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十の紅と白がぶつかりあう。会場の地面が跡形も無く吹き飛んで土が焼けて石が溶けていく。見えるのは紅白の線と爆発のみ。その状況を放送席から眺めていた放送部員は目をこらしたり擦ったりした後に言った。
「悔しいですが目の前で何が起こっているのか私には実況することが出来ません‼︎ただ言えるのはこの夥しい数の大爆発を引き起こしているのが二人の人間の衝突であるということだけです‼︎」
「本当、破壊と再生とはよく言ったものだね。しかし、学生レベルでここまで高度な魔法戦が行われるなんて早々有り得ないというか、既に闘技場は原型を留めてないというかーー。流石ヤルギス兄妹だよね」
最早、ただのクレーターと化している闘技場を眺めながらジン先生は乾いた笑みを零した。
「ジン先生!これがカーレス選手が反則枠と言われる所以でしょうか?」
「そうだね。もしかしたらルーミャ選手とも打ち合えるかもと密かに思っていたくらいの魔法だから。まあ、リュシカ選手の魔法を見ていると一年Sクラスの大将ってやっぱりこうなるんだなぁって感想になるんだけど......」
斬り合い、打ち合い、魔法合戦と高度な戦いが行われているのだが、常人に見えるのは高速で動く線と爆発だ。
「なんとなく言いたいことは解ります‼︎こうなって来ると両者ともベンチの声など聞こえてないように思いますがいかがでしょうか?」
実際、チームメイトが何か口々に言っているが二人が耳を貸している様子はない。思い思いのまま二人は攻撃を放っている。
「まず聞こえてないだろうね。視界も魔法一色。相手しか見えてないだろうし、こうなってくると魔力が尽きるのが早いのは何方かということになりそうかな?でも、魔法相性的にはカーレス選手が有利と言わざる負えないなぁ。魔力量半分がやはり心配だけど」
「やはり、回復するという部分が肝なのでしょうか?」
ジン先生は顎をさすりながら「回復と言うか再生なんだけど」と呟いてーー。
「君の言うことで予々正解ではあるけども補足すると全能力が上がっている上に再生のついたオールリヴァイヴァルに対してレーヴァンテインは圧倒的破壊力のみ。ファイアウェポンの進化系みたいな感じ。無論、その圧倒的破壊力はオールリヴァイヴァルの上をいくんだろうけど、あの爆発の中で消耗していくのはレーヴァンテイン側が早いだろうね」
放送部の生徒は少し不思議そうな顔をして「では何故リュシカ選手はレーヴァンテインを選んだのでしょう?」と疑問を投げた。ジン先生は少し唸り声を上げながら思考した後に「ハッキリとは言えないけど」と前置きしてーー。
「単純に習得難度の問題じゃないかな。オールリヴァイヴァルの方が遥かに習得が難しいからね。あと考えられるのは発動時の超回復に魅力を感じたとか?オールリヴァイヴァルは徐々に再生するって感じだけどレーヴァンテインは発動時の一回に限ってはどんな怪我でも一瞬で回復出来るしーー」
そう解説していたジン先生が突然言葉を止めた。放送部員が会場に目をやると先程まで起こっていた爆発の嵐が止まっていたのだ。
「なるほど‼︎そうこう行っている間に大爆発で包まれた会場ですが、どうやら勝負があったようです‼︎立っているのはーー」
「全く我が妹ながら無茶苦茶するな。本当に......」
呆れた様子で語りかけるカーレスにリュシカは笑ってーー。
「良い作戦であろう?レーヴァンテインの破壊力と聖女の回復魔法。この組み合わせならばオールリヴァイヴァルよりも戦えると思ったのだ」
カーレスは溜め息を吐いて手に持った槍を突き出した。
「経験の差だな。今回は俺の勝ちだ」
リュシカは苦笑して曲刀を鞘にしまった。
「まさか、魔力の総量が半分の兄上に負けるとは完敗だ」
その瞬間、会場から両者を讃える拍手と三年Sクラスの生徒の泣き笑うような大歓声が響いた。
聖女の力とレーヴァンテインの組み合わせーー。それは短期決戦に非常に向いた方法であった。そして、カーレスの魔力が半分だと聞いて、この作戦でいけると確信した。しかし、実際には考えていた以上の戦闘技術の差で想像以上にダメージを回復する必要が出て来てしまい魔力を想定以上に使ってしまう結果となった。
カーレスの言う通りで単純に戦闘における経験の差が出た結果だった。
「立てるか?」
「勿論。それに帰るまでが闘技大会だ。敵の手は借りん‼︎」
悔しそうに手を払って立ち上がったリュシカは背を向けるとスタスタと足早でベンチの方へと向かって行く。いつの間にか戻っていたアルベルトやアマリエに声を掛けられたリュシカが腕で目元を擦っているのが見えてカーレスは苦笑した。そんな彼女をイムジャンヌが抱きしめ、医務室帰りのアーシャが更に包み込んで、アマリエ先生がその頭を撫でている。
「だから言ったろう?悔しさに泣くのはお前の方だと」
呟いて自身のベンチへと戻っていくカーレスはフラリと眩んだ視界に頭を抑えた。オールリヴァイヴァルの魔法は強力な回復と強化、そして覚醒だ。その覚醒能力は使いすぎれば身体を蝕む。余裕の残る勝利に見せておいて実のところは試合後のダメージはカーレスの方が酷かった。
「カーレス君らしくない無茶な戦い方をするわね」
いつの間にか戻ってきたラティナが苦笑して出迎えた。
「ま、妹ちゃんが無茶苦茶し過ぎてってのもあったけどなぁ。お疲れさん!」
ハイタッチを構えたサンダースと手を合わせて苦笑する。
「まさか一年生で上級魔法使ってくるとは思わなかったから仕方ないだろう?」
「というかさぁ!あそこまでドンパチしてたら私の声聞こえないじゃん!せめてセコンドで頑張ろうと思ってたのに!まっ、勝ったから良いけどね。お疲れ様!」
「ああ。なんだかんだエルニシアには助けられたぞ?ありがとう」
エルニシアは照れ臭そうに頭を掻いて「流石、従兄弟‼︎良くわかってるじゃん♪」と微笑んだ。
「全く。それにしても、あんなに楽しげな戦闘になるなら僕もボロボロにされる前に上級魔法使えば良かったなぁ。一矢報いれたかもしれないし」
どこか拗ねた様子で告げるレーベンを見ながらカーレスは肩を竦めてーー。
「まあ、可能性はあったが今更だな」
「まっ、そうだけど。最後のあれ見たら不完全燃焼だよ」
そう言ってカーレスの姿を真似るように肩を竦めて笑って見せた。
「とりあえず勝利おめでとう。んじゃ、表彰終わったらやることやろっか!」
「そうだな。とりあえず叔母様には帰ってもらってーー「ここでなんと重大発表です‼︎」
重大発表?と首を傾げた皆は突如現れた魔法で作られたモニターに視線をやった。
「今日の大会に感動した招待席の方々が、その健闘を讃えてエキシビジョンマッチを行ってくれるそうです!決勝戦を戦った生徒はなんとそれをベンチから見る権利が与えられます!」
カーレス達は正直微妙だなと顔を見合わせた。無論、普段は見ることの出来ないような最上位の戦いを見ることが出来るのはありがたいことだがこちらとしてはやることが山程ある。今日じゃなければ本当に喜んだところだがーー。
「更にアハトマン陸軍元帥・コガラシ王配殿下チームが三年Sクラス側、メルトニア選手・エドガー選手が一年Sクラス側のベンチに向かいます。そこで十分間の交流をする権利が与えられますので、この機会を存分に活かして下さい‼︎」
羨ましさに数多の生徒が声を挙げる中ーーコガラシ王配殿下がこちらのベンチ側と聞いて娘との接触を禁止にでもされたのだろうか?とカーレスは苦笑する。
「そして、エキシビジョンマッチの対戦相手はこの男‼︎なんと招待席を指差して”あの中の二人なら勝てる”と彼が不敵な笑みを浮かべたことで、このエキシビジョンマッチの開催が決まりました‼︎」
それを聞いたカーレスは苛立たしげな表情を浮かべた。こちらは少しでも早く帰りたいというのにそんな傍迷惑かつ命知らずの発言をした馬鹿は何処のどいつだ?寧ろ俺が消してやろうか?と剣呑な雰囲気を醸し始めた時だった。
「ーー余計なことをしたのは貴様か!」
カーレスが怒って血管を切るのも無理はない。それは彼がよく知る人物だったからだ。迷惑そうな顔で横の女生徒に指に着いたきな粉をなすりつけられている人物は自分の姿が映し出されたことに気づくと溜息を吐いた。
「一年Sクラス‼︎エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュル選手!竜殺しの英雄がまさかの参戦だぁ‼︎」
モニターに映し出された人物ーー、エルフレッドは面倒なことになったと頭を搔くのだった。




