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我が家には、お金がない。
父さんと母さんが夜中に声を潜めて話しているのを、偶然、ホントに偶然、またまたトイレに行きたくなって起きたら話し声が聞こえてきたんだ。別に、父さんと母さんが不仲でついに今日、修羅場がみれるのか!とかそんなこと思って張ってた訳じゃないよ!!
そっかー、最近の母さんピリピリしてると思ったら、お金がなくて機嫌が悪かったのか。5歳児に感付かれるようじゃ、まだまだですね。
まあ、5歳児と言っても、前世の記憶持ちだから純粋な5歳児じゃないんだけど。
前世の自分のことは、よく分からない。でも、前の私もこんな性格だったな~。
それより、お金がないという死活問題をどうするかだよ!!今だって一日一食、スープに野菜がすこーし入ってる食生活なのに!!服だって二着しかないのに!!これ以上何を削るというのですか!?
「――やっぱり、あの子を」
「何を言っている。今まで育ててきただろう。あの子にはアイツの血が流れてる。あの子がもう少し大きくなれば、きっと…」
「でも、」
「大丈夫だ。」
やーだー!かなりシリアス!しかも、話の流れ的に私、あの人達の子どもじゃないの!?
父さん(仮)が話は終わりだというように席を立ったようなので、私は慌てて部屋に戻った。
部屋で木の板に厚手の布を敷いたようなベッドに潜り、自分の今後について考えた。
母さん(仮)の様子だと、生活が苦しいから子ども(私)を手放したいみたいだった。そして、父さん(仮)の様子だと、私はこの人達の子どもじゃない。正直、これらのことについては何とも思わない。強いて言えば、自分のこれからの生活が気になるところ。前世の記憶があると、今世が認められなくて困るわ~。育てて貰っていたけど、自分の親だと一度も思えなかった。こんな薄情な私を許して、パパン、ママン。
しかし、あの情報だけじゃ父さん(仮)と母さん(仮)が良い人か悪い人か判断できない。
これは今まで通り何も知らない5歳児の振りをしつつ、様子を見るしかないか。いざとなったら逃げればいいし。