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04 世評



宮園の瞳は右が黒玉のような黒で、左が紅玉のような赤なんだけど、どちらも宝石みたいで綺麗だと思うんだけど、ま、ちょっと生気がないって感じもするけど、能面のようにあんまり表情が動かないだけだと思うし、問題は眼じゃなくて、表情なんじゃないかな?

宮園に渡された眼鏡を凝視する。こうして間違って持っていってしまった眼鏡を返してくれて、顔色が悪いという僕を保健室に運ぼうとしているんだから、優しいと思うよ?

手に乗せられた大きめのレンズの眼鏡…う~ん、ま、これが眼鏡が僕のだというんだからと、かけてみると。


「…あ」


人の感情で歪んで見えていた風景が和らいだ。そして、圧迫されていた息苦しさまでも嘘のように消し飛ぶなんて驚きだ。これマジックアイテム?


「さ、行くぞ」


気分が悪いのが消え去ったから保健室に行く必要がないが、空気が淀んでしまった教室に戻る気も起きず頷いた。

宮園は後ろの陰口が聞こえているはずなのに完全に無視を装い歩き出す。彼についていくがその前にもう一度、教室を振り返と、宮園が教室から姿が見えなくなったとたん、集まった生徒達も呪縛が解けたように、それぞれが自分の席に向かう。

なんだろう…黒い靄もそうだけど、同級生の態度とか不自然なことが…違うな…おかしなことが、疑問点が多すぎる。

それは昨日、今日、始まったというんじゃなくて、前からの日常にそれらが散りばめられているのだ。

それも僕に記憶があれば、全部理解していたことなんだろう。記憶を失う前はこんなおかしなことを当たり前として受け取っていたのだろうか…?



保健室に着くと保険医は不在だったので、勝手にベッドを借りることにした。


「ええと、宮園、戻っていいよ」

「違う。雅也だろう。それに、一限目はダルいからふける」


そう言って気だるそうに空いている隣のベッドに潜り込んだ。

ま、いっか。教室の雰囲気が悪かったからな~戻りたくないのも無理ないか。

僕も気分はかなりマシになっているけれど、一眠りしようと身じろぎをしたところに、ホームルームを終えた数人のクラスメートによって邪魔をされる。


「さっきはごめんなさい。具合が悪いことに全く気づかなくて。他のみんなも誤りたいって言ってたけど、大勢だとまた迷惑がかかるから、私達が代表で誤りに来たの」


半分以上眠りに入っていたから面倒だと感じたけれど、折角きてくれたんだから相手をするために起き上がった。


「そんなの別にいいよ…記憶がないから…多分、吃驚してパニックになったんだと思う」

「そう言ってもらうと少し助かるわ。ここ最近、暗いことばかりだったし、明るい話が転がり込んできたから、皆もいつも以上にはしゃいだの。本当にご免なさい」


明るい話って煉が教室に来たことなのか?それほどまでに煉は人気者なんだ。

三人で訪れて来ても、話しているのは中心にいる女子だけで、残りの二人は後ろで、申し訳なさそうにモジモジしている。真ん中の髪の短い子は委員長かな…?

そんなことより、


「クラス全体が暗くなるって、何かあった?」


そちらの方が気になった。もしかして…宮園が関係しているとか…じゃないよね?

隣のベッドでは、宮園は頭まで布団を掛け、カーテンもほぼ閉められている。彼女達からは宮園は見えない。ここで話をするのなら会話は彼に聞こえてしまうけれど、あの教室での雰囲気はおかしすぎる。原因が何か知りたかった。


「白石君は覚えていないのよね。だったら、危機回避の為に知っておいた方がいいわよ。最近ね、この町で通り魔が現れるのよ。突然に後ろから襲われて、髪の毛を切られるの。怪我をした人はまだいないらしいけど、時間もバラバラ、襲われる被害者の年齢も幅広く、犯人像も分かっていないから、白石君も気をつけてね」


宮園のことを教えてくれるのかと思ったが、クラス全体が暗い理由が彼ではないことにホッとするが、内容が内容なだけに彼女の話に聞き入っていた。

被害者は5人で警察官も動いているが、素性どころか影さえ掴めていないらしい。

もっと詳しく聞こうと思ったが、授業の予鈴が鳴って彼女達は教室へと戻って行った。彼女たちが立ち去った後も、眠気は襲ってこず、何故か通り魔の事が気にかかり、宮園や煉のことも忘れて、そればかり考えていた。

どうして通り魔は髪の毛を奪っていくのだろう。何か意味があるのだろうか?自分の頭髪が薄いから鬘を作ろうとしているとか?そんなことで、危ない橋は渡らないよな……もっと猟奇的な理由があるはずだろう。こんな動機しか思い浮かばないなんて僕って馬鹿だな。

あ、朝、煉が耳打ちで言っていた『刃物を持った危険な奴』がうろついているって、あれはこの通り魔のことだったんだ。髪の毛を切ろうと頭や髪の毛を突然引っ張られるなんて、恐怖だろう。僕の場合は髪の毛が襟首までしかないから、頭を鷲づかみにされるかもしれない。

うわっ、想像したら、怖っ!!

だけど、髪の毛って……なんだかスッゴく気になるんだよな。何だろうこのキーワード。とても危険な匂いがする。

それは何故かと考えているうちに、知らず知らずに眠りに落ちていった。



規則正しい寝息に変わるのを見計らったように、隣のベッドから宮園が起き上がる。

半分以上仕切られていたカーテンに手をかけ、安らいで寝ている白石へと視線を落とす。


「おや、まあ、暢気なもので」


寝顔というのは見ていて暖かい感情が少なからず沸き起こるものだが、宮園はいつものように、淡々として感情の色が見られない。


「あんな話を聞いた後で寝ていて大丈夫かい?しぃ、君は一度、通り魔に襲われているんだよ」


美容院に行くと言って学校から帰った後だから誰も気がついていないようだけど…

小さく呟いて、宮園は爽やかな風が入る窓辺に目を向ける。


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