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寂れた商店街

作者: 霜雪

見慣れた商店街だ。

ずっとこの商店街を同じ視点で眺めてきた。


昔はあまり気にならなかったが、今、こうして見てみると世界は灰色一色。やはり少しずつだけど、確実に世界は侵食されていたのだろう。昔はカラフルでビビッドな世界だったのに。



あの頃は不自由だった。一日の半分は暗闇で、何も見えやしない。残りの半分もオレンジの水銀灯が細々と輝くのを眺めるだけ。あ、でも向かいの喫茶店は遅くまでやってっけ。いつもコーヒーやトーストの良い匂いがしてたなあ。


当時は年に二十日ぐらい、暗闇が無い日があって、それが凄く楽しみだった。どこのお店もみんな休みで、子供たちが商店街を駆けて行く、その楽しそうな様子を見ているだけで飽きなかった。休みと言えば例の喫茶店だけは例外で、いつでも開店していた。名物のチョコレートサンデーと、オリジナルメニューのカルボナーラトースト。きまって同じ時間に大きな麦わら帽子の女の子が向かいの喫茶店に入っていくんだ。毎回店から出てくる時に、サンデーでも食べたのだろうか、きまって頬にクリームを付けてたなあ。あの子は今頃どこでなにをしているんだろう。


幾度もの暗闇を経験した。暗闇は押し潰されそうな不安さえあったが、必ず十数時間したら明けると確信していたので不安ではなかった。暗闇が訪れない日には女の子が喫茶店に入って行くのを見た。喫茶店から出てきた彼女は楽しそうで、それを見るだけで、どこか優しい気分になれた。それだけで幸せだった。


女の子が大きくなるにつれて、その暗闇の訪れが遠のいていく事に気が付いた。女の子を見られる日が増えるのが嬉しかった。ただ、喫茶店に入るところをあまり見なくなってちょっと寂しい。サンデーを食べた後の幸せそうな彼女の顔が恋しくなった。


今日は久しぶりに彼女を見た。お使いだろうか、彼女の手には特売のチラシ。近くに新しくお店が出来たのだろうか。


帰りには彼女の頭にはあの麦わら帽子ではなく、お洒落なレースの帽子になっていた。一杯になったビニル袋を重そうに持って歩いていく彼女。あのとき一声かけてあげれば良かったな。


あれから季節は移ろい、麦わら帽子の少女を見かけることは無くなった。闇が遠ざかっているのにも関わらず、商店街は陰鬱でモノトーンな世界になっていった。年中無休だった筈の向かいの喫茶店も休みがちになってきた。彼女の笑顔、また見られないかなあ。



今は暗闇は訪れない。オレンジの水銀灯と向かいの灰色のシャッターに貼られたテナント募集中の貼り紙を眺めるぐらい。灰色とオレンジの世界が交互に訪れる。もう麦わら帽子の女の子を見かけることはない。あの子は今頃、何をしているんだろうなあ。





まもなくして喫茶店の向かいの店には『テナント募集中』の貼り紙がされたそうな。その店の灰色のシャッターは閉ざされたままで、二度と開くことは無かった。彼は今でも誰もいないシャッター通りで、彼女を待っている。


(完)

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