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06 関係




「……はぁ」

「どうした、盛大なため息なんかついて、何かあったか?」


只今、煉と登校中です。彼はあれからずっと一緒に登校してくれるし、帰りも一緒に帰ってくれるという過保護ぶりを発揮しています。それだけじゃなくてこうして、ちょっと影で溜息をついただけなのに、心配してくれるという『超』がつく過保護っぷりに変貌しつつあります。

煉が楽しい話をしてくれているのに、心ここにあらずと頷いていたら、誰だって何かあったと分かってしまうよ。でも、朝のことが気にかかり、気持ちの入れ替えが出来ないのだから、どうしようもない。


「悩みか?だったら口に出した方が楽だったりするから、言ってみ?」


言っていいことなのか判断しかねるが、自分で解決出来なさそうなら、煉に相談するのもありだよね。


「青柳さんって、覚えている?僕を病院に運んでくれた人」

「………ああ…そいつがどうした?」


青柳さんの名前を出した途端に不機嫌そうに眉を寄せた煉。だが、それも一瞬で、そんな翳りを一切なかったように何時もの自信に満ちた笑みを浮かべて、優しく促してきたので今朝の会話を簡単に説明する。


「推測なんだけど僕はあの人に以前、会ったことがあるのかなって。だってそうじゃないと、たった二回出会っただけで『後悔する』なんて言うのはおかしいよ。僕の記憶がなくなっているのが原因なら、早く記憶を取り戻さないと――って聞いてる、煉?」


うんもすんも言わない沈黙に、途中から聞くのが嫌になったのかと、横を歩いているはずの煉に向く。だが、彼は少し後ろで首を九の字に折り曲げて立ち止まっていた。


「煉、どうしたの?気分でも悪くなった?」


うなだれている頭を抱えるように押さえている。もしかして毎日、送り迎えしているから、無理がたたったのかも。


「煉、大丈――」


大丈夫?と言いたかったのだが、近くによって動かない煉の腕にそっと触れようとした瞬間、逆に腕を掴まれていた。

次の瞬間には引き寄せられて、肩を力任せに掴まれる。


「痛っ!痛いって、煉!」


何が起こったのかよりも、掴まれた腕と肩が痛くて反射的に身をよじる。だけど、煉は離してくれず、それどころか、一層力を入れた。


「…い――っ!」

「………くそっ!!…あいつに近寄ったら…同じだっ――それだけはっ!!」

「煉…?」

「あいつに近寄るな!あいつはダメだ!」


煉の何処にあるか分からない逆鱗に触れたのか急に荒々しく怒鳴りだした。煉の言葉使いは荒い時があるけど、ここまで感情をあらわにして激しく怒鳴ったことはない。

見た目の不良っぽさがフル全快されたような迫力に押され、理不尽なことを言われても言い返せなく、それどころか、間近で激しい感情をぶつけられて僕は身を震わせてしまう。


「許さない!あいつに会うのはオレが許さないっ!記憶も戻らなくていいんだっ!」


険しい瞳で、上から押さえ込まれ有無を言わさない迫力に、兎に角、内容は関係なく「うん」と言ったほうがいいのだろうか…?と思ってしまうほどだ。

だけど、僕の意思を無視した強引な言い分に、少なからずムッときている。

煉の意見をとるか、自分の意思とるか…

これ以上爆発しないようにと抑えようとしている、煉を見つめ返す。


「…煉、あのね、――!?」


掴まれた腕と肩の痛みを無視してなんとか言葉を紡ごうとした、そのとき、掴まれた部分、つまり煉の手が震えていることに気づく。

怯えてる……?だけど、何に…?

それに気づいた瞬間、命令口調で僕を縛る煉に対しての尖った気持ちが急速になえていった。


「煉、聞いて。僕は青柳さんの住所も何をしているのか、学校に行っているのかも知らないわけ。今日たまたま出会ったけれど、そんなことはまれだと思うし、それに僕……」


拘束はまだ解かれていないけど僕が話始めると、少し力が緩くなり闇を宿していた瞳に焦点が合うようになった。


「………」


煉は続きをまっている。


「僕…反発したから、今度出会っても無視されるかも」

「……………反発…?誰が?」

「僕がしたの!」

「…どんなこと言った?」

「怒っていたから、あんまり覚えていないけど、確か、勝手なこというな…みたいなことを言ったような…」


その時のことを思い出そうとするのだけど、余り覚えていなくて、しどろもどろの説明をしたら、煉が片眉を上げた。


「…あいつは、どうしてた?」

「吃驚してた。僕、あの時、感情的だったから、そのまま彼を放って帰ってきたから、もう会ってくれないんじゃないかな?」


ちょっと違うような気がするけど、大してかわらないし、いっかぁ。全部説明するのは面倒だし。

煉が何に激怒し、何を怯えているか分からないけど、僕が言えるのもこれ以上ない。

どうなった?と煉を覗き込むと、まだ震えていた。だけど、小刻みというより全身で。


「…煉…?」


顔が見えるまで覗き込もうとしたら、するりと肩を解放され、掴んでいたその腕は腹を抱え、大声で笑い出した。


「お前が反発だって?あいつに!?それ、最高!勝手なこと言うなって?あいつがどんな顔していたのか、みてやりたかった!雫が反発するなんて、想像すらしてなかっただろうしな」

「……」


ニヤニヤと何処か意地の悪い笑いだったけど、さっきまでの暗い感情の波はなくなっていた。ひとしきり満足するまで笑いきった煉は僕の肩にポンと今度は軽く乗せる。


「雫、お前やるな!」


何が!?

突っ込みを入れたいところだが、機嫌が直ったから止めにした。本当なら聞きたいことはいっぱいある。例えば、煉は青柳を知っているのか?とか。彼に対して煉はいい感情を持っていないのは何故なのか、とか。僕の記憶が戻らない方がいいと言った意味とか。他にも、この間からの疑問も。

だけど今は聞くべき時じゃないような気がして、ぐっと我慢する。

それにしてもよかった。人通りの多い道じゃなくて、男同士が急接近している姿なんて気持ち悪いだろうし。

突然引っ張られた時に落としてしまった野菜の無事を確かめた後、僕達は何もなかったように学校に向けて歩きだす。


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