兎と老人
深い深い森の中。
シンシンと雪が降っている。
老人はベッドに横たわり、窓の外を眺める。
「私はもうすぐ天に召されるだろう。夜明け
まではきっと保つまい。」
「思えば何もない人生だった。ただただ漠然と過ごす日々だった。」
老人は目蓋を閉じて己の死を待つことにした。
ふと浮かんだのは1羽の兎。
1ヶ月前、老人は狼に追われていた1羽の兎を助けていた。
「あの兎はどうしているだろうか・・・?」
助けたのはほんの気まぐれだったのだが、達者で暮らしてほしいと願う。
その時、パチンと音をたてて暖炉の薪が崩れた。
老人は目を開き暖炉の方を見て、ふと窓の外を見ると、
雪が止み、雲の切れ間から月の光がスポットライトの様に2羽の兎を照らしていた。
2羽の兎は老人の方をじっと見つめていた。
「お前はあの時の兎か?」
つがいなのだろう。2羽は寄り添い合って老人を見つめる。
「そうか。お前は幸せになったんだな・・・。」
老人は再び目を閉じると、2羽の兎に見守られながら息を引き取った。
その顔はとても穏やかだった。