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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
6/28

第5話・・・忠告/友情・・・

 思いのほか筆が進み、自分にしては早く投稿できました。

 昼休み。

 すっかり一緒に行動するようになった四人は食堂で昼食を取っていた。

 入学仕立ては目立っていてチラチラと見られがちだったが、一週間も経てば慣れてくるもので、今も気付かないとまではいかないが、一々気にする素振りは見せないようになった。

「次の授業なんだっけ?」

 食堂のA定食にスプーンを付けながら哉瓦が聞く。

「『士器アイテム』作成の基本Ⅰ。それぐらい覚えて置きなさいよ」

 応えたのは哉瓦の向かいに座り、お箸を器用に使って食べるエクレアだ。

 哉瓦は苦笑して頭に手を当てながら。

「面目ない。入学式の前日に一人暮らしを始めたから色々と手間取ってしまってね。まだ開けられてない段ボールもあるんだ」

「へー」

 つい声を出してしまったのはエクレアの隣り、蕨の向かいに座るムースだ。

「意外。哉瓦くんってその辺しっかりしてそうなのに」

「俺も思った。そもそも引っ越しって数週間前に済ませるのが普通じゃない?」

(俺も受験した帰りにその足でアジトに戻ることすら許されずに一人暮らし用のアパートに向かったし……)

 哉瓦は一回頷き。

「うん。三週間前に引っ越し自体は済ませてたんだけどね。ちゃんと住み始めたのは入学式の前日からなんだ。だからあまり片付いてなくてさ」

 一人暮らしの荷物がそんなに多いのだろうか?

 それともわけあって時間が無かったのか?

(まあその辺は後々調べよう。……こいつなら杞憂に終わるだろうし)

 哉瓦は目の前の二人に「そう言えば」と。

「二人は一緒に住んでるんだっけ?」

「ええ、ここから少し近い所にある家に」

「エクのお父さん……つまり国王様が娘の留学の為だけに資金出してセキュリティを直々に強化した家なんだよ」

 ムースが笑い堪えるようにして丁寧に説明する。

「はは、過保護なんだな」

 蕨は乾いた共に告げた。

「そういう蕨も一人暮らしなんでしょ?」

「うん、まあね」

「「え、そうなの?」」

 ムースが確認を取るように聞き、蕨が即答すると、哉瓦とエクレアが揃って声を上げる。

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「いやいや、聞いてないよ。蕨って一人暮らしできるの?」

「おい、なんだその失礼な言い方は」

「あ、すまん……。でも蕨ってどこかのほほんとしてるからさ」

「のほほんってなんだ、のほほんって」

「蕨……まさか女とか連れ込んでないよな?」

「俺ってそんなに信用ないのっ? てかそれ哉瓦にも当てはまるよなっ?」

「いやあ、蕨って涼しい顔して年上の女とかに可愛がられてそうだから……」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ……」

「心配なんだよ」

「お前は俺のおかんか」

 蕨が哉瓦の妙な心配魂の餌食になっている一方で、エクレア&ムースはと言うと、声を潜めて何やら奇しくも心配魂を発揮されていた。

「(ちょっと、なんで柊くんが一人暮らしだって知ってるのよ? ムース、貴方まさか……)」

「(エク……、違うよ。一日中エクと一緒にいるんだから物理的に不可能だよ)」

 こういう場合、いくら口で違う違う連呼しても今のエクレアに言葉が通じにくいことを侍女たるムースは知っている。なので、可能性的証拠を突きつけて主を宥めた。

「(そ、それはそうだけど………。貴方、最近私と哉瓦の関係をどうこう言ってたけど……貴方こそ柊くんと仲良すぎない?)」

 周りから見たらそうなるのか。

 悪い気がしないムースは、艶めかしく唇に指を当てながら悪戯っぽく笑んだ。

「(そんなことないよ~。でもぉ、蕨って結構私好みではあるんだよね~)」

「(む、ムース……っ、私も柊くんなら反対はしないけどっ、こういうのはもっと真剣に考えなさいっ。まだ知り合って一週間しか……)」

「(分かってるって~)」

 相手にしているようでされていない。

 主の言葉を右から左に受け流している侍女にふくれっ面で不満を示している時。


「ちょっと、いいか?」


 女子二人の前、男子二人の後ろから見知った人物と聞いたことのある声が感覚を刺激した。

「「「「北深坂先輩……」」」」

 当校二年にして風紀委員にして『御八家』・北深坂家の直系、北深坂黒魏その人だった。

「隣り、いいか?」

 トレイを持ちながら哉瓦に尋ねる。

「は、はい……」

 口調こそ焦りが見えるが、本人は全く怯んでおらず、自分に何の用だろう?という疑心が言葉に表れてしまったようだ。

「じゃ、失礼」

 相変わらずワイルドでいらっしゃる。

 哉瓦の隣り、四人は四角形状に座っているので、一人はみだした形になった。

 黒魏は後輩四人を見渡しながら世間話を始めた。

「どうだ? 学園には慣れたか?」

「はい。つつがなく過ごしています」

 哉瓦が代表して応え、他のみんなは同意見の頷きを見せる。

 尚、薄目の蕨はまたも疎外感というか場違い感を覚え、黒魏が自分へ向ける視線の間には常に哉瓦を置くように徹していた。

 周囲の生徒も黒魏の出現で目が離せなくなっているようで、一部の生徒からは同情の視線が集まっている。

 黒魏は哉瓦の返答を聞いて「でも」と、

「お前ら、誰も部活入ってないよな?」

 四人全員がドキリとする。

「別に強制入部ってわけじゃないから本気でスポーツ目指すつもりないならそれでも構わんが、この学園は部活と称して毎日ひたすらトレーニングする所だって沢山ある。俺だって実家での訓練と両立だけど、そういう部活に所属してるしな」

 今の時代、部活と言えば三種類ある。

 一つは文化部。これは昔からさほど変わらない。

 作品の制作過程で直接作品に影響を及ぼすような……例えば、大会の場で適当に作った『不味いスープ』と、あらかじめ作っておいた『美味しいスープ』を〝協調〟させて『美味しいスープ』に仕立てるなどの行為は禁止されている。

 簡単な検査装置ですぐに分かる。

 二つ目は純粋な運動部。これは既存のスポーツのルールに新たなルールを追加……例えば、〝エナジー〟を纏った腕で地面を強打し、揺らして相手を動揺させることは許されても〝属性〟が〝土〟の『フォーサー』が直接地面を揺らすことは許されていない。

 フィールドには常時検査装置を配備しているので、すぐに分かる。

 三つ目は、黒魏が所属してるような己を磨く為の修練用部活。

 こういう部活の主な違いコーチや〝ジェネリック〟だ。東陽学園は名門だけあって強者をコーチとして迎えている。柳沢当馬先生もその一人だ。〝ジェネリック〟によっても適した訓練方法が異なってくる。

(柳沢先生は〝鎮静系火属性〟だっけ……?)

 蕨が体育教師のことを思い浮かべていると、黒魏が説明を続ける。

「言っとくが部費もちゃんと出るんだぞ? 俺が所属してるような部活にも大会はあるからな。まあそれは『スポーツ』というより完全な『戦闘試合』だけど」

「知ってます。一年に四回、季節ごとにある武闘祭ぶとうさいですよね? その結果次第では警察や防衛学校からのスカウトもあるとか」

 エクレアが興味を感じない声音で他人事のように言う。

 黒魏は気にした様子もなく「ああ」と返す。

 エクレアは「しかし」と。

「武闘祭は何も部活に所属していなくても参加できますよね?」

「ああ。てことは、ディアーゼスは大会自体には出るつもりなのか?」

「ええ。私にも『目的』がありますので。訓練に関しても、問題ありません。今住んでる家の地下に訓練場を作って本国にいた頃の私のコーチと毎日回線繋いで映像でムースと一緒に訓練してますから」

「私の場合、大会に出るかはまだわかりませんけど」

「なるほど」

 黒魏が納得し、軽く頭を下げた。

「悪い、ちょっと踏み込んだこと聞いちまったな」

「いいえ、気にしなさいで下さい。後輩思いの先輩だなと思ったぐらいです」

 エクレアが微笑んで首を振った。

 黒魏は横に視線を移し、

「龍堂、踏み込んだ話しになるのは勘弁だろうから、一つだけ聞かせてくれ。……お前は武闘祭に出るつもりはあるのか?」

 簡単に、的確に、一番気になるでろうところをついてくる黒魏。

 エクレア、ムース、そして蕨も哉瓦の言葉を待っている。

 哉瓦は小さく、挑戦的な笑みで、

「はい。俺にも一応『目的』、ありますので」

 黒魏も似たような笑みで、

「そうか、良かった。……くれぐれも、我が校の生徒であることに恥じない戦いをするように」

(当然のことながら俺はスルーですかそうですか。いやね、別に聞いて欲しいわけじゃないんだけど………周囲からの同情の視線が苦しいんだよっっ)

 哉瓦達三人もそのたぐいで、一人だけ何も聞かれない蕨に気まずそうにしている。

 すると、柔らかい表情の黒魏が首を前に少し倒し、蕨を視界に捕えた。

「柊、お前はどうなんだ?」

「えっ……や……えと……あの……先輩……無理して俺に聞かなくてもいいですよ? 俺でも自分がなぜこんな凄い人達と一緒にいるのか未だに不思議なくらいなので」

 思いっ切り慌てた蕨が真っ正直に返した。

 暗くなっていた哉瓦達三人、周囲の生徒が苦笑した。

 黒魏も苦笑して、

「なるほどな。その正直さこそが、強さ関係無しに友好を築く秘訣ってことか」

 自分でもよく分からず首を傾げる蕨。

 なぜか哉瓦達が誇らしげな表情をし、周りの生徒は(((やっぱお前は凄いよ)))的なことを心の中で叫んでいる。

「でも別に気ぃ遣ってるわけじゃないんだぜ?」

「………と、言いますと?」

「お前、入試日に遅刻しただろ?」

「うっ……」

 正に後輩をからかうような笑みと発言に、固まる蕨。

 哉瓦達も「え?」という顔をする。

「攻めてるわけじゃねえぞ? 集合時間に間に合わなかっただけだし、最低規定がセーフだったからな。それに俺はむしろ面白いと思ったぐらいだ」

「面白い?」

 哉瓦が復唱する。

 黒魏は蕨の顔を見て、

「言っていいか?」

「………まあ、隠すようなことでもないですし…ていうかそれそんなに面白いんですか?」

 蕨が諦めたように前髪を押さえて視界を遮る。

「面白いって。……入試日、時間が来て校門を閉める時に覚束ない〝加速法アクセル・メソッド〟で滑り込んできたのが柊なんだよ。〝エナジー〟操作の試験もあるっていうのに、息切れ切れで完全に使い果たしたらしくてさ。その後、門付近の当番だった役員に飲み物もらって、すぐに試験会場に走って行ったらしいぜ。…覚えてるか?」

「は、はい……。あの時、俺に飲み物くれた人が天使のような微笑みで『頑張って』って言ってくれたことは覚えています……」

(土壇場の入学命令と慣れないリミッター。………その時手渡された飲み物は格別だったー)

 蕨の幸せそうな表情を見て、ムースが少し口を尖らせていたのを、エクレアを心の中で笑った。

 黒魏は「覚えてるのそこか」と呟いて。

「そいつ、今の生徒会会計だぞ」

「そ、そうなんですかっ?」

「ああ、今度会った時にお礼でも言っとけよ」

「はいっ」

 若干上擦った声になってしまった蕨。

 黒魏が「っと」と、思い出したように真剣な顔つきになり。

「少し脱線したな。話しを戻すと、だ。俺が言いたいのは………そんな満身創痍な状態にも関わらず、合格したってことだ」

 その場にいる全員が黒魏が言いたいことを理解した。

(そこにまで目を付けるかー。最近の学生は侮れないなー)

「今言ったように、息は切れて体力的には限界、疲れてちゃ頭も中々回らない。それなのにこの東陽学園に合格した。生徒会や風紀委員会の一部の生徒には入試結果だけは閲覧が許されてるんだが、柊は全教科平均の少し上は取っていた。実技も平均点は取っていて、十分合格水準に達していたんだよ」

 入試結果だけで個人情報は見てないからな、と最後に付け加えて、黒魏の言葉が一旦切れた。

 三人の視線が蕨に集中する。周囲の生徒は近くで聞いてる人が言伝でコソコソと会話内容が広まっているようだ。

「その天使みたいな生徒会書記の女子やその校門の場に居合わせた生徒は全員『さすがに落ちちゃうよな』って話してたらしいぜ、………だから、俺はお前も十分買ってるんだから、そんな卑屈になるなよ」

 蕨は顔を参ったという風に引き攣らせながら、

「は、はぁ……すみません…………なんて反応していいのやら……」

「難しい方向に行っちまったな。……最初の質問に戻すが、お前、武闘祭には出るのか?」

「いえ……その時の実力にもよると思いますけど……実のところ、あまり興味もないので」

「そうか、それなら仕方ないな。遅刻してまで入学できたんだ。精進しろよ」

「は、はいっ」

 からかい半分のエールにも肩をビクつかせる蕨。そんな蕨を仲間の三人が温かい笑みで包んでいた。


 その時、昼休み終了の予鈴が鳴り、生徒達が肩付けを始める。

 蕨たちも片付けようと立ち上がる。

「それとお前ら」

 歩き去る前に黒魏の重たい声が呼び止めた。

 先程までと少し違った雰囲気に四人とも注視する。

「近々変な奴らが動いてる。柊にはその心配はないかもしれんが、ディアーゼス、特にお前は気を付けとけ」

「変な奴らって……」

 綺麗な顔で苦虫を噛み潰したような顔をしながらエクレアが呟く。

「悪い。俺も『御八家』の一員だから、これ以上のことは言えない。そもそも、ディアーゼスが狙われてるかどうかも分からない。………が、お前なら狙われてもおかしくないだろ?」

 黒魏の指摘に、はっとするエクレア。隣りでムースもいつもの明るさが消え、目線を鋭くさせている。

「北深坂先輩……知ってるんですか? 私の『血』のこと……」

「これでも『御八家』だからな。…とにかく、周りに注意はしておけ。……龍堂、お前も気を付けとけ。優秀なフォーサーの卵は対象になりやすいからな」

「はい……」

 黒魏の忠告に哉瓦は重々しく首肯した。

「それじゃ、お先」

 言って、黒魏は最後に微笑んで食器を片付けに行った。

 食堂内にはまだ生徒がいて、騒然としている。

 その中で、四人は動かずにいた。

 黒魏の知らせに恐怖して動揺しているわけではない。

 黒魏の知らせで、たった今、自分の所為で友達に危害が及ぶかもしれないということに気付いたのだ。

 守る為には、『ここで何も言わずに離れるしかない』と、そういう考えに行きついていた。 

 自分の強さの所為で他人を巻き添えにしてはならないと、そう考えた。

 ここで冷たく、赤の他人のように離れれば、『一線を引いた間柄』になれる。

 哉瓦とエクレアの視線が交差し、気まずげに逸らされる。

「おー」

 そんな中、『他の三人』に連れられてその場に『佇んでいる』生徒が額に水平にした手を当てて、遠くを眺めるようにしながら、実際は黒魏の去った方向を眺めながら。

「イケメンだねー。北深坂先輩は」

 きょとんと、騒然とする中、そんな間の抜けた声が『他の三人』の鼓膜に不思議と響いた。

「「「………はあ」」」

 哉瓦とエクレアが目を合わせて、今度は逸らさずに苦笑した。

「ていうかいつまでここにいるの? 早く行こうよ」

 さすがにみんな気付いた。

 これは蕨なりの『気にするな』という意味だと。

「そうそう、さっさと行こう。次の授業に遅れちゃうよ」

 ムースが合いの手を入れる。

「………そうね、行きましょう」

「次の授業ってなんだっけ?」

「『士器アイテム』作成の基本Ⅰ。何度言わせるのよ」

「ごめんごめん。つい度忘れしちゃって」

「もうっ、仕方ないわね」

 ちょっとイチャイチャ気味の会話を、蕨とムースは後ろを付いて行く形で聞いていた。

 ここで少し二人のイチャイチャ具合をボソッと小馬鹿にした会話をするのが今までの流れだったが、今回は少し違った。

「蕨」

「ん?」

「ありがとう」

「……そんな大げさなことかね。あの程度でどうにかなるとも思えなかったけど」

「私も思ったけど、あの二人ってどこか融通が効かないところがあるし、私は立場上発言に重みが無いし。……あの場は蕨に言ってもらって助かったよ」

「……不器用な友達を持つと大変だよ」

「そうねっ」

 それから四人は、次の授業に間に合うかどうかの瀬戸際に立たされ、走った。


(……ていうかさ、哉瓦。黒魏先輩の忠告を受けた時のお前の反応、明らかに『鬼人きじん組』が最近活発化してきたこと、知ってたよね? ……情報源ソースはどこなんだろ?)

 のほほんとした顔で、蕨が観察し、思考していたことなど、誰も知る由もなかった。

 関係ない話しなんですが、最近バイトをやろうと思っています。

 でも、迷っている内に定員がいっぱいになってしまいます。

 お金……欲しいな。


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