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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
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襲撃 8

 ローグレイ商会の砂馬(カメル)車で移動すること一日足らず。リゼ達がザウンにたどり着いたのは、昼過ぎのことだった。

 砂馬車は相も変わらずひどく揺れたが、その分、他の手段を使うよりもはるかに速く目的地に着くことができた。昇降時に魔物に襲われることを避けるため、ザウンから少し離れたところで降ろしてもらい、そこからは徒歩でザウンに向かう。安全のため砂馬車はメリエ・セラスへと引き換えし、リゼ達はザウンへと乗り込んだ。

 壊れた門をくぐると、そこには破壊され、閑散と佇む街並みが広がっていた。

 元は活気があったのだろう、砂漠の中継地点であるザウンの町は数多の破壊でぼろぼろになっていた。へこんだ屋根。崩れた壁。破壊の痕は生々しく、一歩踏み出すと足元で煉瓦の欠片が音を立てた。

「酷いわね」

 魔物が突っ込んだのか、商店街と思しき建物のいくつかは壁に大穴が空いている。大きなテラスがある飲食店の机や椅子は砂まみれになって転がり、あるいは破壊されていた。当然店員の姿はなく、魔物もどこかに移動したのか薄闇を湛えた壁の穴がぽっかりと口を開けているだけである。他にはなにもいない。

「……遺体がないな」

 辺りを捜索している途中、アルベルトが呟いたその一言に、リゼははっとした。確かに瓦礫は山ほどあるが、住民の死体はどこにも見当たらない。魔物が喰らったにしては綺麗すぎる。不思議に思っていると、キーネスが疑問に答えるように言った。

「避難したんだろう。町には魔物が防衛ラインを越えて襲撃してきた時のための避難所(シェルター)がある。まずはそこにいって同業者組合(ギルド)の連中を探そう」

 先陣を切って歩いていくキーネスの後について、リゼ達も瓦礫の散乱する道を進む。ザウンは広く、荒れているせいで道標も見つけづらい状況だったが、さすがキーネスは通いなれているのか迷うことなく進んでいく。途中何度か狼の魔物に出くわしたが、撃退するのは訳なかった。おそらく町の混乱に乗じて侵入したというだけなのだろう。魔物を蹴散らしながら、リゼ達は町の中を進んだ。

「ザウンには結界はないの?」

 砂でけぶる空を見上げながらリゼは問いかける。

「あったが微弱だ。大量の魔物を防げるほどじゃない。少し前に魔物の襲撃があって、その時にかなり損傷してしまったせいもあるかもしれん」

「じゃあここの守りは町を囲うあの壁だけ?」

「ああ。だから退治屋同業者組合(ギルド)が常に防御陣を引いている。いつ魔物が襲来してきても対処できるように。それでもこの有様だ。魔物が手強いのか不意を突かれたか……」

「『新種の魔物』のせいか……」

 アルベルトは呟き、表情を険しくする。メリエ・セラスやフロンダリアでの退治屋と一般国民の行動を見る限り、ミガーの人々は魔物慣れしているし、行動も速い。その彼らが対応しきれないのだから、“番犬”の厄介さは押して知るべしだ。

「そういえば、このあたりには例の魔物はいないようですわね。町の奥まで入り込んでいるのかしら」

「おそらくそうだろう。ザウン襲撃からかなり時間も経っている」

 動かなくなった狼の魔物を見ながら、キーネスは答える。このあたりにいるのは、つい先程町に乗り込んできたと思われる雑魚ばかり。撤退した人間を追って、襲撃の中心となった魔物は町の奥へ行ったと考えるのが妥当だろう。だがキーネスの推測を否定するように、アルベルトが呟いた。

「いや、いる」

 何かいる。アルベルトより少し遅れて、リゼは町の奥から悪魔の気配が漂ってくることに気づいた。この強烈に嫌な気配は“番犬”のものと酷似している。気配を頼りに少し進むと、一つ角を曲がった先から物音が聞こえてきた。人の声、そして魔物の唸り声が混ざり合っている。切れ切れに聞こえるのは魔術の文言。それから連携を指示しあう声だ。どうやら退治屋が魔物と交戦しているらしい。加勢しなければ。リゼ達は足早に角を曲がると、町の広場へと足を踏み入れた。

 そこには予想通り退治屋の一団と魔物の群れとが交戦していた。退治屋達は陣形を組み、牽制役が魔物を押さえ、別の退治屋がとどめを刺している。見事な連携だが、魔物の群れには幾匹かの“番犬”が混じっていた。未知の魔物を前に退治屋達は押されているようで、じりじりと壁際に追いつめられている。応戦に必死なせいか、退治屋達はリゼ達が現れたことに気付いていないようだった。

「ティリー、足止めを」

「了解ですわ」

 ティリーはすぐさま詠唱を始めると、魔物達の足元に魔法陣を出現させた。鈍色のそれはぱっと発光し、立ち上る重力のヴェールが魔物を押さえつけた。

 魔術の顕現で退治屋達は第三者の存在に気付いたようだ。こちらに視線を向け、驚きと救援が来たという喜びで目を輝かせている。それでも手は止めず、魔物と戦っているのはさすがプロと言ったところだろうか。退治屋達は重力に囚われた魔物に刃や魔術を浴びせ、着実に仕留めていく。リゼ達も各々武器を取ると魔物を討ち取っていった。

「あんたらのおかげで助かった。礼を言う。だがあんたらは一体……!?」

 魔物を掃討した後、リゼ達の元へやってきたのは退治屋達のリーダーと思しき魔術師だった。長時間魔物と交戦していたためか、衣服は汚れ、表情からは疲れが見て取れる。だがその眼には、職務を果たすという強い意志が垣間見えた。

「王太子の命で来た。救援だ」

 キーネスが前に進み出て、魔術師に紋章が描かれた封筒を渡す。魔術師はキーネスの顔と封筒を交互に見て、

「キーネス・ターナー!? それに、これは殿下の紋章……まさか殿下が直々に……?」

「王太子殿下はちょうどメリエ・セラスに滞在していたんだ。救援の本隊もじきに来る。それまでの辛抱だ」

 すると、退治屋達は安堵したように表情を緩める。ザウン退治屋同業者組合(ギルド)は実戦経験も豊富な退治屋が集まっているそうだが、それでも魔物に囲まれて孤立した状態は不安も大きいのだろう。

「助かる……まずは中で話そう。こっちだ。ついてきてくれ」

 魔術師は身を翻すと、魔物の襲撃で半壊した酒場らしき建物の中に入っていった。他の退治屋達も周囲を警戒しつつそれに続く。退治屋は瓦礫をよけつつ奥へ進み、そこにある床の継ぎ目に手をかけると、床板を持ち上げた

「さ、早くここへ」

 そこには、地下室への入り口がぽっかり穴を開けていた。

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