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ママのところへ

作者: notomo

一度は、自らの意思で天国へ来てしまった少年。次に、神様が定められた少年の運命はー

「ママのところへ」

 ここは、天国の中でも、一番高い場所。ここで、赤ちゃんの卵たちが、ママを選んで、人間界におりるのです。

 「ぼく、前は猫だったんだ。すごく、かわいがってもらってたんだから。ぼくがこっちに来たとき、みんな、すごく泣いて。だから、ぼく、今度は人間に生まれて、ママをいっぱい喜ばせてあげるんだ」

 希望いっぱいの男の子。さっそく、すてきなママを見つけたらしく、天界からピューッと降りていきました。

 ここには、いろんな子がいます。みんな、自分が生きていたときの記憶をしっかり持っていて、それをたよりにママを選びます。

 さっきの子のように、すぐにママを選べる子ばかりではありません。

 「あたし、ママに知らない男の人に売られて、病気になってここに来たわ。人間は絶対に嫌よ。平和な国の、動物にうまれたい」

 辛い過去を持って、ママを選ぶのに時間がかかる子だってたくさんいるんです。

 もう、一年以上迷っている、男の子がいます。神様は、

「ゆっくり決めなさい」

 と、その子に優しく話しかけます。でも、その子は、ここに来ても、男らしくなれず、ぐずぐずしている自分が嫌でなりません。

 この子は、ここに来る前、人間の男の子でした。ただし、心は女の子。両親は、その子の性格を嘆き、特に厳格な父親に、柔道、剣道としごかれ、学校で深刻ないじめにあった末、自らこちらに来たのでした。

 願いはただ一つ、女の子に生まれたい。世界のどこだって、ううん、動物だってかまわない。

 なんという運命のいたずらでしょう。その子は、またも神様から「男」という性を授けられてしまったのでした。

 神様だって、でたらめに決めている訳ではありません。その子の前世で果たせなかった幸せ、目的を果たせるように、性別を振り分けます。

 もちろん、その子は神様を恨みました。でも、もうどうにもなりません。早くママのところへ行かないと、行きたくてたまらない子が、ずっと待っているんです。

 「動物のところへ行こうか。言葉がなければ、洋服がなければ、いじめられない。そして、次にこっちに来たときこそ、神様に、女性を授けてもらおう」

 そう決め、小さな家庭犬のところに飛ぼうとしたとき、神様の杖につまずいてしまったのです。

 グラリとバランスを崩して、犬のところでなく、その家庭の人間の母親のお腹にすぽんと入ってしまいました。もう、嘆いても始まりません。一度お腹に入ってしまうと、赤ちゃんの卵は、前世を忘れて、深い眠りに入ってしまいます。

 重い足取りで、病院へと向かう、少し疲れたような女性がいます。そう、この人こそ、あの男の子のママ。ずっと赤ちゃんが欲しくてたまらず、今回は、最後の望みを託した治療の結果を聞きにきたのです。あらゆる治療に失敗した彼女は、疲れきっていました。女性の旦那様、男の子のパパはママをとても愛していたので、

 「これ以上は、君に負担がかかりすぎるよ。愛する君がいてくれるだけで、僕は十分に幸せだよ。だから、これで最後にしよう」

 と、昨晩、ママに告げました。

 ママも、もちろんパパを愛しています。だからこそ、彼が子供を大好きなのも知っていて、彼を喜ばせてあげたいのです。でも、これ以上は・・・

 病院について聞いた知らせは、ママが覚悟していたものとは正反対。なんと、元気な赤ちゃんがお腹にいると言うではありませんか

 「神様、感謝致します」

 ママは、大粒の涙をぽろぽろこぼし、すぐにパパに電話で知らせました。

 その夜は、二人でお祝いです。ママも、パパも、幸せいっぱいでした。

 「この子、わたしを選んでくれたのかしら」

 「もちろんさ。君は優しくて、深い教養があって、なんと言っても、このぼくの最愛の人なんだから」

 「あなた・・・」

 二人は、温かい気持ちで、抱き合いました。パパは、ママのお腹を優しくなでながら、

 「おーい、聞こえるかい。パパだよ。ぼくたちは、君を大歓迎するよ。来てくれて、本当にありがとう。」

 ママも、

 「赤ちゃん、もうあなたはママの声が聞こえるかしら。あなたは何も心配いらないのよ。ママもパパも、どんなことがあっても、あなたのことを愛し抜くわ」

 赤ちゃんは深く眠っていたので、何も聞こえませんでしたが、ただ、あたたかな安らぎだけは感じ取っていました。

 ママは、しっかりご飯を食べて、病院にもきちんと通います。

 「もう、赤ちゃんのせいべつがわかりますよ」

 と、お医者さんにいわれたときも、

「どんな子でも、愛おしくてたまらないので、教えてくれなくていいです」

 と、言いました。もちろん、パパも同じ意見でした。

 ママのお腹は、どんどん大きくなって、もういつ生まれてもおかしくありません。毎日、夫婦でそわそわしています。

 ある穏やかな日曜日、とうとう、待ち望んだ赤ちゃんが生まれました。日曜日だったので、ママとパパ二人とも、赤ちゃんの産声を聞くことができました。

 赤ちゃんは、愛情いっぱいに育てられました。名前は、二人にとっての希望の光からとって、「ひかる」と決まりました。

 ひかるも、二歳になりました。ママもパパも、ただひかるの面倒を見るだけではなく、大切なことを少しずつ教えていきました。

「みんなに優しくすると、自分も、幸せになれるよ」

「ひかる、あなたはママとパパの宝物。このことを、忘れないで。」

 二人は、もう一つ大切にしていることがありました。それは、ひかるの意見を聞く、ということでした。お散歩のときも、どこにいきたい?と、必ず聞きましたし、お洋服も、ひかるが全部自分で選んでいました。赤やピンク、レースが大好きなひかるに、ママもパパも少し驚きましたが、ひかるがすきなら、と否定をすることは決してありませんでした。

 ひかるは、みんなに優しい、礼儀正しいかわいい子に育っていきました。そして、いよいよ幼稚園に入ることになりました。

 「ママ、ひかるとはなれるの寂しいけど、幼稚園で、いろんなお友達に出会ってほしいわ。優しさを忘れないでね」

「ひかるだったら、すごくたくさんの友達ができるよ。いろんなことお遊び。幼稚園の話、楽しみにしてるよ」

 ひかるも、

 「うん、ひかるも、早く幼稚園行きたい。明日が待てないくらい。明日は、これを着ていく。」

 真っ白のワンピース。ひかるは、それを自分の胸に当てて鏡の前でくるくる回っています。

 ママも、パパもそんなひかるを、暖かく見つめていました。しかし、ある覚悟も決めていたのです。

 昨晩、ママとパパは、ひかるが寝た後、長い長い話し合いをしました。

 「ひかる、幼稚園でからかわれるんじゃないかと、心配なの。きっと、性同一性しょうがいだわ。大丈夫かしら。」

 パパは、優しくママを抱きしめました。

 「しょうがいか・・・でも、それは、僕らのひかるへの愛も、ひかるの個性も、奪ってしまうものなのか?そんなことはないさ。僕らの愛は変わらないし、ひかるはひかるさ。大事なことは、あの子の心にきちんと育っているよ。だから、ぼくは心配しないのさ」

 ママも、パパの言葉に支えられて、ひかるへの愛を再認識しましたそして、ひかるの「個性」も。

 幼稚園一日目。ひかるは、早速、男の子に、ご自慢のワンピースをからかわれました。

 「なんだよ、その服ー。」

 「お前、男のくせに、変だぞ!」

 ママは、教室で先生のお話を聞きながら、園庭を見ていると、ひかるが男の子たちに囲まれているのを見かけました。

 「へんって何?みんなと違うこと?いろんな人がいるってパパもママも言ってたよ。ひかるは、君たちみたいな色より、こっちが好きなだけ。でも、君たちの服も、似合ってるね。君たちの好きなことが知りたい。お友達になろうよ」

 男の子たちは、あっけにとられてしまいましたが、

「ひかる、おもしろいな。そうだな、何にも悪いことなんてないよな」

「どんな遊びが好き?」

 男の子も、女の子も、ひかるの周りによってきました。そして、ごく自然に、ひかるはみんなになじんでしまったのです。

 お家に帰ってからひかるは、ママとパパに、今日のお話をしました。最初に言われたこと、でも、自分が心の通り話したら、みんなとお友達になれたこと。ママもパパも、さらにひかるが愛おしくてたまらなくなりました。

 これから、ひかるには、いろんな試練が降り掛かるかもしれません。でも、この家族にとって、それは、いろんなことを知るチャンスなのです。険しい道も、笑顔で上っていくでしょう。

 天国で、神様が、ひかるを見ていました。あのとき、あそこに杖を転がしたのは、実は神様だったのです。みんながそのまんまで、幸せになれる社会を作る強さが、あの家族のもとにあの子が行くことで、生まれると信じておられたのです。一人の幸せが、みんなの幸せになることこそ、神様の願いだったのです。


私は、ASです。ずっと、普通になりたくて、なりたくて・・・ 

 自信のなかった私に、私の個性が好きだと言ってくれた主人。色々な経験をしているから、お話が書けるよとも言ってくれました。

 私も、それを伝えたくて、このお話を書きました。皆様の心に届きますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんわかと。こころが 暖かくなりました。 素敵な 読み物 でした(^-^)
[一言]  初めまして。読専の陸水六花と申します。  読み終えて、涙が浮かびました。  童話というジャンルならではの端正な優しさと、その枠にとらわれきらない強いメッセージ性。とても素敵なお話です。…
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