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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
アルヴィア帝国編
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赦されるもの赦されぬもの 9

 静かな倉庫の中で、アルベルトは一人思案していた。

 リゼとティリーは真偽を確かめるため、役場へ戻っていった。一方、アルベルトは証拠品である麻薬の木箱を見張るため、ここに一人残っている。麻薬密売の真犯人が誰であろうと、証拠隠滅のためにこの倉庫にやってこないとは限らないからだ。一人で考え事をしたいということもあったが。

(ロドニー審査官が密売に関わってるなら、速くアンジェラに教えないと……)

 審査官を捕えるとなれば――まだ密売に関わっていると確定したわけではないが――アンジェラの協力は不可欠だ。確たる証拠を掴むことができれば、たとえ高位の審査官であっても言い逃れは出来ないはずだ。問題は少なくとも明日、いや今日の昼頃になるまでアンジェラに会えないことだが。彼女の居場所が分からない以上スミルナに行くわけにはいかないから、出向いてきてくれるのを待つしかない。

 アルベルトは懐から覚書を取り出し、ぱらぱらとめくった。実際に東の倉庫街に密売人のアジトはあった。しかしここは本拠地ではなく、本来の用途通り倉庫としてしか使っていないだろう。妙な魔物がいたとはいえ警備が薄すぎるし、ここには麻薬しかない。どこかに本拠地があるはずだ。ここではない、どこかに……

(そういえばこれは……)

 隣の部屋でゴロツキ達が伸びているはずだが、まだ目を覚ましていないのかそこからは物音一つ聞こえない。

 アルベルトは錆びた鉄骨がむき出しの天井を見上げた。普通なら暗くてよく見えないだろうが、あいにくアルベルトの眼は普通とは違う。目を凝らして鉄骨の向こうを見つめていると、闇の中に動く影を見つけた。あれは……

 その時、真後ろの窓のガラスがけたたましい音を立てて割れた。振り返ると月光を背に黒ずくめの男が飛び込んでくるところだった。その手にはギラリと光る刃がある。襲って来る短剣を躱し、アルベルトは剣を抜いた。間髪入れず男が投げたナイフを弾き返し、後ろに下がって距離を取る。続いて投擲されたナイフも全て叩き落とし、あるいは避けた。

 すると男は剣を構えて突進してきた。鋭い切っ先を剣の腹で受けると、倉庫の中に高い金属音が鳴り響く。

「一体お前は何者、だ!」

 少し力を込めて剣を振り、男の短剣を弾き返す。そのままの勢いで剣を振り抜いて、背後から襲ってきた一本の矢を斬り落とした。続く矢も全て斬り捨て、床に落ちているナイフを蹴りあげる。左手に収まったそれを、天井――矢の飛んでくる方向へ投げつけた。

 呻き声。倒れる音。しかしその正体を確認する間もなく、男が再び向かって来る。繰り出される斬撃が服をかすめる。そのスピードは恐ろしく速い。だが、

 振り下ろされた短剣を受け止め、滑らせて受け流した。そのまま剣を翻し、男の手から短剣を吹き飛ばす。武器を失った男が投擲ナイフを取り出そうとしたところへ、袈裟懸けに斬りつける。利き腕を斬り裂かれ、ひるんだ男の鳩尾にさらに剣の柄を沈めた。そいつは肺の中の空気を吐き出して苦しげな呻き声を上げる。

「お前は何者だ? なぜ俺を襲ったんだ?」

 しかし、男は答える気はないらしい。黙ったままじっとしていたかと思うと、ふいに腕を動かした。

男の袖から転がり出たのは握り拳ほどの球体だった。

 轟音と閃光が迸り、衝撃が倉庫全体に響き渡る。さらに炎が噴き上げて麻薬が詰まった木箱を飲み込み、さらに部屋全体へと回っていく。

 爆弾が炸裂する直前に窓から脱出したアルベルトは、路地に立って燃える倉庫を見上げた。

 なんだ、あいつは。爆弾を使って捨て身の攻撃をしてくるなんて。

「いやあ派手なことしてくれるな。あいつは」

 その時、背後で聞き知った声がした。振り返ると、そこには何人もの人間が武装して集まっていた。よく見ると、商人風のひげ面の男と他にも何人かが縛り上げられている。どうやら連行している途中らしい。

「無事みたいだな。アルベルト」

 武装した自警団を率いていたのは、ゴールトンその人だった。




 薬品箱に埋もれるようにして隠されていた扉の向こうには、さらに大きな倉庫があった。扉から部屋の反対側の扉まで橋のように渡された細い通路。吹き抜けになった階下には大量の薬品棚。そこに並べられているのはたった一種類の薬。薬品くさい倉庫を抜けて、さらに奥の部屋を目指す。鍵のかかった扉をこじ開けて進んでいくと、何もない大きめの部屋にたどり着いた。いくつか扉がある以外は特筆すべきところのない部屋。その奥に目的の人物がいた。

「あなたが黒幕ね。ラウル」

「……何の話だ」

 相変わらず疲れた様子で、ラウルは言う。見た目は冴えない中年男だが、一応悪魔研究家だ。ティリーのように魔術を使えてもおかしくない。不意打ちで魔術を使われても対応できるように、リゼは身構えてから言った。

「麻薬の密売。指揮しているのはあなたでしょう。ゴールトンではなく」

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