表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
10/457

8

 グレイオス火山はアードヤード王国南方に位置する島にある活火山であり、飛空挺の定期便を乗り継いでニ日、フェリーに乗り換えて船中泊一日で到着する。活火山を有するために島民は殆ど居ないが溶岩に囲まれていても問題なく生活できる蜥蜴の獣人であるサラマンド族の集落やフーリ活火山研究所の存在から観光を目的とした人々の出入りは多い。


 そして、七大巨龍の存在やそれに挑んだ嘗ての冒険者達、更にはそのガルブレイオスを”刺し違えて”倒したとされるサラマンド族の英雄[グレイオス=ラスタバン]の宝があると言われていることから腕に自信のある冒険者達にとっての探索スポットとしても有名であり、この島は一定の賑いを見せていた。


「ここかーー」


 その島の渡船場から歩いて十分もないところにフーリ活火山研究所は立っていた。規模は大きいが飾り気のない灰色の長方形の建物を見ているとこの建物を依頼した人物の嗜好が伺える。


「突然失礼致します。私、冒険者ギルドより許可を得て伺った冒険者ですが、只今お時間よろしいでしょうか?」


「冒険者?まあいいか。許可証を見せて貰っても?」


 胡乱げな者を見るような表情を浮かべていた門番に許可証を渡す。


「......ふむ、火山火口付近の許可証......こんな危ない物が通る訳が......えっ⁉︎特Sランクのエルフレッドって⁉︎」


 そういって驚いた門番は小さな詰所内に向かって走り出すと内線を掛け始めた後に大慌てで戻って来てーー。


「大変失礼しました!許可については問題ないようですが所長がお会いしたいと申してましてーー」


「かしこまりました。あまり時間は取れませんが、それでも問題無いようでしたらとお伝えください」


「わ、わかりましたーー」


 そう言って再度内線へと駆け出した門番を見ながらエルフレッドはため息をついた。正直なところ所長と話す時間さえも時間の無駄だと感じていたが、そういった礼儀を通さないといけない立場である。高位冒険者版ノブレス・オブリージュとでも言おうか?その中でも特別な立場にいるので致し方ない。


 しかし、冒険者とは元来、自由な存在な筈では?と貴族の嫡男としての将来が確定しているエルフレッドはそう思わざるを得なかった。


「お待たせいたしました!只今より担当の者が案内に参りますので少々お待ちください!」


「かしこまりました」


 そう言いながらエルフレッドは今回の会談が有益なものであるよう祈るのばかりだった。












○●○●













 事務員に案内され所長室のソファーに座っていたエルフレッドは用意されたお茶を飲みながら辺りを見回した。


 化学の発展に対する貢献を表す数々の賞状やトロフィーを眺めていると比較的新しい年月日の物に地熱と土属性魔法を利用した発電に関する論文を評価する症状の横に見目麗しくーー、しかし、そのことを全く気にしていない風体の女性の写真が飾ってあるのを見て少し驚いた。


([グレン=マーガレット所長]。なるほど、この方が所長なのかーー)


 彼個人としては性差別などは最も悪習だと考えているが、残念なことにアードヤードでは今だに家庭面での格差は如実である。魔法という特異な力を考えれば男女の差などあってないようなものだが、なまじ貴族がいるせいか”奥を守ってもらう”という考えが根付いている。勿論、騎士や政治など活躍する女性が増えてきているために少なくなってきている面はあるが零ではない。


 全く関係ない冒険者であってもそんなことを言う馬鹿がいるくらいだ。そう考えた時にそういった柵を越えての所長であると考えると素直に尊敬する。無論それが普通になるのが一番だが現状はそうではない訳なのだからーー。


(まあ、化学者などからすれば特に合理的ではないと考えたのかもしれんないな)


 理論で考えて合理性を重んじる人々からすれば、そんな区分は最も下らないだろう。得意不得意は有っても上下はない問題だ。


「いやぁ!待たせてしまって申し訳ない!流石に人前に出る格好ではないと部下に怒られてしまってね!私は待たせるよりはそのままで行った方が良いといったのだが......」


 少し申し訳なさそうな表情で現れたヨレヨレの白衣を着たグレン=マーガレット所長は申し訳程度に髪をまとめ薄い化粧をした出立である。これでマシな格好ならば、どんな格好で現れようとしたか気になるエルフレッドだったが表情には出さず口を開いた。


「いえ、お気になさらず。そして、こうしてお会いできたことを嬉しく感じておりますが、急を要しておりまして出来れば要件を伺ってもよろしいでしょうか?」


 すると彼女は顎に手をやってーー。


「ふむ......こういう風に来ても動揺の一つもなく相手を立ててお伺いを立てるか......」


 そう言って彼女は整えていた表情を飄々としたものに変えた。


「ハハ、申し訳ない。少し思うところがあってね。しかし、君はなかなか良い教育を受けてるようだ。そうだね、お詫びに私の婿にしてあげよう!どうだろうか!」


 エルフレッドは彼女の真似をするように顎に手をやると表情を整えて見せる。


「そうなりますと、まず両家にお伺いをたてる必要がありますね。現状は子爵位ではありますが元平民の当家が由緒ある男爵家の令嬢を貰い受けるとなりますとーー」


「ハハハッ‼︎君は堅物という訳じゃ無いのだね!そして、頭も良い!」


「母に軽口もジョークも男性の嗜みと言われております」


 そう答えると彼女は大層満足げな表情で言った。


「了解了解!なるほど、それは良い教育じゃなくて”イイ”教育だ!さて、エルフレッド君。改めて私が所長のグレン=マーガレットだ。......あっ、大丈夫だ!君の自己紹介は大丈夫!有名人だしね!」


 そう言って彼女は向かい側に座るとニコッと笑った。


「まずは君の不安を解消しようじゃないか?まあ、私とて伊達に研究職で所長をしているわけではない。自分で言うのもあれだが頭も良いという訳さ!そうだね、まずは君が此処に来た理由を推測しようかな?まあ、此処は誰が考えても解るけどガルブレイオスを倒しに来たという訳だね?」


「そうですね。倒しに来たというより挑戦しに来たという感覚ですが」


「なるほどね!中々に謙虚なことだ!しかし、君の行動は大胆だ!今日から六日経つと君が通うであろうアードヤード王立学園の入学式だ!此処に来るまでに約三日掛かることを考えるに君は十日間の予定を考えた!その内訳は移動三、所用一、探索三、討伐三!君は転移が使えるだろうから、これでいけると考えたのだろう!」


 エルフレッドは素直に驚いて感心する。


「よくお解りで学園の入学式までーー」


「まっ、そこは私の母校でもあるから解るところでもあるんだけどね!やっぱり、ここにも優秀な卒業生が来て欲しいからさ!チェックはかかせないよ!」


 彼女はニカっと笑い人差し指を立てた。


「話を戻して私は自信がない工程は探索の三と考えた!所用時間を考えながらも焦りを見せたことを考えるに三日では見つからない可能性を考えている......って、本来は討伐に不安を持つところだけどね!ジュライを倒したのは知ってるけど灼熱の巨龍を三日で倒せるのかい?君は風属性だろう?そもそも巨龍を倒すこと自体がありえないのだけど」


「......想定通りであれば」


 その答えに彼女は心底楽しいと言わんばかりに大笑いした。


「そこが本当に大胆且つ自信家なとこだよ!んで、私が君の不安を解消できると考えたのは他でもない、我々はガルブレイオスの位置を把握している!当然だろう?我々の研究において最も障害になる存在だ!よって探索の三は零になる!」


「なるほど。確かにそれであれば焦る必要はありません」


 エルフレッドが頷くと彼女は再度顎に手をやって云々と頷いた。


「そうだろう、そうだろう!そして、さっきも言ったがガルブレイオスは我々の研究において最も邪魔な存在だ!故に君が退治してくれることに力を貸すのは当然のことさ!利害の一致というやつだ!」


 そこまで確りと順序立てて説明頂ければこちらとしては不満はない。寧ろタイムリミットまでにガルブレイオスが見つからずに挑戦出来ずに帰る羽目になる可能性が無くなったのは僥倖と言える。となればーー。


「こちらの不安は解消出来ました。寧ろ探す手間が省けて有難い限りです。それで、そうまでしてグレン所長が時間を作った理由をお伺いしても良いでしょうか?」


 その様子に彼女は満足げな表情を浮かべた。


「理解が早くて好感が持てる。まあ、そうだな。大きく分けて三つお願いしたい。まずは探索の三を削った代わりに所用を二にして欲しい。理由は三つの中の一つなので説明させて頂く。そして、二つ目はガルブレイオス討伐後、その素体を我々の研究所に譲って欲しいのだ。無論、君が使う素材優先で構わないし、こちらもそれなりの金額は出させて頂く。そして、三つ目なのだが......」


 今までの明朗さとは打って変わって言い淀む様子の彼女は顎に手をやりながらブツブツと「法的な拘束力がある訳ではないが......」「論理的な話とも言い難いが.....」などと言い訳をしていたがいつまでもそうしている訳にはいかないと思ったのだろう。漸くこちらに視線をくれたかと思えば苦笑いを浮かべながらこう告げた。




「ガルブレイオス討伐についてサラマンド族の族長と会ってもらうことになる。決定事項になるが如何だろうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ