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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
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襲撃 11

 建物の中は昼間にも関わらず、暗闇に満たされていた。入口から指す光を頼りに辺りを見回してみれば、近くの窓と思われる部分に金属の板が取り付けてある。内側にあるので、“安らぎの家”の誰かが設置したのだろう。おかげでリゼには何も見えない。明かりをつけようと思って荷物を調べていると、背後から声が響いた。

「明かりがいるな。今つける」

 いつの間にかついてきたジャックが小さく呪文を唱えると、こぶし大ほどの光球が彼の手に現れる。光球は眩く輝き、倉庫の中を照らし出した。

「ちょっと、中の探索は私達だけで十分よ」

 リゼは振り返ってそう言ったが、ジャックは怪訝そうに眉に皺を寄せた。

「ザウンのことを余所の者に任せるわけにはいかないだろう。――退治屋同業者組合(ギルド)だ! 助けに来た!」

 ジャックが大声で呼ばわると、右手の方で物音がした。そちらへ明かりを向けると、棚と壁に挟まるようにして蹲っている人影が一つ。怯えた様子の彼はジャックの姿を認めて安堵と恐怖が入り混じった表情を見せた。

「退治屋か……! 助かった……」

 ところどころ服が破れ、砂まみれになった男が這い出しながらそう呟く。服に血が滲んでいるところを見ると、魔物に襲われたが運よく逃げ出せたというところか。どうやら彼がここに逃げ込んだザウン訪問者らしい。服装から察するに、案の定行商人のようだ。男はふらつきながら立ち上がると、ジャックに詰め寄るように近づいた。

「お、奥に仕事仲間がいるんだ……! あ、あっちに……!」

 男が指さす方向には、暗い闇が通路を満たしている。人の姿は見えない。アルベルトに視線を向けると、「左の物陰にいる」と答えた。左方には人の身長ほどの高さまで木箱が積み上がっている。どうやらこの部屋は物置らしい。その後ろが見えるようにゆっくりと回り込むと、不意に人影が木箱の後ろから現れた。

「うう……助けて、くれ……」

 よろよろと手を伸ばしたのは、ボロボロの衣服に身を包んだ一人の青年だった。先程の男と同じく、魔物に襲われたせいだろう。あちこちに血が滲んでいて痛々しい。そして青年の両の目は、衣服に滲む血よりも赤く染まっていた。

「悪魔憑きか!」

 アルベルトが視たのはこの人だろう。目の色は変わっているが、まだ正気を保っているようだ。こちらに襲い掛かってくる様子はない。

「やっぱり悪魔憑きが……! 一体どうするんだ」

 後を追って近づいてきたジャックが不安げに呟く。ただ、彼が知る由もないが、その心配は無用だ。うろたえるジャックに、アルベルトが“安らぎの家”の入り口を指して見せた。

「ジャックさん。その人を外へ」

「しかし――」

「彼は俺と彼女で対処します。速く」

「あ、ああ」

 ためらいながらも、ジャックは男を連れて出口へ向かっていく。彼らが外に出たのを横目で確認してから、リゼは悪魔憑きと向かい合った。

「呼ばれてるんだ……声が……呼んでる……行かなければ……行かなければ……」

 ぶつぶつと呟きながら、青年はふらふらと歩いている。先程まで助けを乞うていたのに、今は目の前のリゼの姿すら目に入っていないようだ。我を忘れつつある青年に、リゼはためらうことなく近づくと、魔力を集中させた。

『虚構に棲まうもの。災いもたらすもの。深き淵より生まれし生命を喰らうもの。理侵す汝に我が意志において命ずる』

 虹色の光の輪が悪魔憑きの青年を拘束した。

『彼の者は汝が在るべき座に非ず。彼の魂は汝が喰うべき餌に非ず』

 魔力を開放し、青年の中にいる悪魔を炙りだしていく。黒い靄の塊は青年にしがみ付いているかのようだったが、光で拘束し、少しずつ引きはがしていく。青年の悪魔憑依はまだ浅い。浄化にそれほど労力はかからないだろう。魔力を強め、悪魔を光で照らす。光に当てられて、悪魔は少しずつ青年から離れていき――

『惑うことなく、侵すことなく、汝が在るべき虚空の彼方。我が意志の命ずるままに、疾く去り行きて消え失せ――』

「危ない!」

 声が聞こえた瞬間、内臓に響くような轟音が身体を貫いた。突然のことで何が起こったか分からないまま、衝撃と舞い上がる粉塵を避けようと目を閉じる。細かい塵に身体を打たれて体勢を崩したが、何とか倒れることなく踏みとどまった。そして目を開けると、目の前では頭上に迫る黒い何かと、それを阻むアルベルトの結界が火花を散らしていた。

「これって……!?」

 巨大な魔物の腕だ。それが天井を突き破って、こちらを狙っている。アルベルトがギリギリ押しとどめてくれたおかげで、直撃を受けずに済んだようだ。悪魔祓い師の結界は今にも壊れそうな様子で明滅を繰り返している。しかし、アルベルトはそれにも構わず一歩踏み出すと、“腕”の掌を縦に斬り裂いた。

 濁った体液を散らしながら、“腕”は退却していった。傷口から滴った体液によって、瓦礫が紫に染まっている。だがこの程度の傷では、奴はすぐ戻ってくるだろう。リゼは体勢を整えると、レイピアを引き抜いた。後ろを振り返ると、悪魔憑きだった青年は気を失って倒れ伏している。浄化はギリギリ間に合ったようだ。

「リゼ、無事か? その人は?」

「無事よ。助かったわ。それよりさっきのは――」

「あれはオアシスから来たみたいだ。きっとすぐに戻ってくる。一度退こう」

 アルベルトは素早く青年を担ぎ上げ、通りの方へと足を向ける。リゼもオアシスの方向を警戒しながら、その後に続いた。魔物の咆哮が背後から飛んでくる。あの“腕”の襲撃で、オアシスにいる連中もこちらのことに気付いたのかもしれない。足早に天井がなくなった倉庫を抜けて通りへ出ると、焦ったような声がこちらへと届いた。

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