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15.鎌鼬は幼女

 東京の騒乱が治まる気配も見せず、日々悪化していく中、妖魔対策室はその対応に追われていた。

 怪我の治療に専念していた真羅を除く神御柱達、退魔師らは休むことなく原因となっているであろう妖魔を探している。

 真羅の肩の調子もだいぶ回復してきて明日から再び現場復帰が決まった。

 今日は以前アマテラスが言っていた、デートの日である。

 真羅は病室を出て自宅に戻ると出かける準備を始めた。


 封印解除のためといえどデートはデートだ。

 社会人になってから女にそこまで縁のなかった真羅にとっては大きなイベントである。

 引っ越し仕立てで山積みになった段ボールから服を引っ張り出すとあれこれと選び始めるもどれもこれも似たような色ばかりでデートに合いそうな服は見当たらない。

 約束の時間も迫っており、仕方ないと真羅はスーツを着込んだ。

 

 ──まあスーツなら間違いはないだろう……。

 真羅はそう思い家を出ると待ち合わせの場所『秋葉原』に向かった。

 住んでいる場所が隣なのになぜわざわざ外で会うのかというとアマテラスがその方がデートっぽいと提案してきたからだ。

 

 秋葉原に到着した真羅は周りを見渡して、アマテラスを探す。

 週末の駅前は多くの人が行き交い喧騒を感じさせる。

 人混みの中少し歩くと、壁に寄りかかり楽しそうに小声で歌を歌っているアマテラスを見つけた。


「よ、よおっ! 待ったか?」


「いえ、今着たところですよ」


 にこやかに微笑むアマテラスにつられて照れ笑いを浮かべる真羅。

 彼女は長い黒髪に映える白のピクチャーハットを被り水色のキャミソール、ベージュのカーディガンを着ている。

 学生時代でも私服を見たことがあるが、今日はデートということもあって彼女の清楚極まる姿に真羅の胸は高鳴った。


「真羅くんスーツなんですね」


「いろいろ探して見たけどデートに着ていけそうな服なくて、結局スーツになった」


「ふふっ、なんでも大丈夫ですよ。考えてくれただけでも嬉しいです」


 アマテラスは口に手を当て笑いながら言った。

 そんな彼女の反応に真羅は後ろ頭を掻くと照れ笑いする。

 

「そういえばデートなのに秋葉原でいいのか?」


「私あんまり他の場所知らないですし、ここは私のホームですからね!」


 そう言ってアマテラスは真羅の手を取ると意気揚々と電気街に向かった。

 白い柔肌に触れ、キャミソールでボディーラインがはっきり見える服のせいで真羅はドキドキして少し顔を赤らめる。

 歩行者天国開催日のため、人の多さの割には道は歩きやすい。

 ゲームセンターに入ると早速アマテラスは目を輝かせる。


「真羅くん見てください! にゃんだワンのぬいぐるみですよ!」


「あー、猫か犬かよくわからないキャラのやつか」


「一応公式では猫でも犬でもなく、宇宙人ということになってるんですよ。にゃんワンダー星雲からやってきたということになってて──」


 熱弁するアマテラスは財布を取り出すとUFOキャッチャーに小銭を入れてボタンを押す。

 ぽわーん、ぽわーんと頭の悪そうな音を奏でながらクレーンは進んでいく。

 「ここですっ!」とアマテラスは決め台詞を言うとぬいぐるみの上でクレーンは止まった。

 しかしアームの力はこの上なく弱く、ぬいぐるみはぬるっと抜け落ちてしまった。


「ぐぬぬ……。でも私は負けませんよ」


 そう言ってから5回ほど挑戦するもぬいぐるみが取れる気配はない。

 連コインする同僚の姿に真羅は苦笑いすると自分も両替機で札を崩した。


「ちょっと俺もやってみる」


 渋面を浮かべるアマテラスと交代すると真羅も先ほど崩した小銭を入れた。

 ぬいぐるみを着実にずらして穴に近づける真羅。

 4回ほどやるとあっさりとぬいぐるみは落ちた。

 歓喜の声を上げるアマテラスにぬいぐるみを渡すと真羅は自信満々に笑った。


「どや! すごいだろ」


「わぁー! 真羅くんありがとうございます! 一生大切にします」


 ぬいぐるみを抱きしめて幸せそうなアマテラス。

 2人はその後、格闘ゲームやクイズゲームをしてゲーセンを満喫すると本屋へと向かった。

 アマテラスは同人誌コーナーに向かうと擬獣万葉集と言う人や物、あらゆるものを獣にしたイラストが載っているマニアックな本を買った。 

 

「随分と買いそうな人が限定されそうな本だな」


「そうですかね? あっ、見てください。海王星を犬にした海王犬ってやつ可愛いですよ」


「なんか聞いたことありそうな名前だな。そろそろ飯にするか?」


「そうですね! じゃあ私のオススメの場所でもいいですか?」


 アマテラスに案内されるままに進んでいく。

 少し人気のない場所に入ると行く先にクマのぬいぐるみを持った幼女がガラの悪そうな連中に囲まれていた。

 険悪な雰囲気が漂い、ただ事ではないと感じた真羅は幼女を助けようと踏み出すとアマテラスが手を掴んだ。


「何するんだよ。助けないとやばいだろ?」


「彼女は魔御柱です。助けなければいけないのはあの男の人達の方です。とりあえず応援を呼びましょう」


「あんな幼い子が? ま、まじかよ。 でも妖魔の反応は俺には感じられないぞ」


「上手に隠してます。ただ慣れてくると真羅くんも小さな反応でも感じ取れるようになりますよ」


 幼女を囲んでいる連中は怒り心頭な様子で大人気なく凄んでいる。


「おい、俺達の服どうしてくれんだよ? 親を早く呼ばねーとどうなっても知らねーぞ」


「ガキだからって許されると思うなよ」


 紫色のゴスロリ服を着た幼女は我感ぜずの様子でぬいぐるみの頭を撫でている。

 堪忍袋の緒が切れたのか1人が幼女の服を掴もうと手を出した瞬間、


「ぐわぁぁー!」


 大きな叫び声と共に倒れた。

 右の手首先が消え、そこからおびただしい血が噴出している。

 幼女は顔に浴びた返り血を拭うとにこやかに微笑んでいった。


「大丈夫だよ。みんなバラバラにしてあげるから」


 その様子を見た真羅は強制的にアマテラスを神器化させるとあ然と佇む連中を押しのけて幼女と対峙する。

 

「早く救急車を!」


「あ、ああ」


 剣を構えて連中に支持を出す真羅。

 幼女は不思議そうに真羅を見つめるとにっこりと笑い、


「わぁー神御柱だ! でも戦っていいんだっけな? んー言ってたこと忘れちゃった」


「真羅くん! キズは大丈夫なんですか?」


「だいぶ良くなったから大丈夫だ。明日出勤だったしな」


 心配するアマテラスに返事をすると真羅は剣を上段に構えながら幼女に問いかける。


「君は、この戦いに自分の意思で参加してるのか?」


「イシ?」


「自分で決めてここに来たのかってこと」


「ああ! そりゃもちろんだよ! 春日は世界を守るために人や神御柱を殺すの」


 一瞬暗い表情になった真羅を頭を振り、自らの顔を叩く。


「そうか……。この答えが聞けたのは良かったのかなんなのか……。とりあえずやるしかなさそうだな」

 

「えへへ、じゃあいくよ。かまちゃんよろしく」


 春日はぬいぐるみを抱きしめると全身が黒い影に包まれた。

 魔御柱の全身憑依である。

 影が消えると、手が鋭い鎌を携えた茶色の毛に覆われた動物が姿を表す。


「ほぉ、アマテラスの神御柱か。これは上物じゃないか」


「真羅くん、こいつは鎌鼬です。空気を刃物に変えて素早い攻撃を仕掛けてきます。なるべく距離を空けてください」


「距離を空けろと言われてもな……。俺遠距離攻撃できないしな」


 まだ慣れない戦闘のためか真羅の額からは緊張の汗が滲み出る。

 お互い様子を伺っているといきなり真羅は肩を叩かれた。


「すまねーな。この戦いは無しだ」


 白髪のトレンチコートに身を包んだ大男はそう言うと真羅を押しのけて鎌鼬に向かっていく。


「我新様なんでこんな所に?」


「鎌鼬、憑依を解け。こいつは俺の獲物だ。もっと美味しく仕上がってからいただく予定だからよ」


「お前は誰だ!」


 我新は踵を返すと真羅を一瞥する。

 彼の背後には巨大な緑色の体をした鬼が控えていた。

 真羅は我新と鬼の迫力に自然と足が後ろに下がり、たじろぐ。


「天木真羅だったか? 俺はお前と戦えるのを楽しみにしている。早く強くなれ。今日のところは失礼する」


「なんだと! 逃してたまるかよ!」


「真羅くん。ここは引いてください。相手が悪すぎます」


 アマテラスの冷静かつ大きな声がその場に響いた。

 その言葉に我新も頷く。


「今のお前では俺と戦うのは子犬が像に挑むようなものだ。いずれ嫌でも俺から戦いにいくからよ」


 我新は鎌鼬の憑依を解いた春日を小脇に抱えるとその場から立ち去っていったのだった。

 

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