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8.新しいお部屋と妖魔の正体

 玄関前に着くとすでにアマテラスと涼子は談笑しながら真羅を待っていた。

 楽しそうにお喋りする姿がどこにでもいる女子二人組のようで、ここが妖魔対策室であることを一瞬忘れそうになる。


「お待たせしました」


「ではお部屋にご案内いたします」


 玄関を抜け、涼子に案内されるままに着いていく。

 2分程歩いたところで涼子は立ち止まって、ホテルのようなデザイナーズマンションを指さす。


「着きました。これです」


「ち、近っ!!」


 あまりの近さに率直な驚嘆の感想を述べた真羅。

 近いだけでなく建物も立派な面構えをしている。

 この千代田区という都内の中心にそびえ立つ高級そうなマンション。

 購入すればいくらになるのか真羅には皆目見当もつかない。

 自分がいままで普通に働いていたら多分一生住めることはなかっただろう。そう思いながら真羅は建物を見つめた。


 建物に入ると大理石の床にアンティークの家具が置かれた立派なエントランスがお出迎えする。

 いままで映画とかでしか見たことない雰囲気に真羅は圧倒されながら到着したエレベーターに乗り込む。

 2階に到着すると二つある扉の左側を涼子がカードキーを使って開けた。ちなみに右の部屋はアマテラスの部屋である。

 室内は24畳の広いリビングに8畳の部屋が3部屋もある。

 もちろんキッチン、バス、トイレも完備でおしゃれな家具付きと実に至れり尽くせりである。


「アマテラスってこんなところから会社に通ってたのか?」


「そうですよ? まあ私はそんなに住む場所にこだわらなのですが、もう少し、あと20畳くらい広ければ嬉しいんですけどね~」


 ――これ以上広くてなにするんだよ! 野菜でも栽培するのか!? まったく神様ってやつは……。

 到底理解できない神の戯言に真羅は苦笑いする。

 実家は貧乏というわかではなかったが、そこまで広い家でもない。

 ましてや大学の時からワンルームで住食していた真羅にとってはこの部屋は広すぎるまであった。

 

「涼子さん、本当にこんなとこに俺住んでいいのか?」


「まあ真羅さんも神御柱ですからね。不本意ながら粗末に扱うわけにはいかないのですよ」


「おい、不本意ってどうゆうことだよ」


「あら、本音が出てしまいました。おほほ! お気になさらず」


 わざとらしく笑って真羅をからかう涼子。

 渋面を浮かべる真羅を見る顔は実に幸せそうである。

 満足したのか涼子は、『さてっ』と手を叩く。


「お荷物の方は後程来ますので、今日はしっかり休んで明日からの訓練に備えていただければと思います。そう言えば朝ご飯もまだですよね? っと言ってももうお昼ですがいかがされますか?」


「俺は眠いから部屋で寝るよ。アマテラスはどうするんだ?」


「私はやることがありますので真羅くんはお休みください」


「では真羅さん何かありましたら室内の電話をおかけください。直接私に繋がるようになっておりますので。あとちなみに食堂は一階にあります。無料ですので是非ご利用ください」


「了解ですー。ではおやすみなさい」


 涼子から部屋のカードキーを受け取り、一人となった室内で真羅はベッドに倒れこむと数秒後には寝息を立てていた。



「さて、真羅さんにはいつお伝えになるのですか?」


「うぅ〜。いつ伝えればいいんですかね? 涼子さん」


「そ、そこは私に聞かれても……。このうどんうまっ!!」


 アマテラスと涼子は真羅と別れた後、食堂で昼食を食べていた。

 涼子のトレーには食堂自慢の讃岐うどん。アマテラスのトレーにはカレーが乗っている。

 机に体を預け、前傾姿勢でうなだれるアマテラスとは裏腹に針のように姿勢よく、うどんをすする涼子。


「妖魔が実は憑依された人間だって知ったら真羅くんすごく悩みそうですよね……ぅう」

 

 アマテラスが悩んでいたこと、それは戦うべき相手が妖魔に憑依された人間ということである。

 正確には妖魔に憑依された別世界の人間であり、この千年戦争では必然的に二つの世界の人間が殺し合う運命が決まっているのだ。


 こちらの世界の神御柱の人間と同様、もう一つの世界では妖魔を纏うことのできる人間がいる。

 彼らのことは神御柱の対なる存在として魔御柱まのみはしらと呼ばれている。


 こちらの世界の人間ともう一つの世界の人間は基本的には同じ人体構造をしている。ただこちらの世界の人間と大きく違うことが2つある。心臓が2つあること、血液が黒色をしていることの2点だ。


 そして神と妖魔も大きく特徴は異なる。

 神器化つまり武器化して力を発揮する神とは違い妖魔は魔御柱に憑依、つまり肉体を共有することで力を発揮する性質があるのだ。


「まあ避けては通れない道なので早めには伝えたほうがいいかと。たまたま今日の餓鬼は全身憑依されてたので疑わなかったと思いますが、部分憑依でしたら人間ってすぐわかってしまいますからね」


「そうですよねー。他の神御柱の方々はどうやって乗り越えたんですかね?」


「んーそうですね。獅童さんと美代ちゃんは……参考にならないと思いますが、彰吾さんならいいアドバイスがもらえるかもしれませんね」


「そ、それですよ! そうと決まれば早速彰吾さんの所に行ってきます!」


 すっかり冷めてしまったカレーの存在も忘れてアマテラスは勢いよく席から立ち上がるとそのまま駆けだして食堂を出ていった。

 一人残された涼子は残ったカレーを手に取り、おもむろに食べていたうどんへとぶっかけた。


「カレーうどんもなかなかいけますね。いろいろ混じり合ってもうまくいくといいのですが……」



 食堂を飛び出したアマテラスは髪を振り乱し、全力で走りながら妖魔対策室の9階へと向かう。

 エレベーターに乗った時には息は切れ切れで思わず胸部を押さえた。

 彼女の向かう9階には海外の千年戦争に関わる事柄を調べたり、妖魔に対する策略を練ったり、情報参謀を一手に引き受けている部署がある。

 正式名は『戦略部』で通称『プルーデンス』と呼ばれている。ラテン語で『思慮深い』という意味である。

 9階に到着するとアマテラスは肩で息をしながら廊下を進み、戦略部と書かれたプレートが掛かるすりガラスの扉を開けた。


「こ……、こんにちわー」


 荒げた声で挨拶すると近くにいた男性職員が驚きながらアマテラスを見やると慌てて近づいてくる。


「だ、大丈夫ですか? またアマテラス様がなぜここに?」


「しょ、彰吾さん、彰吾さんいますか!」


「部長ならあちらのお部屋に」


 アマテラスは「ありがとう」と職員に礼を告げると彼が指さした部屋へと向かった。

 部屋に入ると男が一人PCのモニターとにらめっこしながら時折『なんでやねん』と独り言を発してキーボードをタイプしている。

 男はアマテラスが入室したことに全く気付いていない。

 絵に書いたような慌ただしさを醸し出す男にアマテラスは声を掛けることを一瞬躊躇するが意を決して、


「すいません! 彰吾さん! おたずねしたいことが……」


「おお、すまんすまん。珍しいやないか。どうしたんやこないところに来て」


 男はアマテラスに気付くと手を止めてイスから立ち上がった。

 狐のように細い目、シルバーの細渕の眼鏡が知的さを感じさせる男だ。

 だが外見には気を使わないのか肩まで伸びたぼさっとした髪の毛によれたスーツの上に白衣を羽織っている。

 彼――楠彰吾はこの戦略部の部長であり、思慮の神オモイカネの神御柱である。


「オモイカネなら今おらんで。あいつ仕事押し付けよってどっかいきよったからな。あのガキあとでぶちのめしたる」


「いえ、今日は彰吾さんにお話しがありまして」


「なんや? 告白とかとちゃうやろな? アマテラスちゃんからの告白とかむっちゃ嬉しいんやけどキャバクラのあおいちゃんもむっちゃ好きやねん。ほんまモテる男っちゅうのは辛いな」


「彰吾さん、相変わらずですね~」


「せやろか? 本心なんやけどな」


 後ろ頭を撫でながらにこやかに微笑む彰吾。

 頻繁に軽口を叩くので他部署からの誤解も多いのだが、こう見えて実はかなりの切れ者である。思慮の神オモイカネの神御柱だからという訳ではなく彰吾自身が元から知識が豊富で洞察力が鋭い。

 室内に置かれた重厚なソファにアマテラスを座らせると彰吾は黙考し始めた。


「それで彰吾さん――」


「わかったで、アマテラスちゃんの神御柱のことやろ? そういえば確か今日ここに来るって菊之助のじいさんが言っとったな。多分やけど君がここに来た理由は妖魔に関することやろう?」


「す、すごいです! なんで心が読めるんですか?」


「読めるわけないやん。読むんじゃなくて見とんねん。まあ僕のことはどうでもええから話してみ?」


 彰吾に促されてアマテラスはどう真羅に妖魔のことを話せばいいかを相談した。

 妖魔を倒すこと=人間を殺す。という現実をどう彼に伝えて、どう彼は乗り越えればいいのかと。

 アマテラスの話を彰吾は顎に手を当て、頷きながら聞いた。


「彰吾さんは初めて妖魔の正体を知った時どうでしたか?」


「せやな、正直ごっつ重たかったわ。他の世界の人間といえど人間は人間やからな。仮に人の見た目をした別の生物だとしても、人間はそれを人間と認識してしまうと思うねん。まあそれはこの世界でも多様な民族や人種がおるからその機能自体は必ず必要やと思う。でも自分達を害する者には立ち向かわなあかんねんな。それは歴史的にみてもそうやねん。そうやって僕は割り切った」


「そうなんですか。真羅くんもそうやって割り切れたりできるでしょうか?」


「それはわからへん。僕は自分でもそうゆうとこ、他人に対する感情が希薄なとこもあるからな。自分で言うのもなんやけどドライやねん。その真羅くんがどんな人物かにもよるやろ」


「思いやりがあって優しくて、正義感の強い男です!」


「そりゃあかんわ完全に役満状態やんけ。パチンコで言ったらメーカー柄やで」


 彰吾は額に手を当て再び黙考して黙り込んだ。

 アマテラスが『ううぅ……』と俯て唸っていると考えをまとめたのであろう彰吾が開口する。


「あれやな、ここは与那国(よなぐに)くんに任せたほうがええかもしれんな」


「よ、与那国隊長ですか……」


 アマテラスの顔が少し引きつった。


「アマテラスちゃん彼女苦手やもんな。まあ僕も苦手なんやけど。でも彼女ほど命に関してこだわりを持ってる人もそうそうおらんで。きっと彼女と任務に出たらどうにかなると思うで」


「で、では涼子さんにお願いしてみます」


「せやな、こっちからも与那国くんに伝えてみるわ。明日から訓練なんやっけ? また顔出そうおもうから頑張るんやで」


「はい! ありがとうございました!」



「ぬしがアマテラスの神御柱、天木真羅だな?」


 ――な、なんなんだこのガキは……。

 アマテラスが彰吾に相談したいたちょうどその時、真羅は水干を着た小さな少年と相対していた。


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