三話 ハル
樹憶の目の前に背中を思いっきり斬られた男が倒れている。
それを冷たい目で見る樹憶。
樹憶の姿は人間のようではなかった。
左の眼は赤く、顔は血の気が全くない。
左腕は肉が無く、骨と皮だけのように細くなっていた。
樹憶は倒れている男に近づいた。
そして、左腕に持っていた大きな鎌を前に出し
「魂の呪文、魂吸収!!」
と唱えた。
すると、男の体から白い球体が飛び出し、樹憶の持っている鎌に吸い込まれていった。
続いて樹憶は男が刺し殺した人の方に向かい、また同じ呪文を唱えた。
(・・・・うん・・・?あれ死んだんじゃなかったっけ・・・・?)
「!?」
いきなり辺りを見回す樹憶。
「えっ・・・死んでる・・・うわぁ!!」
樹憶は自分の手に握られていた鎌を地面に落した。
「な、なんでこんなもん持ってるんだよ!?」
(ちっ!!生きてやがったのか!!)
突然、樹憶の耳に謎の女性の声が聞こえてきた。
「えっ!?誰!?」
(あっ?知りたかったら心の扉を開けて入ればいい)
「えっ?心の扉?どこにそんなものが・・・」
(ちっ!!仕方ない、開けてやるよ)
「うん?ここは?」
突然、樹憶は違う世界に来ていた。
真っ白な空間、そして真ん中には黒いテーブルとイス、そして何者かが座っている。
「早く来い!!こっちだ!!」
イスに座っている者が声を出した。
どうやら、先ほどから聞こえる声の主はこの者らしい。
テーブルの近くに恐る恐る近づくと樹憶はハッとした。
「あなたはこの前の夢の・・・」
見るとこの前夢で出てきた女性であった。
「夢?馬鹿言うんじゃない。あれは現実の話さ。」
女性は笑いながら言った。
「えっ?夢じゃない・・・じゃあなんで?えっ・・?あの時キスして真っ暗になって起きたら部屋で・・」
「てめぇが声あげてるから他の部屋の奴が出てきたんだよ!!それを私は最後の力でおまえを部屋に移動させておまえに入ったんだよ!!」
「!?入った?えっ?」
「そうだよ、契約したじゃないか。だからおまえに乗り移ったのさ」
「そんな・・・どうやって?だいたい君は誰なんだ!?」
「私?私はハル、死神よ。」
「えっ・・・死神?」
「そう、そしてあなたの乗り移ったのはこの死神の力。魂の呪文!!」
樹憶は唖然とした。
沈黙が10秒ほど続き、樹憶はハルに尋ねた。
「こ、ここはどこなの・・・?」
「ここはおまえの心の中、心の部屋かな」
唖然としたまま樹憶はその場に座り込んだ。
「ますます意味がわからない・・・どうなってるんだ・・・」
ハルは笑いながら
「何、簡単なことさ。死にかけてた私をおまえが起こした。そして契約をした。そしてさっきおまえは死にかけた。そこでやっと私が出てこれたってわけさ」
「あのキスが契約・・・ますますわからない」
「おまえ、なかなか死にかけないから焦ったぜ。まったく」
「死にかけるって・・・じゃああの通り魔は君が僕をとおして殺したんだね!?」
「まぁな、おかげで魂吸収できたし。ラッキーだったな」
「人を殺したんだ・・・僕は・・・」
「正当防衛だと考えろ。それよりこんなとこで突っ立ってるより一度家に引き返せ。厄介事になったら困るからな」
ハルは笑いながらそう言った。
そして、心の部屋から現実世界に戻った。
まだ人は来てなかった。
(おまえは私のおかげで空が飛べるようになった。翼 と念じてみろ。)
「翼・・・・」
樹憶は念じた。
「!?あっ・・ああああああああ!!!」
激痛と共に樹憶の背中から翼が生えてきた。
(飛べ と念じろ)
「はぁはぁ・・・飛べ・・・」
樹憶は勢いよく空に向かって飛んだ。