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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
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第4話・・・闇の動き/始まり・・・

 アット・ワンス・コンバット。

 早速戦闘、的なイメージです。

「入学式前の哉瓦VSエクレア」と「入学式で間もないのに敵と戦う」という意味を含めていたりします。

 真夜中。

 とある小部屋。

 部屋は明るいのに薄暗いという単語が当てはまってしまうような奇妙な空間。

 一つのテーブルと向かい合う椅子。

 その椅子に座り、禍々しく直感で直視したくない、という思いが込み上げてきそうな雰囲気で話す二人の男と女がいた。

「ディアーゼス皇国・第三皇女・エクレア=エル=ディアーゼス、ですか。この『血』は使えると?」

 一枚の写真を手に取りながら長髪で背筋を伸ばした姿勢と言葉使いだけは礼儀正しい男が、一枚の写真を見詰めながら、顔にうっすらと見た目穏やかで何か企んでそうな笑みを浮かべて問う。

「ええ。その子の祖父がちょっと訳有りでね。その『血』は『士器アイテム』の材料に最適なのよ。本当は純血が良いんだけど、クォーターならまだセーフ。わざわざ日本までノコノコその『血』を持って来てくれてるんだから、有効活用させてもらうわ」

 胸元を大きく開けた服。色気と危うさを揃え持つ長い金髪をパーマにした女が顎に手を添えながら首肯する。

「では、私達の任務はその皇女様の拉致、と?」

「ええ。できれば出血も避けて欲しいわね。……できる? 相手は子供とはいえ一国の皇女だけれど」

 男は手元の書類に目を通しながら。

「お任せ下さい。貴方方の事前調査ではこの皇女様は『お優しい』とあります。我々も目立つような真似は極力避けますが……、最終手段の見当が早くも付きました。……楽な相手です」

 男は顔を上げ、目の前の女性に微笑み掛けながら。

「むしろなぜ貴方方『鬼人きじん組』が自らの手で行わずに我々『グラード・アス』に依頼するのかが不思議なくらいです」

 女は可笑しそうにニヤリと笑い。

「はは、実はこれ私の独断なのよね。今組織内でちょっとした競争やっててさ~。これで私が成果を上げれば私も晴れて幹部入りってわけ」

「なるほど。ですから部下や傘下組織も使わずに少数で使いやすい『我々』というわけですか」

「気に障った?」

「とんでもない。そのような幹部昇進のお役立ちになれるのなら光栄の極みです。こちらもきちんと報酬をもらえるわけですし。感謝こそすれ文句なぞございませんよ」

 気持ち悪いほど丁寧な言葉が本心かどうか分からないが、女からすれば引き受けてくれるのならなんだって良かったので特に言及もしなかった。

 男は「それで」と書類を1ページめくり。

「この龍堂哉瓦という少年は? 東陽学園を主席合格とは優等生ですね。日本の未来を担うこと間違い無しの少年をどうすればよいのでしょう? 皇女様と同じく拉致ですか?」

「いいえ」

 女は端的に否定し、冷笑を浮かべ、言った。


「その子は殺してちょうだい」


 男は変わらない笑顔で、返した。

「かしこまりました」


 ◆ ◆ ◆


 東陽学園入学から一週間。

 そろそろ学園生活にも慣れた頃。

 

 蕨は今、実技授業をしていた。

 縦横に広く、観客席もある室内闘技場。

 学内イベントなどでバトル、模擬戦などを行う場合、フィールドとして使われている場所だ。

 毎度のことではないが、時々そこで授業を実施している。

 フォーサーとしての実技教育は16歳以上になってから本格的に行う。

 体内のエナジー操作には僅かながら自身への負担もある為、精神的にも身体的にも出来上がった歳でないと耐えられない恐れがある。

『御八家』を始めとして一部の名家などの人間には才能にも恵まれた人が多いこともあり小さい頃から教育を受けていることもある。

 だがそれも全体の一割行くかどうかで、名門東陽学園でも一から実技演習教えなければならない。


 特注ジャージ姿で整列する蕨たちBクラスの前で眼鏡がきらりと光る真面目な体育教師、柳沢やぎさわ当馬とうまが指を立てながら今日の授業内容を告げる。


「今日は〝歩空法フロート・メソッド〟の練習をします」


 蕨はチラリと、前の方にいる哉瓦を見やる。

(こいつは余裕なんだろうな)

 柳沢先生が実演を交えて説明を続ける。

「有名な法技スキルですからみなさん知ってることでしょう」

 柳沢先生は右足を一歩踏み出し、地面に付かずに中空でその動きが止まり、そのまま左足を踏み出す。右足は地面に落ちることなく中空に有り続けたまま柳沢先生が空気中を数歩だけ歩いて見せた。

歩空法フロート・メソッドエナジーを足裏に集中させ、それを中空で地面のように平たく丈夫にして、自らの身体を浮かす法技スキルです。……よく『空を飛ぶ』という表現をする人がいるのですが、正確には『空を歩く』です。テストには出ませんが、そこは誤解しないようにしましょう」

 準備運動の後、柳沢先生の掛け声指導の元、歩空法フロート・メソッドのやり方とコツを教えてもらい、一通り終えたところで各自での練習の時間となった。

 

 なぜか分からないが、蕨が動かずとも哉瓦、エクレア、ムースが勝手に集まってきた。

「蕨、大丈夫? できる?」

 と、親切に声を掛ける学年主席。

「柊くん、分からないことがあったら聞いてね」

 と、皇女という称号に似合う優しい笑みのエクレア。

 エクレアは、蕨と知り合った当初こそ哉瓦の友達ぐらいの認識しかなく、突然『立会人』を引き受けてくれた手前気まずくも感じていたのだが、ムースの言う通り「気配りのできる人物」で、加えて今までエクレアの傍に寄る男は少なからず皇女様への色目や類稀な美貌に対する下心があったのだが、蕨からはそういった不快感を全く感じない。

 皇女様という立場には若干の躊躇がしばしば見られるが、その都度蕨が面白い反応をして場を湧かしてくれている。

 男友達としては最高の部類だ。


 蕨は二人の心優しい手助けを苦笑で受け止め。

「いや……一応俺もできてるから。三人ほどじゃないけどちゃんとできてるから。……ほらっ」

 証明するため蕨はその場で階段を上るように宙を歩いた。

 蕨の歩空法フロート・メソッドを観察しながら、哉瓦とエクレアが呟く。

「あら、結構上手いわね。足裏のエナジーを九割方平面状へ形作ってる」

「蕨、この前の加速法アクセル・メソッド防硬法ハード・メソッドの時も難なく習得してたしな。エナジー量はともかくテクニックは天才的だ」

(天才………ね)

 二人の呟きを聞きながら上空で蕨は遠くを見る瞳で作り笑いを浮かべた。

「わーらび」

 突然隣りから声がした。

「おっ、ムース」

 近付いていなかったわけではないが、蕨は軽くびっくりした声を上げて隣りに浮き立つ女子の名前を呼ぶ。

 ムースは小首を傾げて微笑みかけながら。

「蕨って手馴れてる感あるけど、誰かに教えてもらってたの?」

 名家の人間でもない蕨がさくさくと熟すのに疑問を持ったのだろう。

「えっと………まあ昔お世話になった人に基本的な部分だけ色々教えてもらってね……」

 いくら潜入中とはいえ、完璧な嘘をつくのにも抵抗があり、なんだかはぐらかす感じになってしまった。

「なるほど。良い師匠だったんだね」

「まあ、うん」

 この笑顔、眩しい。

「何の話ししてるの?」

 蕨とムースのいる高さまでエクレアが空を歩いて来て聞く。隣りには哉瓦もいる。 

「蕨の師匠の話し」

 ムースが応えると、二人は「「え」」と声を合わせて意外そうな顔をした。

(うっ…なんか話しが面倒な方向にこじれてきた……)

「蕨って師匠いたのか?」

 哉瓦の尋ねに、蕨は咄嗟に頭を回転させて。

「それよりも哉瓦、お前こそどうなんだよっ。名家の人間でもないのになんでそんなに強いんだっ?」

 案の定エクレアやムースの興味の視線が向けられ、蕨の話題は流せたようだ。

 哉瓦はというと、

「えっと……」

 予想外に焦っていた。

「どうなの?」

 エクレアも純粋な瞳で聞く。

 対する哉瓦は全員から目を逸らし、冷や汗を一つかいて。


「……………………………秘密ってことで」


「「「!?」」」

 色々な意味で驚いた。

 誠実な性格の哉瓦が正直にノーコメント宣言。

 嘘を付けない性格なのか、やましい気持ちがあるのか。

 風向きを変える為に哉瓦を贄にしたような感じになってしまった蕨としては少し心が痛んだ。

 が、それ以上に哉瓦のこの態度の原因にも好奇心が叫ぶ。

 が、もちろん尋問するような真似はしない。

 そこは抑制が効くのが蕨だ。

「言いたくないなら無理に聞かないよ。ごめんね」

 蕨が素直に謝ると、哉瓦も「気にしないで」と言い、


「まあ、いずれ言うことにはなると思うから、その時まで待ってて」


 意味深な台詞と共に申し訳なさそうに、それでも信頼に満ちた笑みで述べる。

 エクレアも、ムースも、蕨も、微笑んで納得した。

(でもごめん、一応これも『任務』だからさ、哉瓦のことは『こっち』で少し調べさせてもらうわ)

 悪いと思いつつも、そう判断した。

「あ」

「え?」

 哉瓦がエクレアの顔を見詰めながら反射的に呟いた。エクレアも反射的に返すも、哉瓦は何も言わずにエクレアの顔に手を伸ばした。

「え? え?」

 慌てるエクレア。蕨とムースは二人並んでその光景を眺めながら、動かないエクレアを見て(ああ、別に嫌がってはないな)と心の声をハモらせていた。

「ちょっと動かないで」

 やっと発した哉瓦の言葉にエクレアはぎゅっと目を瞑り、無防備な銀髪西洋美少女皇女を目の前に哉瓦は少しだけ触れて、

「はい、取れた」

 笑顔でやりきった感のある声を上げた。

「え?」

「ごみだよ。まつげにごみがついてたから、目に入ると大変だし…………どうしたの? 顔真赤にして?」

 この一週間で一つ分かったことがある。

 この男、鈍感で無神経だ。

「黙れ! この鈍感無神経男!」

 言いながらエクレアは右拳を繰り出した。エナジーを集中させた大木だろうと砕くであろう拳を。

「おっと」

 哉瓦はそれをあっさりと片手の平で受ける。

 エクレアはギリリと歯ぎしりしながら次々と拳を繰り出し、哉瓦は「え? なに?」と余裕の表情でそれを防ぐ。

 下の方から「争いはやめてください!」というあたふたした柳沢先生の声にも耳を貸さずに、二人……というかエクレアが一方的に続行。


 下に降りることで二人から離れた蕨とムースは、そんな二人を観ながら。

「エクレア……やっぱり落ちちゃってね」

 蕨の正直な発言に、ムースは少し考えて。

「いや、まだね」

「? この前肯定してなかったっけ?」

「『かも』と思っただけよ。断言はしてないわ」

「なるほろ。まあ付き合いも短いしな……さすがに早いか」

 特に否定せず、ムースの考えを証明する要因を呟く蕨。

 ムースは「でも」と。

「落ちかけてはいるわ」

「はあ……」

 なんかムースが一人の世界に入ってる。

 蕨は適当に相槌を打った。

「あと一歩、きっかけがあれば陥落する………。何かないかしら?」

 最後の方で蕨の顔を見ながら助言を求めるあたり、そこまで一人の世界に没頭していたわけでもなさそうだ。

 蕨は適当に、でもちゃんと考えて。

「ピンチの時に救われれば、落ちるんじゃね?」

「ベタね」

「悪いか」

「提案としては悪くないけど、侍女の身としては賛同しちゃいけないのよね~」

「その発言がもうアウトな気がするけどね」

 結局、その時間は哉瓦とエクレアのミニ観戦試合と化した。


 まだ始まったばかりです。


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