追跡 2
「で、キーネスはオアシスのどこにいるの」
キーネスがよこした手紙とにらめっこしながら歩いていくゼノに、リゼは疑問を投げかけた。
フロンダリア北に位置する旅人の休息所となっているオアシスは思いの外広かった。宿屋や食事処、道具屋や鍛冶屋までもが並び、広さは小さな村ほどある。キーネスが情報収集に出掛けた二日後、約束通り来た彼からの連絡には、たった一言、このフロンダリア北のオアシスに来いと書かれていたのだ。ただ行商人や旅人で賑わっていて人探しは手間がかかる上、キーネスの手紙にはオアシスに来い、とは書かれていたものの、オアシスのどこなのかまでは記されていなかった。いや、正確には記されてはいたのだが誰にも読むことが出来なかったのだが。ただ一人を除いて。
「ちょっと待ってくれよ。もう少しで……」
ただ一人、手紙に記された合流場所を読み解ける人物であるゼノ・ラシュディは、フロンダリアを出てから一日近くの間、何回言ったか分からない台詞を繰り返した。ずっと手紙とにらめっこを続けているのでそろそろ視線で紙に穴をあけられそうなくらいだが、その割に暗号の解読は進んでいないようだった。
そう、手紙で指示された合流場所はなぜか暗号で書かれていた。「オアシスに来い。合流場所は下記の通り」までは普通の文字だったのだが、その後はミミズがのたくったような奇妙な記号が並んでいたのだ。アルベルト達にはこの記号が何を意味するのかさっぱり分からなかったが、ゼノだけはすぐに分かったらしい。この意味の分からない記号の列は、ゼノとキーネスが子供の頃、遊びで作った暗号だというのだ。そして当然、暗号作成者である本人達にしか読めない。よってゼノを頼りにするしかないのだが……
不意に手紙とのにらめっこをやめた彼はくるりと振り向くと、へらっと笑った。
「全っ然。分からねぇや! あはははは! ははは…………ごめん」
ゼノは愛想笑いを浮かべ、能天気に笑っていたが、リゼ達の非難がましい視線を受けて尻すぼみになっていった。小さくなって「いや本当に悪かった。ごめんなさい」と繰り返すが、読めると豪語しておいてこれなのだから呆れもする。リゼは頭に手を当ててため息をついた。
「で、暗号が読めないということは合流場所が分からないということ? どうするのよ」
「まあ広いといっても村ぐらいなんだから探せば見つかるんじゃないか?」
落ち込むゼノを見かねたのか、アルベルトがそう提案した。ただ、確かに探せない広さではないのだが、いかんせん人が多いのだ。ちょうど行商人達が集まっている時期らしく、この人ごみの中からキーネスを探すのは少々骨が折れる。皆一様に砂除けのマントとフードを身に着けているから余計にそうだ。その手間を省くための手紙なのに、何故暗号で書くなんてことをしたのだろう。面倒なことを……と思っていると、図ったように背後から声が飛んだ。
「探す必要はない」
いつの間にかゼノの背後に立っていた人物がそう言って進み出てきた。砂除けのフードを下ろすと、見知った顔が現れる。突然現れた親友を見て、ゼノは素っ頓狂な声を上げた。
「キ、キーネス! おまえ、いつからそこにいたんだ!?」
「少し前からだ。紙切れを見つめて歩き回っているから見つけるのは簡単だった」
しれっとそう言って腕を組むキーネス。それも口ぶりからして、キーネスの方から見つけるつもりだったらしい。
「そっちが見つけるつもりなら合流場所を暗号で書くなんて面倒なことはしないでほしいのだけど」
「そうだそうだ! 読めなくて困ったんだぜ!」
リゼの苦言に便乗してゼノも文句をつけたが、リゼが一睨みするとたじろいで小さくなった。読めなくて困ったのはともかく、読めると豪語した割に読めなかったのだから、反省して欲しい。
「悪かったな。念のためだ。だが暗号で書いていても、この通りそれほど支障はなかっただろう。ゼノのことだから忘れてるだろうと思っていたしな」
その発言に、ゼノはがくりと肩を落とした。
「じゃあなんで使ったんだよ……」
「本当に覚えてないか確認するためだ。思った通りだったな」
それから、キーネスはぶすっとしているゼノを放置して誰かを探すようにあたりを見回した。念入りといっていいほど長くそれを続けた後、
「オリヴィアは置いてきたんだな」
「連れてきた方がよかったのか?」
「まさか。病人に来られても足手まといになって困るだろう。ただお前だとあいつに押し切られるんじゃないかと思っただけだ」
「オリヴィアの押しに弱いのはオレじゃなくておまえの方だろ」
不本意だといわんばかりにゼノが言い返すと、キーネスは無言で目を逸らした。言い返されるかと思って身構えていたゼノは反撃が一切なくて拍子抜けしたらしい。あっけにとられた様子でしばらく静止していたが、キーネスが踵を返して歩き始めたのを見て、「おい、逃げるなよ!」と追いかけた。
「怪しい商人の一団がルルイリエの方角へ向かっているという情報を掴んだ。奴らで間違いないだろう。ただ、どうやら途中で二人合流して、全部で七人になっているようだ」
ゼノを完全に無視して、キーネスは本題に入った。人ごみを器用にかき分けながら進んでいく。その後に続きながらリゼは問うた。
「確かなの?」
「水売りの話によると、一昨日訪れた客に砂漠越えに必要な水を八人分買った商人の一行がいた。ところが、その一行はどうみても七人しかいない。馬車への積み込みを異様に拒否する。商品らしき木箱は数が少なすぎる上、物が入っている様子がない。行商人にしては護衛の退治屋を同行させていない。他にも色々あるが、決定的なのは、七人のうち五人が、一様に怪我をしていたことだ」
「怪我?」
「火傷だ。雷に撃たれたような魔術性の傷。包帯で隠していたらしいが、顔のはさすがに隠しきれなかったようだ」
つまり、オリヴィアが付けた傷ということか。ここまで怪しい点が揃えば、悪魔教徒達で間違いないかもしれない。
「シリルは無事なのか……?」
ゼノが心配そうに尋ねると、キーネスはすぐさま答えた。
「フロンダリアの入口辺りで、金髪の少女を馬車に連れ込んでいる様子が目撃されている。少なくともその時は外傷等は見られなかったそうだ。今はどうかしらんが、水を用意しているなら殺す気はないだろう」
「そう……だよな。わざわざ誘拐している訳だし……」
「余った分がクロウの分ならの話だがな」
「……おまえ、もうちょっと安心出来るようなことを言えよ」
ゼノの抗議に、仮定の話だ、と事もなげに言って、キーネスは話を続けた。
「奴らが向かっているのはルルイリエの方角だ。無論、目的地はそこではないだろう。奴らが悪魔教徒なら、目指すのはその先だ」
ルルイリエの先にあるもの。悪魔教徒が向かうであろう場所。なるほど。そんな場所は一つしかない。皆の考えを代弁するかのように、アルベルトがその場所の名を呟いた。
「――ヘレル・ヴェン・サハル特別自治区か」
ヘレル・ヴェン・サハルは悪魔教徒の中心地だ。
アルヴィアとミガーは別々の大陸にあり、帯状の内海で隔てられている。ゆえに二国間の行き来は船でしかできないが、一か所だけ、地続きになっている場所がある。
アルヴィア側から南へ伸びる半島が一つ。その対岸、ミガー側から北へ伸びる半島が一つ。向かい合う二つの半島の間に、挟まれるように島が一つ存在している。アルヴィアでもミガーでもない、どちらにも属さない場所。
それが“背徳の島”と称される悪魔教の総本山ヘレル・ヴェン・サハル特別自治区だ。
「ヘレル・ヴェン・サハルに向かっているとなると、シリルを悪魔召喚の生贄にするというのはあながち間違いでもなさそうですわねえ」
ティリーの推測に、ゼノが不安そうに顔をしかめる。ヘレル・ヴェン・サハルでは魔王を喚び出すため、日々悪魔召喚が行われていると言われているのだ。ゆえにこの世に存在する悪魔は全てヘレル・ヴェン・サハルにある地獄の門から喚ばれたものだとされている。たとえ生贄にされなくても、シリルがそんな場所に足を踏み入れたらどうなるか、想像に難くない。
「島へ入られると面倒なことになる。その前に奴らに追いつかなければならない。そのために協力してくれる人物に、すでに話をつけてある」
「レーナが話していた行商人のことか。そういえば、彼女はどうしたんだ?」
「とっくの昔にメリエ・リドスへ帰った。仕事があるからと言ってな」
喋りながら、キーネスは立ち並ぶ道具屋の間の路地に入っていく。砂に煙る狭い路地を抜けると、広い停留所のような場所に出た。
「あれだ」
キーネスが指差す先には、オアシスの岸辺に並ぶ三台の馬車があった。馬車といっても車輪ではなく橇のようなものがついていて、前方には砂色の馬のような生き物が繋がれている。数人の旅装束の人々がその生き物に水を与えたり馬具の状態を確かめたりして世話を焼いていた。
キーネスは三台の馬車の内、手前にある最も大きい馬車へ足を向けた。よく使いこまれた頑丈そうな馬車で、五頭の砂色の馬が繋がれている。その隣には、馬車に繋がれていない馬が一頭、桶から水を飲んでいた。キーネスは馬車に近づくと、その横で何やら作業をしている男性に話しかけた。
「ローグレイ殿。話の通り、護衛を連れてきた」
話しかけられた男性は作業の手を止めると、振り返って立ち上がった。
壮年の、取り立てた特徴のない人物だった。中肉中背。小じわの寄った目じりに無精髭と、平々凡々な容姿だ。
「キーネス殿! 待ちかねてました」
男性は人のよさそうな笑みを浮かべ、そう言った。笑みで目じりの皺がますます深くなる。キーネスは振り返ると、
「ローグレイ商会とそれを率いるエドワード・ローグレイ氏だ」
紹介を受けて、エドワードは使い込まれてよれよれになっている帽子を取った。そのままお辞儀をすると、心なしか毛髪の少ない頭頂部が露わになる。頭を上げたエドワードは帽子をかぶり直すと、自信にあふれた様子で言った。
「キーネス殿から話は聞いてます。ルルイリエ方面へお急ぎだそうですね。我らローグレイ商会ならば三日とかかりません。お任せください」
ローグレイ商会は商隊の規模こそ小さいものの、どこよりも速い商品配達で着実に利益を上げている商会だという。移動速度を維持するため少数精鋭。多くの荷物を運べない代わりに配達の速さを売りにしている。それを可能にしているのが、馬車に繋がれた砂色の馬のような生き物、砂馬である。
砂馬は馬の中でも砂漠に適応した種族のことで、背中に盛り上がった瘤のようなものがあること以外、見た目は普通の馬とほとんど変わりはない。大きく異なるのは砂漠のような高温環境下でも最低限の水分で生きていけること、平地と変わりないスピードで走れることで、砂漠の移動には欠かせない生き物だという。
「多くの行商人が砂馬車を使用していますが、その中でもうちの馬は最速です。ルルイリエまでなら五日かかるところを二日と少しで済みます。他所の二倍は速いってことでさ」
エドワードは自慢げにそう言って胸を張った。砂馬車のことは詳しくないが、それだけ速いなら追いつくのは難しくないだろう。
「助かるわ」
「ですわね。この暑い中、歩かなくていいですし。――ところでキーネス。先程護衛と言っていましたけど」
ティリーが尋ねると、キーネスは、
「辻馬車じゃないからな。運賃の代わりに商隊の護衛をする条件で了承してもらった」
「すみませんが、うちも商売があるのでタダというわけにはいきませんので」
そう言って、エドワードは軽く頭を下げる。そういうことなら別に文句はない。悪魔教徒と一戦交える予定なのだから、魔物退治ぐらいなんてことないのだ。
「ちなみに、積み荷は砂漠産の蒸留酒です。大事な商品なので、魔物が現れた時はよろしくお願いします」
馬車の中には沢山の樽が積まれている。おそらくあれが商品なのだろう。他の二台の馬車にも同様に樽が積まれている。馬車の中には火の霊晶石が入ったランプが下がっていた。
それから、エドワードは馬車の横で砂馬の世話をしていた人物に手招きした。その人物は抱えていた桶を置き、小走りでこちらへやってきた。
「自分は御者をしなければならんので、その間必要なことは彼女に聞いて下さい」
エドワードがそう言うと、その人物は砂除けのフードを取った。
「紹介します。妻のカティナです」
カティナは平凡な容姿のエドワードと違って、かなりの美人だった。綺麗に結われたライトブラウンの髪に、優しげな瞳。砂漠にいることが多いだろうに、肌には日焼けもシミもない。なによりエドワードが五十代に見えるのに対して、カティナはどう見ても二十代である。見た目の年齢差が大きいので、夫婦というより親子に見えるぐらいだ。
「こんにちは。分からないことがあれば、なんでも聞いてくださいね」
ライトブラウンの髪をなびかせ、カティナは微笑んだ。すると彼女を見たゼノが目を丸くして言った。
「カティナさん!?」
「あらゼノくん。久しぶりね」
驚いているゼノに、カティナは嬉しそうに笑いかける。その様子を見て、アルベルトがゼノに訊ねた。
「知り合いなのか?」
「知り合いも何も、キーネスのねーちゃんだよ」
結婚したとは聞いていたけどこんなところで会えるなんて……と、ゼノは少し嬉しそうにしている。その様子を見て、リゼは呟いた。
「キーネスのお姉さん?」
「はい、そうです。弟から聞いていませんでしたか?」
もちろん聞いていない。ローグレイ商会と話をつけたとは言っていたが、身内がいるなど一言も言っていなかった。ゼノもいるのに、である。
そのことを察したのか、カティナはいつの間にか一歩引いた所にいるキーネスに近付いた。腰に手を当て、若干咎めるように言う。
「キーネス、わたしのこと、言ってなかったの?」
「……わざわざ言う必要があるのか」
「ゼノくんもいるんだし、伝えておいてもよかったじゃない。説明する手間も省けるし。もう、気が利かないんだから……まあいいわ。それで、こちらの皆さんは新しいお友達?」
「依頼人だ」
「そうなの。皆さんに迷惑かけたりしてない? 仕事は順調? 怪我してない?」
「……聞かなくても分かるだろう」
「もう、見ただけじゃ分からないことだってあるのよ? しょうがない子ね……そうそう皆さん、弟がお世話になったみたいでありがとうございます。愛想はないけど悪い子じゃないから仲良くしてあげて下さいね」
微笑みながら語るカティナの横で、キーネスは渋面を作っている。ため息をつきながらも反論しないあたり、頭が上がらないというのは本当らしい。キーネスは姉に育てられたと言っていたし、ああいうのは姉というより母親らしい、というのだろうか。
苦い顔をするキーネスと、微笑んでいるカティナ。知り合いに会えて嬉しそうなゼノ。リゼとしては速く本題に入りたかったが、さすがに家族や知人との再会を邪魔するのは気が引けた。仕方ないので、話が終わるのを待つしかない。そうしていた時、何気なく隣を見ると、アルベルトの様子がおかしいことに気が付いた。何か気になることでもあるのか、カティナの顔を食い入るように見つめている。その視線に気づいたのか、カティナは不思議そうな顔をして首をかしげた。
「わたしの顔に何か?」
そう訊ねられて、アルベルトは我に返ったらしい。一瞬戸惑ったように視線をさ迷わせたが、その次には思わずといった様子で尋ね返した。
「あ、いえ……あの、以前どこかでお会いしましたか?」
「…………? いいえ。人違いではないかしら」
カティナは首を傾げながら否定する。アルベルトは自分の思い違いだったと納得したようだ。「変なことを訊いてすみません」と、軽く頭を下げた。カティナはというとさほど気にしていないらしい。すぐににこりと笑って、
「いえいえ、ごめんなさいね。ナンパはお断りしているの。わたしにはもう素敵な旦那様がいるから」
とても楽しそうに言った。
「え!? い、いやそんなつもりは……!」
思いがけない台詞に、アルベルトは心底驚いたらしい。大いに慌てた様子で否定の言葉を口にした。しかしカティナはくすくすと笑い、どこか面白がるように続ける。
「独身だったら大歓迎なんだけどね。あなたかっこいいから」
「あ、いえ俺は本当に全くそんなつもりではなく……」
「あら、照れてるの? 可愛いわね」
楽しそうに笑われてしまって、アルベルトはますます困ったような顔をした。彼のことだから「以前会ったことがないか」は文字通りの意味なのだろうし、ましてやナンパなどそれこそ天地が引っくり返ってもあり得ないだろう。有り得ないから当人は予想外の反応に困っているのだろうけど。
「私は速くあいつらの後を追いたいのだけど」
リゼは腕を組むと割り込むようにそう言った。馬鹿みたいなやり取りをしている場合じゃない。敵の行き先がわかっているのだから、さっさと追いかければいいのだ。
「ランフォードの言う通りだ。さっさと“仕事”の話をしよう」
ようやく話を進められると思ったのか、キーネスが安心した様子でそう言った。ついでに、楽しそうな姉に対して釘を刺す。
「それと姉貴、スターレンで遊ぶな」
「ごめんなさい。つい」
カティナはくすくす笑うと、
「じゃあ、わたしは失礼します。何か欲しいものがあったら言って下さいね」
そう言って、カティナは馬車の中に引っ込んでいった。
姉の姿が見えなくなったためか、キーネスは途端にほっとしたような顔して、
「さて、これでようやく奴らの話が出来るな」
懐から一枚の紙を取り出した。
それはこのルゼリ砂漠北部の詳細な地図だった。現在地であるオアシスは地図の中央付近、ルルイリエは左上の方に位置している。ルルイリエは砂漠の北西の端にある町。そこから西の方へ行くとミガー西部の農業地帯に入る。そこから南下するとコノラトと人喰いの森があり、その近くの山間の街道を東に進めばフロンダリアのあたりに出るから、リゼとアルベルトは砂漠と農業地帯の間の山脈を中心にぐるりと一周することになったわけだ。
「奴らはおそらくヘレル・ヴェン・サハルに向かっている。ならば当然、ルルイリエからさらに北上して半島を通るだろう。だがここまで行く必要はない。ローグレイ商会の砂馬車ならルルイリエの辺りで追いつけるはずだ」
任せて下さい、とエドワードは言う。キーネスは頷くと、リゼ達はさらに続けた。
「お前達は砂馬車で奴らの後を追ってルルイリエに向かえ。詳しいことはローグレイ氏にすでに伝えてある」
「おまえ達は、って、おまえはどうするんだ?」
「俺は先に行って奴らの動向を探る」
キーネスは地図を畳むと、馬車に繋がれていない砂馬に近づいた。砂馬はすでに水分補給を終えていたらしい。荷物はきっちり積まれていて、いつでも出発できそうな状態だ。キーネスは砂馬に軽々と飛び乗ると、手綱を手に取った。
「俺は先に行って奴らの動向を探る。新しい情報を得たら連絡する」
キーネスはそう言うと、砂馬に鞭を打った。
「あいつあれに乗れんのか。すげぇなあ」
砂煙を巻き上げて遠ざかっていく親友の後姿を見ながら、ゼノは感嘆の声を上げた。その彼に、アルベルトが尋ねる。
「あれって、乗るのは難しいのか?」
「まあオレも乗ってみたことあって、確かに速いんだけど……」
そう言いながら、ゼノは遠い目をした。
「乗り心地はそんなによくねぇんだよな……」




