンがハイキックを三発。エルフレッドはそれを後方に下がる体捌きで躱しながら障壁を合わせて大剣を振るう。二対一の基本は一対一の時間を作ることだが難しい場合は距離を詰めさせないように立ち回ることが先決だ。特に自身の大剣のリーチを考えれば横払いの攻撃で距離を稼ぎながら魔法で牽制を打って期を待つのが良いだろう。


 しかし、そう考えての行動だが即席のコンビにしては妙に息が合ってるように感じる。互いの距離を上手く使ってタイミングとテンポよく攻め立ててくる様があまりにも()()()()()


 回転斬りを含めた左右の払いや牽制の風の刃などを打ち出しながら距離を測っているとアハトマンがずいっと前に出てきた。そしてワンツーからの足払いのコンビネーションをガードしている隙に顔の側面を叩いたコガラシのハイキックで唇の端を切られたエルフレッドは「お父様!その調子ミャア!」と手を振るアーニャに親指を立てるコガラシを見ながら笑う。


「ここまでのコンビネーション。即席ではありませんね」


 アハトマンの袖から飛び出したサバイバルナイフを大剣で弾いて前蹴りを一つ。よろけたアハトマンからウインドフェザーで距離をとったエルフレッドが万の羽根を掃射する。それを左右に別れて避けた二人が笑った。


「殿下、早速バレてしまいましたな?もう二十年振りとはいえ動きは忘れないものです」


「全くミャア。立場が変わってよそよそしくなってしまったけど、今でも一緒に戦った五年の月日は忘れないのミャア!」


 片やSランク冒険者で片や陸軍大佐だった頃ーー、軍務系の依頼を期に意気投合した二人は様々な魔物退治でコンビを組んで戦った。コガラシが王配殿下になってから交流自体は極端に減ったが、こうして組めばまだまだ戦えるものだと二人は感じている。


「流石にこれは自分でも厳しいかもしれません」


 珍しく弱気な発言をしたエルフレッド。しかし、その表情はとても楽しげな色が浮かんでいた。


「しかし、それでこそ戦う意味があるというものです!」


 エルフレッドは再度ウインドフェザーを纏って空を飛翔ーーアーニャのように上空からの剣撃で襲いかかる。


「ハハハ、人数が不利ならば地の利を取るということか。素晴らしい判断だ。故に私達もより戦略的に戦わねばなるまい。殿下五・二五でいきましょう。FIRE‼︎」


「お、ワイバーンの時の作戦ミャア!面白いミャア!」


 アハトマンは自身が得意とする地属性魔法の中級地魔法[ストーンエッジ]を空に打ち出し、上空から大剣で攻撃をしているエルフレッドに回避行動を取らせる。そして、胸元からベレッタm92式の魔法銃を取り出すと撃ち込んだ。ダンダンダンと小気味好く飛び出す魔力の弾丸をエルフレッドが弾いていると四足歩行で気配を消しながら近づいていたコガラシが彼の真下から飛び上がった。


「虎猫流爪術「翔三日月」‼︎」


 強烈な陰の気を纏った理力の塊が打ち出され空に浮かぶ三日月の形でエルフレッドに襲い掛かった。反って避けた胸元を軽くスー割いて鮮血が飛び出すのを感じながらエルフレッドは飛び上がったコガラシへと旋回、背面から大剣で払う。猫らしい柔軟性でそれを体を捻って薄皮一枚で躱したコガラシが上手く地面へと着地。アハトマンはグレイブを伸ばしてベレッタで牽制しながらコガラシを逃した。


「助かったミャア」


「いえ、五・二五は中々体を張ってもらいますからね。しかし、あそこで斬撃を当てられるとは衰えましたか?」


「馬鹿言うミャア‼︎あのエルフレッド君のスピードが異常なだけニャア!全く......次は三−二−三かミャア?」


「良いですね!確かに彼の飛翔はブレイドイーグルのようです!」


 旋回、大剣での攻撃、ウインドフェザーでの牽制を繰り返していたエルフレッドに多少疲れが見え始める。無論スタミナは十分だろうが、これはどちらかというと精神的な疲れだと言えよう。玉粒の様な汗を垂らしながら張り詰めた戦場さながらの緊張感に笑みを漏らしてエルフレッドは前試合同様にリミットブレイクを唱える。


「それでは三時の方向より制圧開始致します!」


「了解ミャア!んじゃ九時の方向から制圧するミャ‼︎」


「十!」「二!」


 エルフレッドは徐々に狭まっていく空域に頬を釣り上げる。飛翔、高速旋回、牽制ーー。一時的に空域を広げることは可能だが相手は実際の鳥を相手にしただけはあるようで上手く誘導されている。


「十一!」「一!」


 ならば、覚悟を決めた方が良いだろう。どうせエキシビションマッチの時間などは殆ど残っていないのだろうからーー。


「「零!」」


エルフレッドが突撃した。コガラシの爪を大剣で受けてアハトマンの眼前には魔力の籠もった左手が向けられている。腹への中段蹴りは障壁で受けているがアハトマンのナイフはエルフレッドの頸動脈を捉えていた。




「エキシビションマッチ‼︎終了の時間です!判定はーー引き分け!」




だろうなと内心呟きながらエルフレッドは大剣をしまって地面へと降りた。


「とても勉強になりました。ありがとうございます」


 頭を下げるとアハトマンは握手を差し出してーー。


「いや、気にすることはない。そして、君は素晴らしい戦闘技術を有しているようだ。仕事に困るようなことがあれば軍部に来るといい」


 その手を両手で取りながら「開発に追われる辺境領主が仕事に困ることはなさそうです」と苦笑した。


「アハトマンとならいけるかもと思ったんだけどミャア〜。龍殺しの英雄は伊達じゃないミャア。我が国の巨龍もよろしく頼むニャア♪」


 やはり、差し出された握手を両手で取って「来年の夏休みにはと考えております」と微笑んだ。


「それでは素晴らしい戦闘を見せて下さった皆様に拍手を‼︎」


 多方面から湧き上がった拍手に安堵の息を吐きながら一年Sクラス側のベンチへと向かうエルフレッド。そのまま転移して逃げたら面倒なことになるのは確実であった。どちらが話が通じそうかを判断した結果である。

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