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Savior 《セイヴァー》  作者: 紫苑
悪魔教徒編
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神聖なる悪魔の苗床 12

 神の国来たりて、大地は栄光に包まれる。

 神の救いを待つ者よ。汝が真の望むなら、信じ崇めよ。されば救われん。

 いつか来たる審判の日に。

「あいつら大丈夫かなあ」

 優美な模様が施された天井を見ながら、オリヴィア・セロンはぽつりと呟いた。

 一人っきりの客間は広々としていて、なんだかとても寒々しい。何か呟いても返事をしてくれる人がいる訳もなく、さすがに寂しくなってきた。ただでさえじっとベッドに横になっている他なくて一日中暇で暇で仕方がないのに、一人きりでは気を紛らわすことも難しかった。

 それもこれも、あの悪魔教徒達のせいだった。悪魔教徒に襲撃され、シリルは攫われオリヴィアは負傷。仲間達はシリルを追ってフロンダリアを発つも、負傷したオリヴィアはそれに加わることは出来なかった。悪魔教徒に襲撃された時の怪我自体はリゼの癒しの術で完治している。傷痕もないし、後遺症もない。あとは体力を回復させて、幽体離脱状態だった半年の穴を埋めるべくリハビリに励むだけ――なのだが、事は思ったように進まなかった。

 皆が出発した次の日から、ずっと微熱が下がらない。襲撃前は多少動いても平気だったのに、今は歩くだけでしんどくなる。出血で体力が落ちたのかと薬草師に滋養強壮の薬湯を調合して貰ったが、それでも治らない。薬草師が安静にしていればそのうち治るというから安静にしているが、治る兆しは今のところ見えない。あの時負傷しなければもっと早く回復できたかもしれないのに、実際はこのざまだ。一刻でも早く回復してシリルを攫った連中をぶちのめしてやりたいのに、一向に改善する様子を見せない体調にオリヴィアは鬱々とした気分になっていた。

「暇だ」

 何かが変わるという訳でもないが、何となくそう呟いてみる。たった三文字しかないそれは広い客室に吸い込まれて、あっという間に消えてしまった。いっそ思いっきり叫んでみようか。天井を睨みながらオリヴィアは考える。腹から声を出せば、少しはすっきりするかもしれない。フリディスとかいう、アスクレピアの神を名乗る輩に身体を乗っ取られ、半年も生霊状態で遺跡を彷徨い、ようやく元に戻れたと思ったら今度は悪魔教徒に襲われて、シリルを奪われてしまった。この溜まりに溜まったイライラも、叫べば少しは解消されるかもしれない。部屋の外の警備兵は驚くかもしれないけれど。

 よし、叫ぼう。

 オリヴィアは息を吸うと、腹に力を入れた。せっかくだから思いっきりやろう。掛け声は「いちのにさん」で。限界まで息を吸って準備を整えたオリヴィアは、心の中で掛け声を唱えた。いち、にの――

 すると、不意に部屋の扉が開いた。扉は軋んだ音を立てながらゆっくりと開き、人が通れるほどの隙間ができる。しかし、誰か入ってくるのかと思いきや、扉は中途半端に開いたまま止まってしまった。

「……? 誰かいるんですか?」

 出鼻をくじかれたことを不満に思いつつ、少しだけ身体を起こして呼びかけたが、扉の向こうから人が現れる様子はない。勝手に扉が開いたのか? 首をかしげていると、扉の隙間から警備の兵士が顔を出した。

「何かあったんですか?」

 怪訝そうな表情で兵士はそう問いかける。ということは、扉を開けたのは兵士ではないらしい。不可解な現象に首をかしげながらも、オリヴィアは兵士に言った。

「いいえ。どうやら扉がちゃんと閉まってなかったようです」

 しかし、前回扉の開閉をしたのは薬草師がやって来た時だ。その時、扉を開けたのも閉めたのも警備の兵士。まさかそこまで雑なことはしていないだろうし、扉が閉まる音はオリヴィアもちゃんと聞いている。扉が閉まっていなかったということはないと思うのだが。

 兵士も同じように思ったのだろう。怪訝そうな顔で扉を見つつ、「そうですか」と言って廊下に引っ込む。そして今度こそきっちり閉めようと思ったのか、いささか乱暴なほど大きな音を立てて兵士は扉を閉めた。

 再び客室に静寂が戻った。不可解な現象に首をかしげながらも、オリヴィアはベッドに横になる。出鼻をくじかれてしまったので、もう叫ぶ気は起きない。おとなしく寝ておこう。そう思って、オリヴィアは目を閉じようとした。

「お邪魔するぞい」

「どうぞ――って、はい!?」

 条件反射で返事をしてから、オリヴィアは異変に気付いて目を開けた。誰もいないはずなのに、今のは誰の声なんだ。驚いてベッドサイドを見ると、何もなかったそこに、突如として人影が浮かび上がった。

「アルネス博士!?」

 突如現れた老人の姿に、オリヴィアは驚いて少しだけ身体を起こした。幻惑魔術だろうか。先程扉が開いたのも、この老人が姿を消したまま入室してきたせいのようだ。悪魔研究家フランク・アルネス博士は、悪戯が成功した子供の様に微笑んで、ゆっくりとベッドに近づいた。

「オリヴィア・セロンじゃな。体調はどうじゃ」

「まだ万全とは言えません。熱も下がらないし」

「そうか。薬草師の手当てを受けているはずなのにのう。――おお、よいよい。寝てなさい」

 起き上がろうとしたオリヴィアをアルネスは手を挙げて制した。起き上がるにも中途半端な体勢になってしまったので、アルネスの言葉に甘えてオリヴィアは元の通り横になる。相手は尊敬する悪魔研究の第一人者であるため寝たままなのは心苦しいが、熱で少し頭がぼうっとしているので横になれるのはありがたかった。

「すみません。何も出来なくて……ところで博士。あたしに何か御用でしょうか?」

 丸椅子を引っ張ってきて腰かけたアルネスに、オリヴィアは恐縮しつつも尋ねた。まさかお見舞いにきたわけではあるまい。それなら幻惑魔術など使わずとも、正面から堂々と来ればいいからだ。それをしないのには、何か理由があるはずだ。例えば、話の内容を兵士に聞かれたくないから、とか。

「うむ。おぬしに相談したいことがあっての。皆がどこへ行ったかおぬしは知っておるか?」

「いいえ」

 オリヴィアは首を横に振った。何せ誰もキーネスの手紙に記された合流場所を教えてくれなかったのだ。無理についてこないようにとゼノ辺りが提案したのだろう。いくらなんでもこの状態で無理矢理ついていくほど無謀ではないのだが、あの時はかなり頭に血が上っていて気合で動けそうだったから、彼らの判断は無理からぬことかもしれない。それに、合流場所を知らなかったおかげで、グリフィスに問い詰められても知らぬ存ぜぬで通すことが出来たのだから(知っていたとしてもそうするつもりだったが)、よかったということにしておこう。

「そうか。まあ知っておったとしても、今から追いかけるのは無理じゃな。とっくの昔にどこかへ移動しておるじゃろう」

「そうですね。あたしの体調も一朝一夕には治らなそうだし。でも、なぜわざわざそれを?」

 首をかしげつつ、オリヴィアは尋ねた。アルネス博士は何故幻惑魔術まで使ってオリヴィアの元を訪れたのだろう。リゼ達の行先を尋ねたいなら、普通に訪問すればいいはずだ。こそこそ密会みたく訪問する必要はない。

 まさか博士がオリヴィアに会いに来たことを、兵士やグリフィスに知られたくないとでも言うのだろうか?

「皆の行先を訊いたのはついでじゃ。本命は別にあっての。実はな、おぬしにちょっと手伝って欲しいことがあるんじゃ」

「……?」

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