壊された日常
「そう言えば、相棒の装具はまだ引っ込んじまってんのか?」
城内を歩きながら、相棒は尋ねてくる。
「まだ応えてくんねえ、これじゃ眠り姫みてえだ。」
「装具に性別があんなら、相棒にゃ一生答えてくんねえだろうさ!」
「余計なお世話だ。それより、もう少しで着くぞ。気ィ引き締めろ。」
「あいよ」
相棒は短く答えると、さっきまでの巫山戯た態度から真面目な態度へと切り替えた。
(こういう所が女にモテんのかねぇ〜。)
と少し考えたが俺も気を引き締めた。
「アルモニア王国騎士団一番隊副隊長ソー・フォルス。ただいま参りました。」
「同じく、アルモニア王国騎士団一番隊副隊長ライン・エフォール。ただいま参りました。」
「ご苦労であった、二人共。他のものは下がるが良い、この場は我々だけにしてほしい。」
国王がそういうと周りにいた召使い達は皆出ていった。
今この場にいるのは、見える限りでは俺と相棒と国王と一人のエルフの女性だけ。
「国王様の後ろに隠れているのはどなたでしょうか。私が予測するに、魔王様では?」
オレがそういうと国王は
「はぁ...、つまらんなぁ。せっかく驚かせてやろうと隠れてもらっていたというのに。出てきて良いぞ、アべル。」
「相変わらず気配だけで分かるとは、流石の一言よのぉ。こんな騎士がいるとはあの件も上手くいくやもしれんぞ、カイン。」
笑顔で出てきたのは魔人を統べる魔王、アベル・アンテリジェン。
俺達の世界では、魔物が現れた時に純人類も魔人も獣人も等しく人類種であり、共に戦うものであると受け入れた。
中には純人類だけが特別だとするレジスタンスもいるが、人類種の1割にも満たない。
「ソー、ライン。堅苦しいのはやめて昔のようにしてくれ。俺はお前達の親みたいなものだ。」
「そうだ。お前達が俺達二人に拾われてからもう20年も経つ。あの頃からお前達は俺達の息子みたいなもんだ。」
俺達二人は、小さい頃に親に捨てられ、会合帰りの二人に拾われた。
でも、特別扱いはして欲しくなくて、騎士学校もコネではなく実力で合格し卒業した。
元々二人共、特別扱いをするつもりはなかったらしいが、貴族のお坊ちゃん方には変な勘繰りをする奴もいる。
そういうのを黙らせるためにも俺ら二人は必死に努力した。
「分かったよ、親父。ソーも堅苦しいのはやめにしようぜ?」
「俺はお前と違って立場は弁えるタイプなんでな。それでアベル様、カイン様、今日はどのようなご用件で?」
「...ソーは昔っからそんなんだったな。ラインのように切り替える事も大事だぞ?」
「余計なお世話です。それよりもご用件を。そこで放置されている方が不憫です。」
「あぁ、彼女はお前の装具が発現しなくなった原因を調べるための学者さんだ。」
「初めまして、私、装具について研究しているソーランドと申します。」
「彼女とはしばらく一緒に過ごしてくれ。原因とその解決方が分かるまでな。」
「良かったな、ソー。初の同棲だ。」
「失礼だろ、ライン。それにお前も同じ部屋なんだ、お前にとっても初の同棲だろ?」
「...その話はもうやめにしよう。不毛すぎる。」
「だな。」
「それで用件はなんだったんだよ、親父。ソーランドさん紹介して終わりじゃないだろ?あの件ってのが本題だな?」
「あぁ、そのことなんだが...」
とカイン様が言おうとした瞬間
「て、敵襲!!敵襲!!」
「敵襲!?まさかあやつらが...。攻めてきているのは魔物か!人か!」
「それが、攻めてきているのは...」
「ひどいなぁ、この僕を魔物と一緒にするなんて。」
敵襲を知らせに来た兵士は後ろから見覚えのある剣によって貫かれてしまった。
幼い頃に誰もが憧れた、あの剣に。
「そんな!!どうして勇者様が!?」
「相棒!!それよりも早く国王様と魔王様、ソーランドさんを安全な場所に!!」
「ならん!!ソーとラインは二人を連れて逃げよ!ここは私が相手をする!!」
「国王様!!あなたに亡くなられては困ります!!お逃げください!!」
「良いから行くのだ!!今お前達二人に死なれては困る!!事情はアベルに聞け!!これは勅令だ!!」
「なんでもいいけどさぁ!!僕を前にして、逃げれると思ってるの?ただの人間風情が、勇者である僕に叶うとでも?」
「ソー、ライン!今は退け!カインの思いを無駄にするな!!」
「アベルの言う通りだ。ここは意地でも通さん!!装具、展開!!!」
最後に見た親父の装具は、いつもより、輝いて見えた。
「親父ぃぃぃぃぃ!!!」
俺達は親父の装具が放つ輝きを背に受けながら、走り続けた。
その日、王国は陥落し、レジスタンスに占拠された。




