表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
137/177

悪夢 10

「ランフォード。リリスはバノッサで何をしていたんだ」

 その問いに、リゼはキーネスへと視線を向けた。

「……遊んでた。バノッサの神父を悪魔憑きにして、町を地獄に変えようとしていた。バノッサは自分の玩具だと言っていたわ」

 バノッサは悪魔憑きが最期の時を過ごす町だという。神父まで倒れてしまっては町のまとめ役がいなくなる。その混乱を狙ったのだろうか。悪魔教徒の考えそうなことだ。

「で、貴女はそれを阻止したと。そういうことですわね?」

 ティリーが問うと、リゼは他人事のように気のない表情で答える。

「阻止したというか、単に悪魔祓いをしただけ。あの町は悪魔憑きだらけだったから、いつも通りのことをしたのよ。それがあいつの気に障ったみたいね」

「それでリリスに目を付けられたという訳か。なるほど。リリスは今後もランフォードを狙って来るだろう。奴にとって、今最も目障りなのはお前だ」

 キーネスがそう言うと、その隣でティリーが頷く。

「バノッサで遭遇したのはたまたまかもですけど、悪魔教の教主自ら毒薬盛るぐらいですもの。よほどリゼが怖いんですのね」

 フロンダリアで遭遇した悪魔教徒もリゼの命を狙っていた。あれは神殿爆破のついでのようだったが、今後は本格的に命を狙って来るだろう。スミルナでわざわざシリルに取り憑いてみせたのも、命を狙うのと同時に宣戦布告の意味もあったのではないだろうか。しかし、事態の深刻さとは裏腹に、当の本人はまるで他人事だった。

「私を守る必要なんてない。それよりシリルの心配をした方がいいわ。特にアルベルトは」

 そう言って、リゼはアルベルトを一瞥する。

「あいつは一応人間なのに、自由自在に人に取り憑くのよ。“憑依体質(ヴァス”のシリルは格好の器。『返す』とは言ってたけど、『二度と手を出さない』と言った訳じゃない。あいつに聖印の守りは効かないし、ミガーは強力な結界が少ない。かといって教会は信用できない。その子が安全に暮らせる場所は少ないわ。あいつを倒すまで、シリルが取り憑かれないよう見張り続けるしかない。私を守るなんてことに時間と労力を使っている場合?」

「そうだけど、シリルもおまえも皆で守ればいい話じゃないか?」

 ゼノが不思議そうに言うも、リゼは鼻で笑っただけだった。

「それで済む相手じゃなさそうだから言ってるのよ。それに、あいつが直接襲って来るならむしろ好都合。今度リリスに会ったら――確実に息の根を止めてやる」

 瞳に怒りの炎を宿しながら、リゼは低い声で語る。それまでどこか冷めた様子だったのに、今は感情を滾らせている。

「ランフォード、お前こそ相手を考えろ。少し冷静になれ」

 怒りを滾らせるリゼに、キーネスが顔をしかめつつ釘を刺した。いくらなんでも無謀すぎる発言だ、と。しかしリゼはどこ吹く風だ。

「私は冷静よ。あんなやつ相手に負けるつもりはない。バノッサで会った時は『次会った時は死んで』なんてほざいてたけど、この通り私は死んでないしね。悪魔を滅ぼすためにも、悪魔教の教主を討たないと」

「戦うなとは言ってない。勝手な行動は慎めと言ってるんだ。お前がいくら強かろうが、相手は“魔女”だの“悪魔の子”だの呼ばれる輩だぞ。仮に負けなかったとしても、相打ちにならない保証はどこにもない」

「“魔女”なのは私も同じよ。それに、相打ちになるならちょうどいいじゃない。魔女同士潰し合うだけ。誰も損はしな――」

「いい加減にしてくれ!」

 遂に堪忍袋の緒が切れて、アルベルトは半ば怒鳴るようにリゼの発言を遮った。そのきつい声音に驚いたのか、ティリー達は皆アルベルトの方を向いて目を丸くしている。だがリゼだけは無表情のまま、冷めた目をしていた。

「相打ちになるならちょうどいい? 何がちょうどいいんだ。なにも良くなんてない」

「そう? この世を脅かす邪悪がそろって消えるのよ。良いことじゃない? あなたも歓迎すべきことよ。悪魔祓い師なんだから」

「なに馬鹿なことを言ってるんだ! そんなこと、歓迎できるわけがないだろう! 君はどうしてそう――」

「自分を大事にしないのかって?」

 リゼは感情のない口調で答えた。

「決まってるでしょう。大事にする価値がないからよ」

 頭の芯がすうっと冷えていく気がした。ショックでも悲しみでもなく、怒りで。目の前の分からず屋に対する苛立ちで。アルベルトはリゼに詰め寄ると、面倒そうな表情をしている彼女に問いかけた。

「――どうしてそう言い切れるんだ」

「どうしてもなにも、私のことを一番よく知っているのは私だもの。自分に大事にされる価値あるかどうかくらい分かるわ」

「何で価値がないと思えるのか、その理由を聞いてるんだ。理由を教えてくれなければ納得なんてできない」

 こうも頑なに『価値がない』なんて主張されて納得できるものか。価値がない人間なんていない。人は神に愛されてこの世に生まれてくるのだから。

「理由なんて知ってどうするの。知りさえすれば、私を説得できるとでも思ってるの?」

「思ってるよ」

「……なら、答えるだけ無駄ね。何を言われても、私はあなたの望むような考えにはならないから」

 きっぱりと言って、リゼは視線をそらす。この話は終わりと言わんばかりの態度は、彼女お得意の無言の拒絶だ。だが、今日は引き下がらない。アルベルトは一歩リゼに詰め寄ると、視線を逸らしたままの彼女に言った。

「君はやっぱり、自分のせいで家族が死んだと思いこんでいるんだろう?」

 その瞬間、リゼは目に見えて動揺するのが分かった。表情が凍り付いて、瞳がわずかに泳いでいる。

「それを償おうとしているんだろう?」

 以前そう尋ねた時、彼女は違うと否定した。けれど、やはりあれは強がりだ。

「自分を許せなくて、自分を罰さないでいられない。だから無茶をしてまで悪魔と戦おうとする。けどそれは――」

「違う!」

 半ば悲鳴のように上げられた声に、アルベルトの言葉は掻き消された。立ち上がったリゼは息を切らせ、アルベルトを睨みつけている。先程まで冷えきっていた目も、今は怒りと苛立ちと、そして恐れで揺れていた。

「悪魔を滅ぼすのは私のただ我儘。自己満足。私のため。復讐のためよ。こんなこと償いにもならない! 何をしても死んだ人間は帰ってこない! 私には……罰を受けて楽になる資格なんて……!」

「そんなこと――」

「うるさい! 私のことなんて何も知らないくせに、勝手なこと言うな! あなたに私の何が分かる! 私と違って、あなたは普通の人間なんだから!」

 一しきり叫んでから、リゼは我に返ったように表情を変えた。怒りで朱が差した頬からさあっと血の気が引いていき、元の色を通り越して青ざめていく。彼女はよろめいたように後ずさると、踵を返し脱兎のごとく駆け出した。

「リゼ!?」

 走る彼女の背中をティリーの声が追ったが、リゼは振り返らない。止める間もなく、あっという間に洞窟の奥に消えてしまった。アルベルトは追いかけることなく、ただ消えた彼女の姿を茫然と見つめるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ