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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
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襲撃 4

 シリルの体調が回復して数日後。

 馬車を走らせたリゼ達は無事メリエ・リドスへと帰還した。キーネスは教会の警備が強化されているのではないかと危惧していたが、街への抜け道は一切見張られておらず、拍子抜けするほど簡単に中へ入れたのだ。最もシリルを連れている分、断崖絶壁にある抜け道を通るのは前回より大変だったのだが。

 そうしてメリエ・リドスに戻ったリゼ達は、街の中央役場へと足を踏み入れたのだった。

「もっと警備が厳しいと思ってたわ。抜け道も使えないかと」

 案内された執務室で、リゼはそう言った。メリエ・リドス中央役場はスミルナの一件のためか多数の職員が慌ただしく行きかっており、執務室中央のテーブルにはたくさんの書類が積み重なっていた。

「簡単に見つかるんじゃ抜け道の意味がないだろう。あの道の維持にはかなり力を入れてるんだ。こういう時に役立つようにな」

 そう言ったのはゴールトン。メリエ・リドスの市長だ。伸ばしていた髭は少し整えたらしく、悪人面は大分改善されている。ゴールトンは髭を撫でながら、何か思案するように呟く。

「まあ、スミルナであんなことがあったしな……」

「何が?」

「いやこっちの話だ。何はともあれ、生きていて何よりだ。あんた達が死んだら首を切られるところだった」

 心底安堵したようにゴールトンは言う。首を切られる? 不穏当な発言にリゼは首を傾げた。ゴールトンは市長。メリエ・リドスの最高責任者だ。その彼が首を斬られることを心配するとはどういうことだろう。そう考えていると、ゴールトンは少しばかり遠い目をして言った。

「実はな。あんたらに話したいことがある方がいらしている」

 ゴールトンが支持を出すと、隣に控えていたレーナが隣室に繋がる扉へと向かった。レーナは丁寧に扉を開き、中にいる人物に声をかける。ほどなくして、隣室から一人の男性が姿を現した。

「グリフィス殿下……!」

 執務室に現れた人物を見て、ティリーは驚きの声を上げた。

「どうしてここに……!?」

「貴女方を追ってきたのですよ。呼んでも部屋から出てこなかったのでね」

 咎めるように言って、グリフィスは用意された椅子の背に身を預ける。疲れた様子なのはフロンダリアからここまで急行してきたからだろうか。溜息をつくと、ミガーの第一王太子はリゼの方を見た。

「協力すると言った以上、単独行動は困りますと申し上げたはずですが」

「協力するとは言ったけど、あなたの言うことに全て従うとは言ってないわ」

 相手が王太子だろうとリゼには関係ない。きっぱりそう言い捨てると、グリフィスは再び溜息をついた。その横でゴールトンは苦笑いをし、王太子の後ろに控える兵士は殺気立った目でリゼを睨んでいる。剣呑な雰囲気が執務室に漂ったが、リゼは無視した。

「大体、あなたの言う通りゆっくりしてたら、シリルは生贄にされてたし、スミルナは消滅してたわ。シリルを助けられたし悪魔召喚も阻止できたんだから、文句ないでしょう」

「そういう問題ではありません。申し上げたでしょう。『貴女が向かったからといって必ずしも良い結果になるわけではありません』、と」

 グリフィスの質問にリゼは顔をしかめた。顔を合わせたらうるさく言われるだろうなとは思っていたが、『良い結果にならない』と言われるのは心外だ。

「それがどうしたの? シリルは救出した。悪魔召喚も阻んだ。良い結果だけじゃない」

 リゼが言い返すと、グリフィスはため息をつく。王太子が隣のゴールトンに視線をよこすと、市長は苦笑しつつ言った。

「今朝スミルナの情報が入った。市街地で悪魔祓いをした上、悪魔祓い師とおいかけっこをしたそうじゃないか。教会の正式な発表はまだだが、神聖なる神の都市で騒ぎを起こした魔女を取り逃がしたことに大層ご立腹らしいぞ」

「だから勝手な行動は止めてくださいと言ったはずです」

「騒ぎを起こしたのは悪魔教徒よ。私達じゃない」

「そうかもしれませんが、貴女はもっと大人しくしているべきでした。ましてやスミルナで堂々と悪魔祓いの術を使うなど、余計な波乱を引き起こすだけです」

 グリフィスの苦言に、リゼは納得いかないといった様子で顔をしかめた。

「――あの時は悪魔が結界を壊そうとしていた。悪魔をまとめて浄化する以外、他に方法はなかったのよ。私は悪魔祓いをするべきでなかったとは思ってない」

 正確には、方法がなかったからそうしたのではなく、悪魔が溢れ返っている光景に我を忘れて術を使ったのだけれども。ただ、そんなことを言えばグリフィスにまた苦言を呈されるだけなので黙っておく。

「大体、そのせいで私の悪評が増えたとしても今更だわ。困るのも私だけ。何が問題なの?」

 リゼの反抗的な態度に、グリフィスは再び溜息をつく。頭を悩ませる王太子の姿に兵士の殺気が増すのを感じたが、やはりリゼは無視した。

「――貴女はもっと自分の価値を弁えるべきです。貴女の行動がどれほどの影響力を持つかお分かりですか? 貴女のその力が、どれだけ特異なものか自覚しているのですか?」

「私の価値、ね……」

 価値。価値か。大げさな言い方だ。そんなもの、あってないようなものだ。怒ったような王太子の表情を眺めながら、リゼは胸中でひとりごちる。

(私のやっていることは、精々マイナスをゼロに戻しているだけのことなのに)

 確かに特殊な力を持っているけれど、“救世主”だのなんだのは周りが勝手に言っていることで、そんな素晴らしいものじゃないことは自分が一番よく分かっている。よく分かって――

『――悪魔を滅ぼすためとか、生きる価値とか、そんなことはどうでもいい』

『悪魔を滅ぼせなければ価値がないというなら、忘れないでくれ。スミルナを救ったのは君だ。沢山の悪魔憑きを癒したのは君だ。君は必ず成し遂げる。成し遂げさせてみせる。だから価値がないなんて言わせない』

 脳裏に横切った言葉に、リゼははっと我に返った。今ここでこれを思い出すなんて。ちらとアルベルトに視線をやると、彼は心配そうにこちらを見ている。何とも言えない居心地の悪さを感じて、リゼは俯いた。

 執務室に重い沈黙が流れた。リゼが応えるのを待っているのか、グリフィスも声をかけてこようとはしない。双方沈黙のまま、ただ時間だけが過ぎていく。そんな緊張状態がしばし続いた後。それは唐突に破られた。

「あ、あの殿下。勝手な行動をとったことは謝罪いたします。誠に申し訳ありません。以後は殿下のご命令通りにいたしますわ」

 ピリピリした空気に耐えかねたのか、ティリーが進み出て頭を下げた。ティリーは愛想笑いを浮かべ、渋面を作っているグリフィスに語りかける。

「リゼのことなら今度からわたくしがしっかり監視致しますわ。勝手な行動はさせません。ですからご安心ください」

 胸を張るティリーを、リゼは無言で見つめた。その根拠のない自信はどこから出てくるのだろう。大袈裟で演技めいた彼女の口ぶりに、よくそんな安請け合いができるものだと感心する。グリフィスの方もしばし険しい表情をしていたが、やがてため息をついた。

「――終わったことを責めても仕方がありませんね。ですが、次からは私の命令に従ってもらいます。よろしいですね」

 グリフィスの視線がリゼに向く。答えずにいると、隣のティリーに急かすように小突かれた。仕方なく、「分かった」と答える。渋々言ったのが伝わったのか――隠すつもりもなかったのだが――グリフィスは溜息をついたが、これ以上苦言を呈するつもりはないらしい。彼はリゼから、その斜め後ろに立っている人物へ視線を移した。

「それでは、シリルさんのことですが」

 グリフィスがそう言った瞬間、今まで大人しかったゼノがぱっと顔を上げた。当事者のシリルよりも機敏な反応だ。ゼノはぱっと前に出ると、突然の行動に驚いている王太子に向けて問いかけた。

「王太子殿下。前言ってた――おっしゃってたシリルの“憑依体質ヴァス”の能力を封じ込める方法、いつできますか!?」

 その剣幕に、グリフィスのみならずシリルも目を丸くした。綺麗な碧眼を零れ落ちそうなほど見開いてゼノを見つめるその表情には、驚きだけでなく別のものも混ざっているように見えた。

「ここでは無理ですが、メリエ・セラスに戻れば簡単な術式付与が行えます。完全なものにするにはフロンダリアへ向かわねばなりませんが、簡易式でもある程度効果は見込めるでしょう」

「分かりました。ありがとうございます!」

 安堵したように言って、ゼノは勢いよく頭を下げた。そんな彼を見つめるシリルの顔には複雑そうな感情が浮かんでいる。しかしゼノはそんなシリルの方へと視線を向けることはなく、少女の様子に気づくはずもなかった。

「船の準備が整い次第、メリエ・セラスへ向かいます。すぐに動けるよう、準備をしておいてください」

 グリフィスはそう言うと、リゼ達に退室するよう指示を出した。指示に従い、リゼは踵を返して執務室から出る。何はともあれ、これでミガーに帰ることになった。砂漠地帯のあの暑さは辟易するが、教会の奴らに絡まれなくてすむ。それを思って、リゼは溜息をついた。

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