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11.はじめての神器2

 真羅と美代の剣戟は予想外の展開となった。

 美代の繰り出す斬撃を真羅は易々と躱し、彼女の太刀筋を鮮やかに薙ぎ払ってその動きを止める。


「ここまで1回も当たらないなんて……。おじさん何者なの」


「昔からなんか知らないけど、おやじに剣術を仕込まれてて今でもたまに独りで練習してたんだよ」


「そうだったんですか。真羅殿の剣捌き、実にお見事!」


 少し悔しそうな表情を魅せる美代と感嘆の声を上げるスサノウ。

 真羅は小さい頃から父親の教育方針で剣術の手解きを受けていた。

 前の家に置いてあったひと振りの太刀も訓練のために置かれていたものだったのだ。


「まあでも俺はそんなに強くないぞ。師匠とかと比べたら全然だからな……」


 悪気もなく謙遜する真羅を見て美代の顔色が変わった。

 いつもの朧げな表情とは違い、力強い眼差しで真羅を見据える。


「それは私が弱いということでしょうか?」


「いや、そんなことはないって。()()()()()()()()かなりやるほうだと思うけど……」


「おじさん。いくわよ」


「ちょっ、いきなり!」


 真羅の何気ない言葉が美代の闘争心に火を付けた。

 うさぎよろしく、その矮躯で身軽にぴょんぴょんと跳ねながら真羅との距離を詰めると、空中で右横一線の太刀を浴びせる。

 

 もちろんその攻撃を受け止めた真羅。

 美代はすぐさま体を反時計に回転させ左へと刀を振り切った。


「あ、危ねっ」


 美代の猛スピードの攻撃に真羅は間一髪で反応する。

 刀を振り払うと、再び剣を上段に構え、地面を強く蹴り美代に飛びかかった。

 真羅の体重を乗せた斬撃。

 その一撃を受け止めた美代はきつく歯を噛みしめる。

 鍔迫り合いになった所で美代は真羅に問いただす。


「おじさん……まだ手を抜いてるでしょ?」


「そんなことはないと思うんだが、実戦的なのには不慣れでね。美代ちゃんはこれが限界なのかい?」


「……本気でいく」


 ギリッギリッと刃音が響く中、美代はそう告げると真羅を押して距離を取った。


残水斬(ざんすいざん)

 

 彼女がポツリと呟くと刀が青黒く輝き始める。


「お、お嬢! 神力を使う戦いはまだ真羅殿には早いですよ!」


 スサノオの忠告は耳に入っていないのか、美代は刀を振り乱す。

 空を切り裂いた斬撃の後には宙に漂う水の線が出来ていた。

 その数、十六線。

 その光景を見た真羅は直感的にやばいと感じる。

 ──あれ、全部当たると斬れるってやつか? 死ぬぞ俺……。

 真羅は背を向け、逃げよう走り出す。

 だが時既に遅し。


 「──乱打」


 その声と共に幾重もの水の斬撃が空中を伝って真羅目掛けて飛んでくる。

 躱せない。

 目を瞑り覚悟を決めた真羅だったが、背後に衝撃音がして振り返る。

 そこには大きな壁──鉄壁が真羅の背中を守っていた。


「いやー危なかったすね真羅」


「し、獅童?」


 金髪のツンツンヘアー、椎名獅童が金に輝く大きな両つるはしを持って真羅に近づいてくる。

 獅童がつるはしで鉄壁を軽く叩くと一瞬にして崩れ去った。


「美代ちゃんやりすぎっすよ? 戦いになると熱くなるのは悪い癖っすよ」


 獅童の言葉に美代は俯いて黙考する。


「確かにおじさんの言うとおり冷静じゃなかったわ。ごめんなさい」


「相変わらずクールにおじさんって呼んでくれるっすね。それにしても真羅凄かったすね。美代ちゃんを本気にさせちゃうなんて」


「そ、そうなのかな? 俺は全然──」


「無意識の謙遜は嫌味に聞こえる時もあるんすよ。まあとにかく美代ちゃんと渡り合えたのは本当にすごいっすよ」


「もしかしてそれでちょっとマジになってたのか。不快な思いにさせちゃったならごめん」


 真羅が頭を下げて謝ると、美代も同様に頭を下げる。


「いいえ。こちらが勝手に冷静さを欠いたのに変わりはありません。すいませんでした」


 落ち着きを取り戻した美代はいつもの朧げな表情に戻ると丁寧に謝罪してスサノオの神器化を解いた。

 人型に戻ったスサノオは真羅の元に駆け寄ると額を地につけ土下座する。


「真羅殿すいませんでした! お嬢は強い者と戦うと熱くなる癖がありまして……。こんなお嬢ですが嫌いにならず、これからも仲良くしていただければと」


 気迫のこもった土下座に気圧される真羅。

 神様に土下座されてはなにかバチがあたりそうだと慌ててスサノオの顔を上げさせる。


「全然気にしてないから、謝らなくて大丈夫だよ」


「ありがとうございます! 獅童殿もありがとうございました」


「俺はたまたま見に来ただけっすから。それよりみんなで朝ごはんにしないっすか?」


「確かにもうこんな時間か。美代ちゃん学校大丈夫なのか?」


 美代は袖をめくり腕時計を確認すると、


「……大丈夫じゃないわ。朝練間に合わない」 


「お、俺としたことが……お嬢車で送っていきますよ。では真羅殿、獅童殿また後ほど」


 美代とスサノオはエレベーターに向かい足早に去っていった。

 残された真羅と獅童の元に涼子がゆっくりと近づいてくる。


「真羅さんお見事でした。ただのロリコンスケベ変態だと思っていたのですが意外でした」


「涼子さんも見てたんですか? ロリコンスケベ変態は余計だ。折角なんで朝ごはん一緒にどうです?」


「では真羅さんの欲望通りご一緒いたしましょう」


「朝ごはんに欲望もくそもあるか!」


 真羅と涼子の仲睦まじい、もといふざけたやり取りを獅童は羨ましそうに見つめる。


「涼子ちゃん! 俺も真羅みたいに罵ってほしいっすよ!」


「獅童さんは面倒くさいので嫌です」


 玉砕した獅童は地面に膝を着くと大きくうなだれる。

 その様子を呆れ顔で見つめる真羅。


「し、獅童大丈夫か?」


「もうこの際真羅でいいっす。俺を罵ってほしいっす! 脳内で涼子ちゃんに変換すれば問題ないっす」


「なんだよそれ。てか神器化の解き方教えてもらってなかったんだけどどうやるんだ?」


「そ、そういえばアマテラスちゃんがいるじゃないっすか! 心の中で戻れって念じるだけなんで神器化する時より簡単っすよ」


 真羅は目を瞑ると獅童に言われた通り神器に戻れと念じる。

 神器が光に包まれ真羅の手を離れると宙に浮き、神々しい光が人型になっていく。

 ゆっくり光が晴れると佇立しながら寝息を立てているアマテラスが姿を現した。

 獅童はアマテラスの手を握りながら、


「アマテラスちゃん初めましてっす! 椎名獅童っす。いやー可愛いっすね! 激マブっすよ!」


「……し、真羅くん……そんなダメ、そこは……昨日もしたじゃにゃんですか」

 

アマテラスは瞳を閉じながらほおを紅潮させ悶える。


「真羅これはどうゆう状況っすか!?」

 

「きっと妖魔にでも襲われている夢でも見ているんだろ! さあ起きろアマテラス」


「今はっきりと真羅くんと聞こえましたが?」


「いやー涼子さんもきっと疲れてて耳の調子が悪いんでしょう?」


 真羅は自分でも限界を感じる苦し紛れの言い訳に冷え汗を掻きながら寝ているアマテラスを揺すって起こす。

 はっと気づいたアマテラスは周りを見渡すと恥ずかしそうに肩を竦めた。


「す、すいません! 完全に意識を失っておりました……。もう訓練のほうは終わったのですか?」


「真羅さんは無事神器化も成功させました。それにすごい剣捌きでしたよ」


「そうなんですか! さすが真羅くんですね! では次は神力の使い方ですね。あとこの方は?」


「やっぱり聞こえてなかったみたいっすね……。カナヤマビコの神御柱の椎名獅童っす。なんだかんだで会う事なかったから初めましてっすね」


「カナヤマビコさんの! 獅童くんよろしくお願いしますね」


 艶然としたアマテラスの笑顔に獅童は鼻の下を伸ばしてデレデレとした顔を見せる。

 その様子を見ていた涼子は間に割って入ると食堂へ移動するように促した。


 移動途中に獅童はカナヤマビコの神器化を解くと2メートルは優にあろう大男が姿を現した。

 砂色のような薄茶色の布を全身に纏って、白い仮面を被った大男。鉱山の神カナヤマビコである。

 真羅はその大きさに圧倒され目を瞠る。


「真羅は初めてっすよね。めちゃくちゃデカいでしょ。でも口下手であんまり喋らないんすけどね」


「へぇー、天木真羅です。よろしくお願いしますね」


「……よろしく……」


 小さく頷いて、少し口ごもりながら言うカナヤマビコ。

 その反応に真羅は愛想笑いを浮かべながら首肯した。

 


 5人は食堂に移動して朝食を食べる。

 パンとベーコンエッグのモーニングセットだ。

 とろとろの半熟卵にカリッと焼き上げた香ばしいベーコンが食欲をそそる。

 ケチャップを付けると鮮やかな赤と黄色のグラデーションが完成して、シンプルながらも最高の朝食である。

 

「カナヤマビコは面つけたまま飯食べるのか?」


「……そう」


 器用に面を持ち上げながらフォークで口に運ぶカナヤマビコを不思議そうに眺める真羅。

 一同が食事を楽しんでいる時、涼子のスマホに着信が入る。


「はい。……カテゴリーBが3体も同時に……。ええ、わかりました。直ちに出動させるように伝えます」


 涼子が電話を切ると顔色を変えて真羅を一瞥すると、


「カテゴリーBの妖魔が3体現れました。真羅さんは与那国隊と共に出動をお願いします。獅童さんも出動命令が出ました。現場に急行をお願いします」


 真羅の初めての出動が始まった。


  

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