07 ねぇ龍ちゃん私のお願い聞いて
ホテルの一室の大きなベットに横たわる裸の2人、男は右手で頬杖をついてタバコを一本くわえている。
女は、うしろを振り向いて相手をしてくれない男の背中にしっかりと両手を抱き、しがみつくようにして離れない。
「ねぇ龍ちゃん、龍ちゃん。」
「・・・・・」
「ねぇ龍ちゃんったら聞いてる?」
「んっ・・・?」
「あのね龍ちゃんにお願いしたい事があるの。」
「何?」
「あの実は、わたしの友達の事なんだけどね。」
「はぁ・・・あのな、あんまり相手を干渉し過ぎると痛い目に遭うぞ。」
「・・・ちょっと、ちゃんと聞いてよ!!龍ちゃん。」
「ダメダメ。」
「そんな事言わないでよ、まだ何も言ってないじゃない。」
七恵は甘えたような口調で龍典の左手を両手でつかみ大きく上下に揺らしながら言った。
「俺は、忙しんだよ。」
「そんな事言わないでよ!!じゃあ何で私とホテルでこんな事するヒマは、あるのよ?」
「それは・・・男のアレだよ。」
「男の?何よ、私、龍ちゃんに呼ばれたら暇をさいてでもくるのに。龍ちゃんは、私の事何も聞いてくれないの?」
「それは・・」
「今日だって本当は生理だったんだよ、でも我慢して・・・何て言うか相手したって言うか、私は龍ちゃんの人形じゃないんだよ!!」
「おいおい、何熱くなってんだよ、分かったよ話だけは聞いてやるよ、だから泣くなよ。」
・・・・はぁ
結局は、俺がやらなきゃいけないんだよな、話だけ聞くって言ったのに・・あんな話してる最中、大泣きされちゃかなわねーよな、
「それで、あの今前に歩いている女が怪しい男につけられてるんだろ?」
「うん。」
「車から出るか。」
「うん。」
「それにしても人っ子一人いねーぞ、ホントにつけられてるのか?」
「うん、愛美ちゃんが言うには、毎晩のように後ろからつけてくるんだって。」
・・・・・
「誰もいねーみたいだぞ。」
「そうだね。」
「このまま、あの女の家の側で待つのか?」
「・・あっ!?待って愛美ちゃんから電話きた・・・うん・・・うん・・分かった。」
「何て?」
「今日は変な男つけて来てなかったから大丈夫だって。」
「そうか、じゃあもう帰るか。」
六本木にある七恵が働いている女性指名の高級酒場には、連日多くの客が詰め寄っている。
その中で一際重たい雰囲気をかもしだされる様なまなざしで周りを目を細めて見つめている龍典の姿があった。
「ねえ龍ちゃん恐いよ~~。」
「何がだよ?」
「その風貌がだよ。」
「仕方ねーじゃねーか元々こんな顏なのに。」
「それは、そうだけどさーもっと優しい顔出来ないの?」
「こんな、体格のヤツが優しい顔したら余計ヤバいだろ。」
「・・・それも、そうだけど・・・」
・・・・・
「・・・今の所彼女の周りには、不審な人物は、見当たらないな。」
「そうだね。」
「確実にこの店の中に出入りしている熱狂的な彼女のファンが怪しいからな。何か心当たりないんか?」
「う~~~ん・・・愛美ちゃんから聞いたんだけどさー全然ないんだって心当たり。」
「そうか、一から十まで俺たちが探らないとダメって事だな・・・・待って!?今あそこにいるアイツじっと彼女の所見てなかったか!?」
「どこ!?どこ!?」
「あれだよ!!あれ。」
「えっ!?」
「待て!!こっちバレるよそ見してろ!!」
「・・・何かあの男の人紙持ってない?」
「そうだな、確かに紙持っているなアイツ、何か書いてねーか?」
「見るからに怪しいよね。愛美ちゃんの場所から遠く離れてじっと愛美ちゃんを見ながら何か書いてる。」
「オイ!!あの男の後ろに回ってから何書いてるか見て来いよ!!」
「えっ!?私が?」
「そうだよ!!他に誰がいんだよ!?」
「それなら龍ちゃん行ってよー!!」
「何言ってんだよこんなガタイの俺が行ったらスグ、バレるだろ!!」
「だって~~~変な事書いてたら気持ち悪いじゃん!!絶対、一生トラウマになっちゃうよ。」
「友達の事助けたいんだろ!!それくらい我慢しろよ!!」
「えーだって。」
「分かったらサッサと行くホラ!!」
七恵は、嫌々ながらも龍典に腰を押されそっと席を立ち中腰になり、ゆっくりその男の視界から避け歩いていく七恵、段々と近づいて行くたびに体が少し震えていくのが見て取れる。
(はぁー。はぁー。後もう少し後ろもう少しだから)
そう心の中でささやき足で床を滑るように歩いて行った。そして、気づかれづに、その男の背後に回った七恵は、つぶった目をゆっくり見開いた。
(なに・・・これ・・?)
「キャーーー!!」
急に悲鳴を上げる七恵あまりにも大きな声だったのか、店の中にいた、大勢の人が七恵の所に目がいった。それを見た、龍典は眉間にシワを寄せ大きく息を吐いた。
手で顔を隠しながら、どうしていいのか分からない七恵は、その場に立ち尽くしていた。
全員の目が集中している中、その男も勘付いたのか席を立った。
その瞬間、龍典は、小さく手を振り七恵に合図を送った。急いで駆けつける七恵。
「一体何があったんだよ!?」
「えっ!?えっ!?えっ!?」
「何だよ、え、じゃねーよ一体あの紙に何が書いてあったんだよ?」
「だから、え、だって!!」
「だから、えっじゃねーよ!!」
「だから、え、なの。」
「えっ!?」
「その書いてあったの、え、が。」
右手の人差し指をもう片手の手になぞりながら言った
「あ~~あ、あの絵か。」
「そう。」
「それで!?一体何の絵が描いてあったんだよ!?」
「愛美ちゃんの。」
「はぁ~?あの女の絵?」
「だって気持ち悪いじゃん、遠くの方からずっと愛美ちゃんの事見て、愛美ちゃんの絵描いていたんだよ!!気持ち悪くない?」
「それも、そうだな。」
「あの男こっちを見てる。」
「バカ目ーそらせ。」
「あっ立ったよ、会計済ませてる。もしかして、勘付いたのかも。」
「当たりめーだろオメーが大きな声で悲鳴なんか上げるから!!」
「あっ!?行っちゃうよ!!」
「絶テーあいつ怪しいな、追うぞ!!」
「うん。」
「オイ!!待て!!」
「何ですか!?」
龍典は、スデにその男の襟元をつかんでいた。
「何ですかじゃねーよ!!テメーだろ犯人!!」
「えっ!?」
「テメーだろっつてんだよ犯人は!!」
「えっえっ!?何の事ですか?」
「しらばっくれるのもいい加減にしろよ!!愛美の事だよ!!」
「愛美・・・?」
「龍ちゃん源氏名ララちゃんだよ。」
「・・ラ・・ラちゃんの事だよ!!」
「えっ!?ララちゃん!?・・がどうしたんですか?」
「お前。まだしらばっくれるんか!!あ”--ん!!」
龍典の手は更に強く襟元を上にあげ男の服が裂けそうになった
「はっ!?何なんですか!?」
「紙に何か描いてあったろ見せろ。」
「えっ・・・」
「オイ!!早くしろ!!」
「はいコレですか?」
「オイ・・何だよコレ!!」
「・・えっ絵ですけど?」
「何でこんなモノ描いてる!?」
「えっ!?ダメなんですか?」
「はぁ~~?ダメなんですかじゃねーよ!!何の為にこんなモン描いてるか聞いてんだよ!!」
「えっ・・あっ・・あっ・・あの・・その・・」
「早く言えよ!!」
「えっえっ・・えーと趣味です!!」
「趣味でテメーあの女の絵描いてんのか!?」
「えっ・・えっ・・そうですよ・・」
「キモチ悪りーな。」
「何ですか!?僕の趣味に口出さないで下さい・・それより早く離してくださいよ!!」
「じゃあ、お前が犯人って事で決定だな、じゃあ警察行こうか。」
「何ですか!?ちょっと待って下さいよ!?何で警察行くんですか!?僕何も悪い事やってないじゃないですか!?ちょっと!!何ひっぱてるんですか!?離して下さいよ!!」
「オイ!!そろそろ口割らねーとただじゃおかねーぞ!!」
「だから、何の事です!?」
「だから、愛美の・・ララちゃんの事だよ!!お前愛美にストーカーしただろ!!」
「へっ?一体何を言ってるんですか?」
「オイ!!まだ、しらばっくれるのかよ!!遠くの方から愛美の絵こっそり描いてるって普通に考えたら異常だろ!!ホラ、速攻で警察行くぞ!!」
「だから!!ちょっと待って下さいって!!も~~う仕方ないな、じゃあ言いますよ!!」
「おお!!やっと認める気になったか。」
「これ!!これも!!これも!!」
男は吹っ切れた表情をして次々と画用紙をめくり始めた
「何だオメー愛美だけじゃなく他のヤツのストーカーもやってんのか!?」
「だから違いますって!!」
「だったら何でこんなたくさんのキャバ嬢の絵描いたヤツ出てくんだよ!?」
「仕方ないなー僕実は、マンガ家なんです、プロの!!」
「はぁ~!?」
「はいコレ!!」
そう言うと男は自分のカバンを雑に探って急いで一つの名刺を取り出し龍典に手渡した
「んっ文文庫社?」
「そうですよ!!私は、その出版社に原稿を描いて出してるんですよ!!」
「それで、何でキャバ嬢なんかの絵描いてるんだよ?」
「それは、今度お水の世界を舞台にしたマンガを描こうと思ってそれで、彼女たちをモデルにしようと思い参考に描いていたんです。」
「じゃあ、それなら、そうと何で言わなかったんだよ!?」
「それは・・・取材としてきたのではなく勝手に許可なくそのお店の女の子描いてたので、取材違反として、罰金とられるんじゃないかと思って黙ってたんですよ。それに僕売れてないんで、取材するの結構断られるんです。」
「何だよ!!それ!!」
「あなた、あのお店の方ですか?」
「・・いや。」
「そうですか、じゃあ、あのお店の人には黙ってて下さいね、私が勝手にお店の女の子描いてた所。」
「・・おお。」
「バレたらヤバいんで・・・じゃあ私は、行きますよ?」
「・・おお。」
「いいんですよね、行って?」
「・・おおっつてんだろ!!早く行けよ!!クソヤロー!!」
「龍ちゃん、あの人じゃない見たいだね。」
「・・・・・・。」