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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
159/177

全ての人間が持つ力 2

 ミガー唯一の貿易港メリエ・セラスは、今日も今日とて灼熱の中にあった。

 窓から差し込む光はギラギラとして厳しい。砂漠特融の灼熱の日差しは暴力的なほど降り注ぎ、窓越しでもその強さに辟易するほどだ。窓から少し離れた場所で、絨毯に落ちる日差しの強さを眺めていたリゼ・ランフォードは、声をかけられて振り返った。

「ランフォード、お前の依頼通り、両国の悪魔教徒が関わっていそうな不審な事件を調べてきた」

 キーネスが机の上に投げ置いたのは、麻紐で括られた紙の束。彼が調査してきた事件の一覧だ。リゼは麻紐をほどき、紙を広げる。そこには依頼した内容がずらりと書かれていた。

「ルルイリエの魔物。アスクレピアのダチュラ。フロンダリアの神殿爆破。サーフェスの子供誘拐。メリエ・リドスの麻薬……」

 一覧の先頭に書かれていたのは、これまでリゼ達が遭遇したもの。更にその下には、様々な事件や事象が並んでいる。例えば、各地で起こっている局所的な異常気象。悪魔の活性化が自然環境に影響を与えているためと考えられている。アルヴィアでは数年前から街の内外問わず行方不明者が増加。ミガーでも音信不通の退治屋の数が増えている――とあるが、その項目については「原因・アスクレピアに退治屋を呼び込んだため」とあった。

「魔物関連では、ミガー東部では滅多に魔物が出ない場所に、魔物が大量発生する事件があったらしい。アルヴィアも同様だ。巡礼者の団体が突如現れた魔物の襲撃を受けている。護衛の騎士がいたが、まるで歯が立たなかったそうだ」

 悪魔教徒が関わっているかは定かではない。だが、今までの法則によらない魔物の出現があちこちで見られている。キーネスはそう締めくくった。

 報告書を読み進めると、そこにも悪魔教徒が関わっていると思われる事件が並んでいる。こちらの方が最近のもののようだ。リゼは上からざっと目を通していく。似たような魔物増加の記述を追いかけていたところで、下の方に記された記述が目に留まった。

「これって……」

 そこに書かれた内容を目にし、リゼは険しい表情で静止した。まさかこんなことがあったなんて。これもリリスの仕業なのだろうか。問題の項目を凝視していると、リゼの様子に気づいたアルベルトが何事かと視線で問うてくる。リゼは視線を用紙に落としたまま、最後の項目を読み上げた。

「――スミルナの貧民街が消滅した」

「なんだって!?」

 声を上げたのはアルベルトだ。彼は血相を変えて、リゼの手元を覗き込む。残念ながら、読み間違いでもなければ記載ミスでもないらしい。何度読み返しても、その事実は紙の上にあった。

「俺達がスミルナを出た数日後、黒い閃光と共に貧民街が消えたらしい。跡形もなく、誰一人として残っていない。あの悪魔襲撃騒ぎ、その上集落が一つ消えたとあって、スミルナやその周辺は大騒ぎだそうだ」

 と、キーネスが内容を補足した。

「まさかリリスの仕業か……! 悪魔召喚に失敗したからと貧民街を……!」

 手を強く握り締め、アルベルトは酷く悔しそうに呟く。彼は深く溜息をつくと、力なく肩を落とした。

「人が亡くなったのは悲しいことですけど、貴方も人が良いですわね。貴方とゼノは貧民街の方々に売られたのでしょう?」

 不意にそんなことを言ったのはティリーだった。貧民街での成り行きは、大体のところを二人から聞いている。ティリーにとっては、アルベルトがそこまで心を痛めていることが不思議なようだ。

「あれは仕方がないことだ。教会の言うことを聞かなければ……処刑されていたかもしれないんだから」

 アルベルトは少し悲しげな眼差しで続ける。

「彼らだって、生きるのに必死なんだ。祓魔の秘蹟を受けられる。そのわずかな希望に縋って取引に応じたくなるもの無理はない。それに俺は――」

「お人好し」

 貧民街の人々を庇うアルベルトの言を、リゼはばっさりと切り捨てた。アルベルトは驚いた様子で、リゼの方を見る。

「彼らの状況には同情するけど、それとやったことを許すかどうかは別。あなたとゼノが教会に捕まったせいで、こっちは余計な心配をする羽目になったんだから」

「それはすまない。でも――」

「だから何であなたが謝るのよ。全く」

 本当に、お人好しなのだから。リゼは溜息をついて、手元の報告書に視線を落とす。用紙の最後に記された、貧民街の消滅という無機質な文字。その文字がぐしゃりと歪んだ。

「でも、貧民街を消したのが悪魔教徒――リリスの差し金だっていうなら、次会った時に必ずツケを払わせてやる」

 奴に好き勝手させるつもりはないし、相応の報いを受けさせてやる。リゼは悪魔教教主の不愉快な語り口を思い出し、リゼは静かに怒りを燃やした。

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