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12.初出動

 ──妖魔それはもう一つの世界で信仰を集める存在。

 ──魔御柱(まのみはしら)それは妖魔を憑依することのできる異世界の住人。

 ──彼らを殺して創造主の宝玉を手に入れること──それが妖魔対策室の任務。

 ──ヒーローは決して悪に同情はしない。

 ──容赦はしないのだ。


 

 急ぎ食堂を出た5人はそれぞれの向かう先に駆けだした。

 情報によると3体の妖魔のうち2体は新宿御苑の近くにて退魔師と交戦中。

 もう1体は広尾にて逃走中との知らせだ。


 真羅とアマテラスは涼子に指示された妖魔対策室北にある駐車場にて、現場急行の人員輸送車を待っている。

 獅童は自らサイレンを鳴らし、車を走らせて先に広尾へと向かった。


「なあ、アマテラス。与那国隊ってなんなんだ?」


「えっと、退魔師の部隊です。隊長の与那国さんはすごい陰陽師なんですよ」


 そう伝えるアマテラスの顔は少し引きつっている。

 今回の真羅の出動は異例である。

 妖魔対策室に入ったばかりの人間が現場に向かうのは通常はあり得ないのだが、昨日アマテラスの相談を聞いた彰吾が与那国との組み合わせならと気を利かせた結果急遽出動という形になった。

 

「へー陰陽師なのか。なんかイザナギみたいに仙人みたいな人なのかな?」


「いえ──」


 アマテラスが言いかけたところで白い大型の人員輸送車が猛スピードで真羅の達の前に向かって来て──停車する。

 リアドアが勢いよく開くと、


「貴様が天木真羅だな! 早く乗れ!」 


 妖魔対策室の白の制服に赤いマントのような羽織物を着た相好(そうごう)の険しい女が車内から催促した。

 高圧的な態度にビビッてしまった真羅はすぐに首肯すると、急いで車に乗り込む。

 その後を追ってアマテラスも足早に乗り込んだ。

 車内には白い制服に身を包んだ6名の者達が横並びに着座している。


「私は与那国隊、隊長の与那国果歩(よなぐにかほ)だ。急遽上の者から一緒に出動するように命令が来た。よろしく頼む」


 セミロングの髪に均等の取れた顔立ちで、大人の魅力を感じさせる美しい女だ。

 彼女、与那国果歩は26歳という若い年齢ながら現陰陽師界における四天王の一人で四獣の式神、朱雀の使い手である。

 常に自分に厳しく、他人にも厳しい彼女についた名前は『火鳥(かちょう)の鬼軍曹』。

 睨むように険しい表情の彼女に真羅は辟易しながら自己紹介を終えると、隣にいたアマテラスも遠慮がちに与那国に声を掛ける。


「あの、与那国さんお久しぶりです。今日はよろしくお願いします……」


「お久しぶりです。アマテラス様。こちらこそよろしくお願いします。急に出動となりましたが戦闘のほうはこちらで治めますのでご安心ください」


 慇懃に答える与那国にアマテラスは愛想笑いを浮かべる。

 アマテラスは与那国が苦手だ。

 決して嫌いという訳ではないが彼女の醸し出す厳しく、険しい雰囲気がどうしても好きになれない。

 もっとも当たり前ではあるが、アマテラスのような人が大多数で彼女を好きと慕うのは妖魔対策室ではごく一部である。


 車は新宿通りをサイレントを鳴らしながら走り、四ツ谷を抜け現場となる新宿御苑へと近づく。

 車内に搭載された無線からは刻々と現場の状況が伝えられており、現場の緊迫した報告に真羅は聞き耳を立てていた。

 

「えーこちら退魔部警ら隊。新宿御苑のカテゴリーBの磯女、絡新婦(じょろうぐも)と依然交戦中。負傷者2名。民間人の避難は完了しております。どうぞ」


「与那国隊隊長の与那国果歩だ。今四ツ谷を抜け、もうすぐ到着する。妖魔共を絶対に逃がすな」


 負傷者と言うリアルな言葉に息を呑む真羅。そんな彼をアマテラスは心配そうに見つめていた。

 


 車が現場に到着するとリアドアが開放され、隊員が一斉に飛び出した。

 目の前では先に交戦中の警ら隊員が妖魔に向けて銃弾を打ち込んでいるものの、それらを妖魔は容易く躱し、さらには銃弾を弾き返していた。

 与那国は片耳に付けたヘッドセットで忙しなく支持を出してている。


「山崎と星野は双翼に回り込んで結界班の手伝いに回れ。他は私と一緒にカテゴリーBを殲滅するぞ」


「「了解!」」


 与那国隊の面々は腰付けたホルスターから護符を取り出すと一斉に妖魔に向け投擲する。


「「蔓となりて、魔を拘束せしめよ! 急急如律令!」」


 陰陽五行、木火土金水の木行符である。

 放たれた護符からは生み出されたように緑色の蔓がうねりをあげ妖魔に向かう。

 初めて陰陽術を目の当たりにした真羅は『おおー』と感嘆の声を上げた。

 しかし一体の妖魔、絡新婦が糸を口から吐き出し、その蔓を遮る。

 下半身は太く大きな針のような八本の脚を備え、上半身は赤い瞳をした半裸の女の姿をしている。


「また雑魚が増えましたわね。磯女今ですよ」


 絡新婦がそう言うと、もう1体の妖魔、磯女の髪がみるみる長くなり周りに飛散する。

 磯女の下半身は光沢の鱗をもった蛇のようにとぐろを巻いており、上半身は着物を着た女の姿をしている。

 飛散した髪は隊員達に巻き付くと先端から徐々に赤みを帯びていった。

 現場に絶叫がこだまする。


「まずいです! 磯女は髪を使って生き血を吸います! 早く髪の毛を切らないと!」


 真羅の横にいたアマテラスが声を荒げた。

 与那国は一度首肯すると脚部に着けたホルスターから護符を10枚取り出して

 隊員に巻き付いた髪に向けて火行符を投げ打つ。


「火炎となりて、魔を滅せよ! 急急如律令!」


「おっと、そう簡単にやらせるわけないでしょ?」


 火炎が放たれる寸前、絡新婦の放つ糸により火行符は絡めとられ、その力を失う。


「チッ。天木真羅! 私はあの蜘蛛女をどうにかする。磯女の髪の毛は貴様に任せるぞ」


「あーもうこうなったらやるしかねーな。こいアマテラス! 神器解放!」


 真羅は今日、訓練初日というのに予想外のぶっつけ本番となってしまった。

 アマテラスを神器化させた真羅は深紅の鞘から剣を抜き、捕まっている隊員のもとに駆け寄る。

 その間与那国は連続して護符を投擲し、絡新婦の足止めにかかった。


「真羅くん、大丈夫ですか?」


「大丈夫かどうかは分からんが目の前で人が苦しんでのに見過ごせるわけないだろ」


 真羅は手にした剣で隊員達に絡まる髪の毛を次々と切断していく。

 だが磯女はそれに気づくと真羅の剣めがけて極太の髪を伸ばし、巻き付ける。


「ほーこれは上玉がきたのね。アマテラスの神御柱とはありがたい」


「くそ……髪が太すぎて切れねえ」


「真羅くん! 頭の中で刀身に火を着けるイメージをしてください。私を神器化した時のように具体的にです」


「なんだ、それが何かあるのか?]


「神力の使い方です! 真羅くん早く!」


 アマテラスの言葉に真羅は必死にイメージを浮かべる。

 神力。それは神器化した神の力を引き出すために使われる力。

 神御柱の体内に眠る力で、個人によりその量は異なる。

 神力が多ければ多いほど神の力を引き出すことができるのだが、神器化同様に非常に具体的な攻撃イメージを必要とされるため使いこなすには慣れが必要になってくる。

 ──くそっ。火を着けるって言われてもそんなことしたことねーから上手く浮かばないぞ……。


 真羅が苦戦している一方で与那国と絡新婦は激しい戦闘を繰り広げていた。

 与那国は木火土金水、五行相生を用いた護符の攻撃を仕掛けると絡新婦の顔から余裕は消え接近戦へと持ち込む。

 鋭利な八本の脚を与那国は軽快な動きで交わすと、腰のホルスターから拳銃を取り出し発砲する。

 撃たれた銃弾は絡新婦の肩に命中した。


「くっ……忌々しい陰陽師め!」


「嬉しいほめ言葉だな。貴様に怨みはないが、この世界のため死んでもらうぞ」


「いや、死ぬのはお前だ陰陽師」


 絡新婦が薄気味悪く笑みを浮かべた時、与那国の背中が血飛沫を上げ、大きく切り裂かれた。

 苦痛に顔を歪めながら後ろを振り向くとそこには毛むくじゃらの大男が、鋭く伸びた大きな爪を彼女に向けて突き立てていたのだった。

 

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