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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
95/177

真に救われるべき者は 9

「テオ!」

 驚いて駆け寄ると、テオの背に刺さっている物が何か分かった。包丁だ。それも、根本まで深々と刺さっている。テオの後ろには誰もいなかったから、投げナイフの要領で包丁を投げたのだろう。でも、一体誰が……

 小さく術の文言を唱えながら、周囲に視線を巡らせる。テオの背後の空間はすでに何の人影も気配もない。包丁を投げた奴は、もうどこかに移動しているのだ。礼拝堂を支えるいくつもの柱。そのうちの一つに、奴はいるはず。

 不意に、右手から不気味な気配が流れた。反射的に剣を翳すと、飛来した細長い物体が剣に弾かれて落下する。落ちたものに視線を向けると、それは使い古された果物包丁だった。調理場からくすねてきたのだろうか。古ぼけているとはいえ、きちんと手入れがされてあるため切れ味は鋭い。すぐに包丁が飛んできた方向を見たが、そこには誰にもいなかった。

「テオ……」

 はっとして振り返ると、目を覚ましたクリストフが立ち上がろうとしているところだった。彼の視線は弟に向いている。その瞳に先程までの狂気はなく、心の底から弟を案じ、焦り、最悪の事態を恐れている。しかし、

「クリストフ! 伏せてろ!」

「え……」

「どこかに隠れて伏せてろ! テオの二の舞になる!」

 クリストフは混乱していたのだろう。悪魔に取り憑かれ、悪魔祓いの力は偽りのものだと分かり、悪魔は祓われたものの今度は弟が突如負傷して倒れた。その状況が、彼の判断力を鈍らせてしまったのだろう。茫然と立ち尽くしてしまったクリストフ。リゼは仕方なく、彼の元に駆け寄ろうとした。

 だが、遅かった。立ち尽くしていたクリストフが、リゼが向かう前に呻き声をあげて崩れ落ちたのだ。同時に流れ出たぞっとするような気配に、リゼは反射的に足を止める。今度は気配の源を探す必要はなかった。それは、すぐ目の前に現れたからだ。

 倒れたクリストフの背後から現れたのは、小さな子供だった。結っていない金髪がさらさらと揺れる。両手は血で塗れ、どこで手に入れたのか手と同じく赤く染まったナイフを握っている。小さな顔に表情はなく、無感動にクリストフを見下ろしていた。

「ララ……?」

 倒れたクリストフは茫然とナイフを握る妹を見つめた。兄に名を呼ばれて、ララは血まみれのナイフをおろす。そして唐突ににっこりと笑った。

 幼子にはあり得ない、ぞっとするような笑みを浮かべて。

「残念! あたしはララじゃありませーん! あたしはリリス。ララなんて間抜けな名前じゃないの!」

 少女特有の高い笑い声が礼拝堂に響き渡った。しかしそこに子供らしい可愛らしさはない。子供を装った大人の嘲笑だった。

「ララじゃ……ない……? ララは……? 妹はどこに……!」

 血を流し、息も絶え絶えになりながら、クリストフは言った。それに、リリスは笑いながら答える。

「ララはもういないわ。この世のどこにも、ね。本物の妹が死んだことにも気付かない。悪魔憑き(死にぞこない)どものことばっかりの、酷いお兄ちゃん」

 そう言って、リリスはより一層けらけら笑う。一見無邪気ながら、多分に毒を孕んだ笑み。リリスは一しきり笑うと、倒れ伏したまま動かなくなったテオを見下ろした。

「でもテオお兄ちゃんはおかしいと思っていたみたいね。時々、あたしを見る目が怖かったもん。でも結局最期までばれなかったわ。あんな無防備な背中さらしちゃって」

 笑いながら、リリスはテオの顔を蹴とばした。衝撃で鼻が折れ、血が飛ぶ。しかし、当然、テオはされるがままだ。それにリリスは調子に乗ったのか、そのままテオの顔を踏みつけようとした。

 その直前、走り寄ったリゼが素早く剣を振るった。容赦はしない。ほとんど首を取るつもりだったが、リリスは幼子とは思えない身軽さで後ろへ下がり、剣は空を切った。

 リゼは素早く体勢を整えると、リリスに刺突を放った。剣先は回避行動をとったばかりで動けないリリスを捉え、その頭部を貫こうとする。しかし、それは目に見えない障壁にぶつかり、いとも簡単にそらされてしまった。

 剣が弾かれる火花が散るような音と共に、リゼはリリスから距離を取った。

「あんた、何者? ただのガキじゃないわね」

 そう問いかけると、リリスは薄気味悪い微笑みを浮かべた。

「あたしね。ずっとこの町のことを見てたの」

 リリスはリゼの質問には答えず、一人語りを始めた。

「前のおじさんが神父だった時、この町は素敵な町だった。真っ暗で、冷たくて、絶望で覆われていた。教主のおじさんは欲望で肥え太ってて、食べ頃の豚みたいだった。おじさんの側近以外はみーんな搾取されて鶏ガラみたいだったけど、恨みをたっぷり蓄えていた。なのに、お兄ちゃんがおじさんを追い出して教主になってから、この町は変わっちゃった。あたしは前の素敵な町が大好きだったのに。仕方ないから、元に戻そうと頑張ってたの。お兄ちゃんが余計なことをするのが悪いのよ」

 むくれながら言って、リリスはクリストフをせせら笑った。

「真の信仰心があれば、悪魔に打ち勝つことができる。なーんて馬鹿みたいな話、素直に信じるんだから、やっぱりマラーク教徒は頭悪いわ。悪魔に取り憑かれたら悪魔祓い師以外どうすることもできないってこと、常識でしょうに。祈るだけで神が救ってくれるわけがない。ううん、祈るなんてちゃちなやり方じゃダメ。救われたいなら全部捧げなきゃ」

「……贅沢はしない。必要最低限の物しか食べない。身につけない。恋情は穢れ。勤勉は美徳。娯楽は悪魔の誘惑。隣人を愛し、持つ者は持たざる者に施し、一切の欲を絶って身を清廉に保ち、神に祈りを捧げる――ここまでやっても全てを捧げたとは言わないと?」

「ダメ。だって彼らは悪魔祓い師を否定しているでしょ? 神とその代理人たる教会の言葉に異を唱えているのに、全てを捧げてるなんて言えないわ」

 教会の言葉に異を唱えるな。一切否定するな。そうでなければ、全てを捧げているなんて言わない。

 それが信仰か? 間違っていると気づいても、理不尽だと思っても、否定しないことが?

 そんな都合のいいこと、信仰じゃない。

 それは盲信だ。

「そうやって信者を奴隷にするわけ? 都合がよすぎるわね」

「都合がいい? 違うわ。これは当たり前のことなの。神の信じる者の義務。義務を果たしていないのに加護を求めるなんて我儘よねえ」

 リリスは嗤い、そして言った。

「あたしはあたしの“神”に逆らったりしない。殺せと言われたら殺しましょう。死ねと言われたら死にましょう。我が“神”――偉大なる魔王(サタン)様のためならば」

 我が神、魔王(サタン)

 そうか。こいつは。

「……悪魔教徒」

「そう、あたしは“魔女”。マラーク教徒にとって唾棄すべき存在。あなたと同じね」

 親しみのこもった口調でリリスは言った。魔女。悪魔の力で人に害なす者。あのぞっとする悪魔の気配は、こいつから発せられていたのだ。悪魔に取り憑かれた悪魔教徒であるこいつから。

「私と同じ? あなたと私は同じじゃない。そのことを喜んだ方がいいわ」

 吐き捨てるように言うと、リゼはリリスに剣の切っ先を向けた。

「来なさい。あんたが悪魔憑きの悪魔教徒なら、あんたの中の悪魔を消し飛ばしてあげる。そうすれば、あんたは子供の姿をしたただの魔術師になるわね」

「怖い人だなあ。だからあなたには死んで欲しかったのに。毒の量が足りなかったかしら。味ですぐばれちゃうけど、ちょっとでも飲み込むと死んでしまう強力な毒なのに」

「残念だったわね。身体がちょっと丈夫なの。それに、治す手段もある。飲み込んでいたら危なかったけど」

「ふーん。毒殺するなら即死するような量じゃないと駄目ってことね。面倒だなあ」

 呑気な口調でとんでもないことを語るリリス。その顔面に、リゼは再び刺突を叩き込んだ。しかし、切っ先はリリスに届く前に不可視の壁によって弾かれ、そらされる。それに舌打ちしていると、リリスはくすくすと笑った。

「ごめんね。あなたの相手は面倒だから、あたしの代わりにこの子にしてもらうわ」

 そういうと、リリスは右手を前へ水平に伸ばした。人差し指を出し、空中に指で円を描くような仕草をする。そして指が一周すると同時に、リリスは呟いた。

「おいで」

 その瞬間、リリスが円を描いた場所に真っ黒な穴が出現した。穴は血の色の火花を散らし、風を吸い込んでいく。その中から、鋭い爪の生えた黒い手がぬっと現れ、穴の縁をつかんだ。

 穴から這い出してきたのは、一匹の魔物だった。膨れた胴体。奇妙に長く細い手足。顔らしき部分はつぶれ、眼球だけが妙に飛び出している。節くれだった長い指には鋭い爪。口には牙が並んでいた。

「こいつ、メリエ・リドスで……」

 魔物の姿を見て、リゼはそう呟いた。この魔物を知っている。メリエ・リドスの麻薬密売人のアジトで遭遇した魔物だ。そいつをリリスは召喚し、かつ使役している。

『麻薬を製造し、アルヴィアにばらまいているのは、悪魔教徒なのです』

 グリフィスが言っていた言葉を思い出す。なるほど。やはりあの魔物は麻薬の番人で、悪魔教徒が仕掛けたものらしい。この見慣れぬ魔物は、奴らの飼い犬なのだ。

「あいつを殺しちゃえ」

 リリスはまさしく飼い犬にそうするように、魔物に命じた。それに応えるように、魔物が唸り声を上げる。鋭い爪が床をひっかき、嫌な音を立てた。

 リゼは剣を構えると、魔物と対峙した。奴とはメリエ・リドスで一度戦っている。倒したのはアルベルトだが、全く未知の相手ではない。こいつは素早いが、魔術を使えば倒せるはず。

「待ちなさい!」

 その時、礼拝堂の左側の扉が開いて、澄んだ声が礼拝堂中に響き渡った。思わずそちらを見ると、何か細長いものを持った人物が目に映る。それが誰なのか気づいて、リゼは驚いた。

「アン!? 何してるの! 戻りなさい!」

 水差しを取って戻ってきた時に、リゼが井戸にいないことに気づいたのだろう。それで探しているうちに礼拝堂での騒動に気づいたのだろうが、わざわざ乗り込んで来なくてもいいだろうに。これ以上一般人がいてもお荷物が増えるだけなのだ。

 しかし、アンは魔物を見てもおびえる様子は一切なかった。それどころかリゼのそばまでやってきて、一緒になって魔物とリリスに対峙する。

「事情はよくわかりませんが、クリストフ様とテオ殿が負傷されているのはあの子のせいなのですね。こんなこと、許せません」

「あのね。見ての通り、今、魔物が目の前にいるの。あなたがいたって邪魔よ」

 事態がよく飲み込めていないにも関わらず堂々と魔物の前に立つアンに、リゼは苛立ちながらそう言った。いや、その認識は間違ってはいないのだが、この分では一から十まで見ていたわけでないだろう。その状態で、しかも一般人なのにこんな場所に来るなど無謀すぎる。しかしアンは聞く耳を持たない。

「いいえ。あなたを一人にしておくわけには参りません! 微力ながらお手伝いします!」

 そうのたまい、どこで見つけてきたのか鉄の棒を握り締める。しかし、棒を構える姿はどう見ても素人そのもので、手伝いどころか邪魔になるだけだ。

「余計なことを……」

 いつものように魔術を駆使すれば、魔物一匹倒すことなど造作もない。しかし、アンがいては満足に魔術が使えない。剣技だけで奴を倒さなければならない。

(……殴って気絶させるか)

 些か物騒なことを考えたが、気絶した人間を抱えるのもそれはそれで面倒だ。ただでさえぶっ倒れている人間が三人もいるのに――

(どうす――)

 その時、直感が告げるままに一歩後ろに下がると、魔物の爪が目の前を通り過ぎて行った。頬にひやりとした感覚が奔り、一拍遅れて生温かい液体が流れ落ちる。魔物は獲物を捕え損なって壁に激突し、くぐもった声を上げたが、すぐにこちらへ向き直って唸り声を発した。

(……見えなかった)

 今の突進、全く目で追えなかった。直感に従わなかったらあの爪の餌食になっていただろう。だが正直、次も勘でよけられるとは思えない。

「い、今、何が起きたのですか……?」

「アン、下がって。邪魔よ」

 リゼは戸惑うアンを押し戻して、壁際まで下がらせた。一般人の彼女が魔物のスピードについていけるはずもない。本当に邪魔でしかないので、おとなしくしているか、さっさと礼拝堂から出て行ってほしい。

「ソフィア殿、あの魔物は……」

「話しかけないで。ていうか邪魔だからさっさとここから離れて」

「でも、あなたを一人には」

 アンはしつこくそう主張したが、付き合ってなぞいられない。リゼは何か言いたげな彼女を無視して、魔物に向かって駆け出した。

 魔物はすでに方向転換を終えて、こちらの隙を窺うようにゆっくりと床を這っていた。奴は近づいてくるリゼを見て、耳障りな唸り声を上げる。その脳天めがけて、リゼは刺突を放った。

 しかし魔物は機敏な動作でそれを避け、瞬時にリゼの後ろに回りこんだ。剣先はかすりもしない。すぐさま振り返ったが、魔物の爪がすぐ目の前まで迫っていた。

 爪は剣の腹をひっかき、嫌な音を立てた。同時に服が避け、血の飛沫が散る。痛みをこらえて剣を振るったが、軽々とよけられてしまう。こいつ、メリエ・リドスの時の魔物より速い――そう思った時、背中に焼けつくような痛みが走り、リゼは前方につんのめった。

「ソフィア殿!」

 リゼが負傷したのを見て、アンは悲鳴のような声を上げ、それどころか駆け寄ってこようとする。だが、今来られても邪魔なだけだ。「来るな!」と叫ぶと、アンはぴたっと足を止めた。

 しかし、時はすでに遅かった。魔物は何を思ったのか、アンを標的に変えたのだ。

 魔物の飛び出た眼球で睨みつけられ、アンはひっと息を飲んだ。棒を放り出しすぐに逃げようとしたが、パニックになったのか足が絡み、数歩もいかないうちに転んでしまう。牙を剥き、唸り声を上げながら魔物がゆっくりと近づく一方、アンはかろうじて立ち上がったものの、恐怖のためか完全に硬直してしまい、ただ茫然と魔物を見ているだけだった。

 止める間もなく、魔物が地面を蹴った。

 奴は瞬く間にアンと距離を詰め、牙を剥いて飛びかかった。アンは両腕で頭をかばい縮こまるが、そんな行動に意味はない。魔物は人の腕の肉など軽々と抉り取ってしまうだろう。奴の爪と牙にかかって、むごたらしく殺されてしまうだろう。

 あのままなら。

 ほとんど反射的にリゼはアンの元へ走った。滑りこむように彼女の目の前まで向かい、剣を構える。そして次の瞬間には、魔物が勢いよくぶつかってきた。

 魔物が噛みついたのはアンでもリゼでもなく、細いレイピアの刀身だった。魔物はそのまま口の端が避けるのにも構わず、凄まじい力でこちらへ近づこうとする。知能は低いのか、剣に喰らいついたまま離れようとしない。ただ、目の前の獲物に襲いかかろうとしている。さらに、魔物は細長い手を伸ばして、剣を支えるリゼの両腕を掴んだ。魔物の爪が皮膚に食い込み、血が腕を伝って落ちる。

「何してるの、速く逃げろ!」

 硬直したままのアンを叱咤すると、彼女はようやく我に返ったらしい。ほとんど這うようにして、その場を離れていった。邪魔するだけしてこれなのだから、全く持って迷惑だ。しかしこれで、お荷物はいなくなった。

 だが、魔物が剣に喰らいついているせいで、リゼも身動きが取れなくなってしまった。背後は壁。魔物の膂力は凄まじく、じりじりと追いつめられている。

 壁際に追いつめられる前に、リゼは思いっ切りのけ反った。魔物は勢いのまま、リゼの上を通り過ぎていく。その瞬間、リゼは横に転がりつつ、魔物の口から剣を引き抜いた。

 魔物は壁に正面からぶつかって、ぎゃあぎゃあと泣きわめいた。口は裂かれ、体液が滴っている。だが獲物を求める本能からか、引くことはしない。魔物はすぐさま跳躍すると、血をまき散らしながら鋭い爪を振り上げた。

 何とか爪を躱し、リゼは柱の陰に回り込んだ。魔物は障害物のことなどお構いなしに爪を振るい、柱に深い溝を作る。その隙に柱から離れ、祭壇の前まで退避したリゼは、そこに落ちていたあるものを拾い上げた。

 それはアンが持って来た鉄棒だった。アンが逃げる時に放り出していたが、こんなところまで転がっていたらしい。それを持って、リゼは祭壇を背に魔物と対峙した。

 祭壇の前で仁王立ちするリゼを見て、魔物は好機だと思ったらしい。唸り声と共に、凄まじいスピードで突進を繰り出してきた。避ける暇はない。避けるつもりもなかった。

 次の瞬間、両腕に凄まじい衝撃が走った。勢いで背後に吹き飛ばされそうになるが、かろうじて踏みとどまる。

 突進してきた魔物は、見事鉄棒に食らい付いていた。棒は音を立てて変形し、あっという間に噛み千切られてしまう。隙が出来たのは噛み千切るほんの一瞬。だが、その一瞬で十分だった。リゼは鉄棒を放すと、魔物の脳天に全力で剣を突き立てた。

 耳をつんざくような甲高い声で、魔物は啼き喚いた。魔物は喚き、叫び、のたうちまわって暴れ回る。リゼは思わず剣を放しそうになったが、なんとか体重をかけて抑え込んだ。

 脳天を貫いたぐらいで、魔物は死なない。少なくとも首を刎ねなければならない。だが、抑えるのに精一杯で首を刎ねる余裕はなく、こいつを倒すには中の魔物を浄化しなければならなかった。

『消えろ』

 そう囁くと、剣を伝って魔物の中に浄化の力がなだれ込んだ。魔物は痙攣し、その動きを止める。そして大人しくなったそいつの脳天から剣を引き抜くと、一気に首を叩き落とした。

 首を失って、魔物は完全に沈黙した。同時にリゼも疲労から思わず膝をつく。背中は痛いし腕も痛い。血で手を滑らせなかったことが幸いだ。

「ソフィア殿! 大丈夫ですか!?」

 痛みに耐えていると、どこかに隠れていたらしいアンが駆け寄ってきた。彼女はリゼの怪我を見て息を飲み、顔色を変える。

「酷い怪我! すぐに手当を」

 背中のはともかく、ここまで怪我をする羽目になったのは誰のせいだと言いたいところだったが、面倒なのでやめておいた。

「いい。それより、あいつは?」

 アンの手を振り払い、リゼは立ち上がって剣を構えた。あいつは、リリスはどこへ行った。姿が見えない。もう一度魔物を呼ぶか、それとも奴自身が何かしてくるかもしれない。

「どこにいる! 姿を現せ!」

 声は礼拝堂の中に響き渡り、わずかに反響する。しかし、答える声はない。返ってくるのは静寂のみ。奴の姿も見えなかった。逃げたのか。それとも、

 その時、笑い声が聞こえた。幼子の無邪気な笑い声が。

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