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07 準備


文化祭に向けてクラスをまとめるために昼からの授業はクラス会議となった。

そんな中、僕の声が教室に響き渡る。


「どうして僕がっ!?」


大きな声を出して皆に注目されて恥ずかしいなんて、それどころではない。抗議しないともっと恥ずかしいことがこの先待つことになるのだ。


「クラスのほぼ全員の意見です。白石君には拒否権はありません」


黒板の前に立って毅然と僕を突き放すのは、保健室に来て謝ってくれた女の子。あの時思ったように彼女はクラス委員だった。

悪いことは悪いと言える彼女だが、今回は僕の見方になってくれなかった。


「だって僕じゃなくとも、可愛い女の子がクラスにいるじゃないですか!」

「今の白石君の言葉に喜ぶ生徒は多数いますし、嬉しいことに前回優勝した方もこのクラスにはいます。彼女が出れば有力でしょう。しかし、それだと面白味がなくなるでしょう?」


面白味に関してはそうかもしれないけれど…


「僕は男ですよ?」


そう言い切ると、委員長も隣で黒板に決定事項を書いている書記や、副委員長も渋い顔をする。今の意見で可笑しなことはないはずなのに、顔をしかめるタイミングがおかしくない?


「全然かまいません。毎回、数人男性もいますから」

「……」


奥の手(真実だが)すら意味がないとは…

僕が心底嫌がっている理由は文化祭で開かれる、クィーンコンテスト。中高大の各クラスに一人を選出して、誰が可愛いか美人かを競うミスコン。それのクラス代表に選ばれかけているのだ。

もし選ばれてしまえば女装した格好で写真撮影をして、校内の掲示板に張り出されるし、文化祭当日、その姿で歩きアピールしなきゃならないのだ。

そんな恥ずかしいこと誰が出来ようか!


「いいじゃねぇか、白石。多分可愛くなると思うぜ」


近くにいた男子が渋っている僕にからかうように言う。つられて、他の生徒も、


「メガネを取った白石君、可愛いかったわよ!自信を持って、大丈夫」


いやいや、男にそんな自信は必要ない。


「白石君だと分からないようにバッチリメイクするから」


それだったら僕じゃなくても良いよね?もう特殊メイクだと言っても良いんじゃない?

そう反論したけど、周りは敵だらけ、こうして僕の意見は聞き届けられず、クラス代表になってしまった。


「そんなにしょげることないぜ。俺らも対して変わらない仮装すんだからよ。元気だせ」


クラスの出し物は普通の喫茶店なんだけど、これまた面白味に欠けるからとウェイター、ウェイトレスは仮装することになったんだ。

だけど、何の慰めにならないや。というかこのクラス、のりが良すぎのような気がする。

困惑して頭を抱えている僕は、和気あいあいとしている中、一部の生徒が冷ややかに自分を見ているなんて知る由もなかった。

ましてそれが、火種になるり、大きな炎となるなんて……


土台が決まれば、衣装を早く手続きしないとなくなってしまいからと、僕と委員長、二人の女子、そして親友の宮園雅也が中等部と高等部の間にある衣装専用の教室に訪れた。


「雅也、僕が困っていたのに助けてくれなかったよね。それでも親友?」


衣装部屋の鍵が届くまでの間、手持ち無沙汰だから、雅也に不満をぶつけることにした僕。

ちょっと前までは「宮園」と呼んでいたけど、こいつが「雅也」と呼べとうるさいから、そう呼んでいる。


「なんだ、助けて欲しかったのか?」


何じゃ、それ…


「さして嫌がっている風にはみえなかった」


声を張り上げて反対していたんだけど、それでも嫌がっている風に見えないのか!?どんな感覚の持ち主なんだ、雅也は。

釣り上がった眼を閉じると、おもむろに雅也に対して背を向けた。


「ま、いいや、許すよ。楽しいのは好きだし、皆が笑顔になってくれるのも喜ばしいしね。僕がちょっと我慢すればいいことだ。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、もしかしたらトラウマになるかもしれないけど!」

「ああ、分かった。助けなかった僕が悪いよ」


本当に、そう思っているのか、いつも以上に淡々とした物言い。ただ面倒に感じただけかもしれないけど、謝ってくれたことに少しは溜飲を下げることが出来た。

委員長は鍵を取りに行き、残った二人は遠巻きに肩を寄せ合ってこちらに近づこうとしない。彼女たちは僕には普通に話しかけてくるのだから、やっぱり、雅也のことを警戒しているのだろう。


だけど、何故?


雅也に対しての皆の態度は、1週間以上たつけど、まだ謎は解けていなかった。

雅也は無愛想だと思うけれど、危険はないし、頓珍漢な天然だと思うんだけどな~


バタバタと走って鍵を持ってきた委員長は教室を開け、僕達は順に中に入る。

使われなくなった教室を衣装部屋にしたのだろう。中はただの教室。しかし、衣装が半端じゃなかった。


「…なにこれっ!」


壁には棚があり、ギッシリと靴や小物が詰まっており、教室一面にはキレイに並んだラックに所狭しと衣装があった。

どこぞの服屋の倉庫かい?


「皆、リストは持っていますね。それに近いものがあったら私のところに持ってきて下さい。チェックしますから。白石君と宮園君は先に白石君に合いそうな衣装を探して下さい。もちろん、私が最終チェックします!」


勝手に無難なものを選ぶなよ。と、脅された感が残るのは気の所為だろうか?

有無を言わさずに探しに行かされた僕達は、順番に見て回ることにした。

どれもこれも派手だなと棚を移動しつつ眺めていると、他の三人と距離が空いた頃、後ろから付いてくる雅也がいつになく真剣に、「しぃ」と、呼びかけてきた。


「記憶がなくても約束は有効か?」


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