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その勇者、虚ろにつき  作者: 上屋/パイルバンカー串山
第二話 殺人鬼《ぼく》と、ワルツを
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鉄閃

「ねぇ、そう思わない?」


 高揚を隠しきれない口調で、惨殺者が嗤う。無手の両腕を広げ、歓喜の声で勇者を迎える。


「ずっと、会ってみたかったんだ」


「あなたに質問があります」


 勇者は一歩距離を詰めた。


「君の殺し方には美学を感じるんだよ、いや、半ば哲学といってもいい……」


「あなたが僕の模倣犯ですか」


 闇の中、吊し切りケリーストレンジ・フルーツの顔がフードの隙間から見えた。純白の白塗り、弾痕のように開いた二つの穴が、眼窩として勇者を見据える。鼻を思わせる起伏は無く、のっぺりと印象の輪郭。歪な亀裂のようにも見える口。

 餓えた幽鬼を思わせる、作り物の顔面フェイク・フェイス


「なんといっても最初の事件、あの容赦なくまき散らされたはらわたがまるで真夏の夕焼けのように綺麗だったよ。転がる生首の表情なんて絶妙にセクシーで目のやり場に困ったものさ」


「あなたは、何の目的を持ってこの事件を起こしているのですか」


 噛み合わぬ会話。されど模倣犯の言葉は更に熱を帯びていく。


「だが君の評価が決定的になるのは次の事件だ。一見すると最初と大して変わらないように見えるけれど、僕は見抜いたね。前回が生の楽しみと解放をテーマとし、今回は自然の脅威とそれに付随する悲劇を人体を使って表現したことぐらい僕だって気づけるさ」


「あなたを操っている存在はどこにいるんですか」


 まるで美術館の絵画を語るように、殺害現場を評し賛美していく。惨劇の意図を勝手に汲み上げ、自らの好みに脚色する。最初からソウジの意図など確かめる気はさらさらない。ただじぶんの胸に覚えた身勝手な感動を叫べればそれでいい。


「……どうやら、僕もあなたに答えてもらえるように努力をしなければいけないようですね」


 長剣を引き抜く。前傾に構える。

 最初から逃す気は無い。ターゲットの商人を始末された以上、この惨殺者を捉えなんとしても情報を引き出す。

 引き絞られる脚力。いつでも飛び込める体勢。


「いつだって、君の作るモノは美しい。素晴らしく美しいんだ。だから、ついこんなことを考えてしまう、とてもいけないことなんだけれど」


「もう、喋らなくていいです」


 解き放たれる体、加速する勇者。弾丸のように一直線に前へ。

 しかし惨殺者の背後から現れる人影に気づく。同じ軍用のレインコート姿。新手の存在。

 同時に、ソウジの視界をきらめく何かが横切る。左手首に感じる僅かな重量。


――ッッ!


「いけないことなのに、考えてしまうんですよ」


 宙を舞い、鈍い音を立て床へ転がるソウジの左手。 


「あなたの血肉で描かれた惨劇は、どれほど美しいのかを」


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― 新着の感想 ―
[一言] 最近ソウジがあまりに弱すぎる。むしろ、弱体化してるのではないか?
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