一話 契約
20XX年 12月24日
世間はクリスマスである。
主人公 林道樹憶はバイト先であるケーキ屋のクリスマスケーキ路上販売をしていた。
「いらっしゃいませーいらっしゃいませー」
他の店の路上販売には樹憶と同じ大学生くらいの女子たちがミニスカサンタのコスプレをして客を呼んでいる。
一方の樹憶の店はというと店長と樹憶だけ。
どこか男くさい感じがあり、客はあまり来ていなかった。
「林道君頼むよ~ もっと声はってさぁ・・・」
「いやぁ・・頑張ってるんですけどね・・・さすがにミニスカサンタじゃ勝てませんよ」
「なんでこういう時に限って、女性スタッフは休むかねぇ・・・まったく・・・」
明らかにテンションが沈んでいる店長。それを冷ややかな目で見る樹憶。
樹憶も男である。こんな店長と聖夜を過ごしたくはない。
「いらっしゃいませー」
樹憶の声はクリスマスのBGMによってあまり聞こえなかった
結局、ケーキは他の店からケーキが無くなり、仕方なく買っていく客によって買われていった。
「お疲れ様~いや~何とか売り切ったね・・・・」
店長の嬉しそうじゃない声の理由は樹憶にはすぐわかった。
時間は深夜の1時・・・
外はかなり冷え込んでいた。
樹憶はケーキ屋のワゴン車に乗せてもらった。
下宿先のアパートについたのは深夜2時をまわっていた。
「じゃ、林道君は今年はこれでおしまいね。来年もよろしくね」
「あ、はい。じゃおやすみなさい・・・」
簡単なあいさつをし、店長は去って行った。
樹憶はアパートの階段を上った。早く、シャワーを浴びて寝てしまいたい。彼の足は立ちっぱなしでかなり硬くなっていた。
一段一段上るのに足が重く感じる。
階段を上った樹憶は廊下に何かがあるのに気がついた。
(ん!?何だ!?人・・・女の人だ!!)
女性は倒れたまま動かないが、呼吸はしている。
(きっと上の階の女子生徒だろう・・・)
樹憶はそう推測した。
上の階には女子の階だが入るには鍵がいるのであった。女子専用の階段もあり、男子は立ち入り禁止となかなか厳しい。
樹憶自身あまり女子とは仲良くないためよく上の人間は知らなかった。
上の階には行けないため、管理人室まで運ぶことにした。
「あの・・・大丈夫ですか・・・起きれますか?」
「うっ・・・」
女性は苦しそうな表情を浮かべている。
(合コンか何かで飲みすぎたんだろう・・・・とりあえず起きれないなら管理人呼ぶか・・)
「あの・・・け・・・契約してください・・・」
突然女性が声を出した。しかもわけもわからないことを言っている。
「契約?何ですかそれ?」
「と、とにかく契約してください・・・そしたら私・・何でもします!!」
唖然とする樹憶。
(だ、大丈夫か?この娘?でもここで適当なこと言ってればもしかすると・・・)
樹憶の頭の中には卑猥なことばかりが浮かんでいた。
「ホントに何でもしてくれるんですか!?」
「ええ!!はい、なんでも!!」
(こんなうまい話が・・・まぁ部屋にでも入れてあげるか・・・)
「じゃあ、契約しますので一度僕の部屋に入って下さい・・・」
「いや・・・あの契約に必要なことを今・・・」
「えっ?何ですか?まさかサインとか?」
すると女性はさっきまでのおどおどした可愛らしい顔から、いきなりニヤリと悪魔のように笑うと
「キス・・・」
と言って、樹憶の唇にキスをした。