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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
アルヴィア帝国編
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~幕間~ ただ一つの目的

――悪魔に苦しむ人を救う。私が何故そんなことをしているんだと思う? あなたみたいに『苦しんでいる人を救いたい』なんて立派な理由じゃない。




 四方から、たくさんの魔物が襲い掛かってくる。

 鳥のような姿をしたもの。狼のような姿をしたもの。見た目はただの肉の塊でしかないものまで、たくさん。しかし、恐れるほどの相手ではない。

『凍れ』

 周囲に自然のものではない冷気が渦巻く。魔力によって生み出され、意志を持って逆巻くそれは、魔物達を飲み込んで凍りつかせていく。

 一瞬、全ての時が止まったような静寂が降りる。しかしそれは本当にわずかな間のこと。次の瞬間、凍りついた魔物達は氷ごとバラバラに砕け散った。

 それと共に奇妙な啼き声が聞こえてくる。硝子を爪で引っ掻いたような、そんな不快な声。深淵から響く悪魔の声。

 耳障りだ。

『消えろ』

 再び魔力を奔らせると、ボロボロになった宿主を捨て逃げようとする悪魔達が一斉に魔力の鎖に絡めとられる。そこへ更なる魔力を注ぎ込んで一気に悪魔を浄化した。

 耳障りな悪魔の断末魔。叫んでいるような、啼いているような、吠えているような。重苦しくて不愉快な悪魔の啼き声。うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

『悪魔よすべて消えてしまえ!』

 纏わりつくような声を振り払いたくて、私は力の限りそう叫んだ。




「何をしてるんだ?」

 魔物を撃退した後、声をかけてきたのはアルベルトだった。ティリーと一緒に野営地にいたはずなのに、いつの間にやってきたのだろう。彼は私の周り――見事に消し飛んだ魔物達を見て、少しばかり呆れたように言った。

「というより、いつもこんなことしているのか? 最近よく散歩に行くとか言って一人でどこかへ行っていたけど」

 最近ではない。以前からやっていたことだ。特にアルベルトに会う前は。今はティリーの質問攻めをかわすためでもあるけれど、それは結果的にそうなっただけで。

「先ほど魔術で周囲の魔物をまとめて吹き飛ばしたんだろう? いや周囲どころか、このあたり一帯の悪魔を全て消し飛ばした。魔物を倒すためだけにしては無茶すぎると思ってね。君は魔物に遭遇したから戦ったのではなく、悪魔を消すために戦ってたんじゃないか?」

「……だったらなんだっていうの。魔物も悪魔もいない方がいいでしょう?」

 悪魔なんて、放っておいたらどうせまた誰かを襲うなり取り憑くなりするだけだ。ならいない方が誰にとってもいい。

「別に悪魔を消すことに文句があるわけじゃないんだが……悪魔召喚の時も怪我を治してまで戦おうとしただろう」

「あれは治す手段があったし、あなた一人に任せておけなかったからよ」

「それでも君は悪魔と戦う時、なんというか……必死なんだ。どうしてそれほど思い詰めているんだろうと思ってね」

「……前に言ったでしょう。家族を殺されたって。目の前で母親が悪魔に食い殺されたら誰だって思い詰めたりするわよ」

 単身悪魔の群れに挑み、それきり帰ってこなかった父親。悪魔に取り憑かれ、周囲に被害を及ぼすまいと自ら命を絶った叔父。魔物との戦いで魔力(ちから)を使い果たし、衰弱死した祖父。それらはすべて、

「みんな私を庇って悪魔に殺された。だから私は、私の家族を殺した悪魔に復讐する。そうせずにはいられない」

「……君はひょっとして償いたいのか? 自分のせいで家族が死んだと思って――」

「償う? 違うわ。ただの自己満足。悪魔を全て滅ぼしたところで、死んだ人間が帰って来るわけじゃないから」

 そう、ただの我が儘だ。全ての悪魔を滅ぼすことは、誰のためでもない。自分がそうしたいというだけのこと。そんなこと、償いにもならない。

「ラオディキアを出た時、君は悪魔を全て滅ぼしてやると言っていたな。君はそうやって、全ての悪魔を滅ぼすまで戦い続けるつもりなのか?」

「そうよ。全ての悪魔を滅ぼすことが私の目的。私の復讐。たとえ何年かかろうと、私が死ぬまで」




――私は、家族を殺した悪魔に復讐したかった。悪魔なんて全て滅ぼしてやる。そう思っているだけ。




 それが、私の戦う理由。悪魔を祓い、取り憑かれた人々を癒しているのも、ただ悪魔を滅ぼしたいからに過ぎない。



 今の私には、出来ることもやりたいことも、それしかないのだから。


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