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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
175/177

~幕前~ 理不尽1

この世界は、何もかも

 はらり。はらり。

 天から舞い落ちる白い欠片が、静かに降り積もっていく。大地は真白に染まり、全てを冷たく閉ざしていく。降り注ぐ雪以外動くものは何一つなく、樹々ですら息を殺しじっと身を潜めている。常緑樹の暗い緑。黒々とした幹。それらを覆う六花の白。――そして、その中に埋もれかけた緋色が一つ。リゼ・ランフォードは糸杉の下で、降りしきる白に塗れていた。

 どれほどの間、こうしてここにいたのだろう。俯いて座り込むリゼの頭部や肩、膝の上には、すっかり雪が積もっている。初めのうちは寒さを感じていたように思うのだが、今はもう何も感じない。硝子玉のような瞳に雪の大地を映しながら、少しずつ這い寄る白い闇に身を浸していく。

 いつの間にか、四肢がバラバラになった女の死体は消えていた。首を裂かれた男の死体も、苦悶の表情を浮かべた老人の死体も。責めるように何度も現れた、いるはずのない者達。初めのうちは怯えていたけれど、そんな感情すらとうに凍り付いてしまった。だから、彼らも消えたのだろうか。

 それと入れ替わるように、彼らがいた場所に一つの影が現れる。死体ではない。傷一つなく直立し、こちらを見ている。ゆるゆると視線を上げると、そこにはアイツがいた。

 赤い瞳のアイツが目の前で嗤っていた。ニヤニヤと、嬉しそうに。

 ――ああ、やっぱり駄目なのかな。

 でも、もう身体は動かない。アイツとは戦えない。そもそも勝てるわけがない……。歪む視界の中で、アイツはますます笑みを深くする。約束、守れなかった。後悔とも諦念ともつかぬ心境でそう呟くと、白い闇が速度を増して這い寄ってきた。

 闇に飲まれながら、リゼは目を閉じる。堕ちる。堕ちる。堕ちていく。全てが終わる場所へ、深く、深く。

 そして、最後に残った意識の一欠片が、闇に堕ちそうになった時。

 鼓膜をつんざくような静寂の中に、物音が割り込んだ。

 ざく。ざく。

 閉じかけた意識が浮き上がる。雪を踏む音がだんだんと近付いてくる。それはあるところまで近づいたかと思うと、急に間隔が短くなった。無表情になったアイツの姿がふっと掻き消える。それと入れ替わるように、人影が視界に割り込んだ。

 それを最後に、リゼは目を閉じた。

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