27.おっそろしい女やで
「言葉は必要ない。私の質問に答えろ」
「……」
ロクサーナが無言でうなずく。理解が早い女で助かるよ、とデシーカは思った。
「アヴァロン警察は押収品を組織的に闇市場に横流ししているだろう」
うなずく。
「お前が白無垢鉄火を流したのか?」
首を振る。
「なら、お前以外の誰かか?」
反応なし。
デシーカは引き金をわずかに絞った。
さすがの人狼も口のなかに弾丸をぶち込まれてはただではすまない。
「まへまへ! ひゃべらせえ!」
両手を挙げて降参のポーズをする。
頭の獣耳は倒れており、彼女が逆らう意志がないことがよくわかった。
デシーカはゆっくりと口に突っ込んでいた自動拳銃を抜いてやった。
「おっそろしい女やで、くそ。顎外れるわ」
切れた唇から流れる血を舐め取って、ロクサーナはその場に座り込んだ。
「で?」
「ホンマに知らんのや。確かにアヴァロン警察は押収品を闇市場に流して裏金をつくっとるけどな、魔術刀なんぞほいほい出してみい。目玉商品で大騒ぎや」
「だが、実際に警察から流れている」
「はっ、考えられることは二つや」
ロクサーナは話すたびに肋骨が痛むのか、顔をしかめて脂汗を拭った。
「ひとつ。価値もわからんボンクラ警官が二束三文でどこぞの故買屋に流した。ふたつ。特定の客に渡すために、故買屋を指定して流した。前者はただのアホやが、後者なら厄介やぞ」
後者ならアヴァロン島に呼び寄せた撃剣魔術士に魔術刀を与えるために、誰かが警官を買収して段取りをつけたということだ。そして、その可能性のほうが高いことは明白だった。
「どこの誰かは知らんけど、面倒なことしてくれたで。せっかく警察が仲介して二大組織の抗争を終わりにしたっちゅうのに。このごたごたで面子丸潰れや」
「お前からしたらそうかもな」
デシーカは自動拳銃をベルトに捩じ込むと、ロクサーナと目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。煙草を取り出し、抵抗する意志はないロクサーナに咥えさせてやる。
自分も咥えてから、順番に火を点けた。
お互いに紫煙を吐き出して一拍置く。
「それでも警察の線が消えたわけじゃない。〈ティティス・レコード〉とつるんでいた連中は、〈ティンパ商会〉がごたごたするほうが好都合だろう」
「ああ、そのとおりや。警察、エルフの跳ねっ返りども、あるいは〈ティンパ商会〉の内ゲバ、どれもあり得る」
「奇遇だな。私も同じ意見だ」
「なにが奇遇や。はなからそこを擦り合わせるつもりやったんやろ」
「それもあるし、お前が魔術刀を横流ししたやつを知っていれば話は早いと思っていた」
デシーカはジャケットの内ポケットから茶封筒を取り出した。
「百万ロンガンある。約束の五七に残りは痛めつけた慰謝料とでも思っておけ」
「おいおい、そんな都合のええ話あるかいな」
「あるんだよ」
冷え冷えとした、有無を言わさない声。
「誰が殺し屋を呼び寄せたにせよ、魔術刀の横流しから当たるのが上策だ。依頼はふたつ」
デシーカは煙草をアスファルトに擦りつけ、火を消した。
「押収品を横流しする故買屋のリストのコピーを渡せ。しらみ潰しにする」
「もうひとつは?」
「魔術刀を横流しした警官をつきとめろ」
「……わかったわかった」
ロクサーナは観念したようにして、改めて両手を挙げた。
「保管庫にあった白無垢鉄火が流れとんのなら、それは間違いなく警官の仕業や。うちとしてもな、こんな面倒ごとを起こしてくれたやつは何回でも殺したりたいわ」
茶封筒を受け取って、ロクサーナはぎこちない動きで立ちあがった。
「安心せえ。うちは金に正直な女や。受け取ったからには仕事はする」
「ああ、その点は心配していない。私が一番金を払っている限りはな」
デシーカも立ちあがると、念を押すように獣耳に囁いてやる。
「必要なら追加で払ってやるさ。だが、忘れるなよ。私はお前を痛めつけて言うことを聞かせることだってできる」
「……アホ言え。あんな手品が次も通用すると思うなや」
ロクサーナは獣耳をピンと立てた。
「まあええやろ。うちとあんたの仲や。友情は大事にせなな」
「友情?」
そんな感情がこの不良警官にあるとは思えなかった。あるとすれば、お互いが新米警官と駆け出しの殺し屋だったころからの腐れ縁というものだ。
「くっくっ……冗談や」
ロクサーナは煙草を足元に投げ捨てると、茶封筒を懐にしまった。
「もっとええ煙草吸えよ。くそまずい」
誰かが通報したのだろう。
パトカーのサイレンの音が遠くから聞こえてきていた。
「もういけ。リストのコピーは明日には渡す」
「ずいぶんと仕事熱心だな」
「押収品を横流ししとるグループはよく知っとるからな」
デシーカは彼女が警官の不正や隠蔽された不祥事の情報を集めていることを思い出した。正義感からではなく、自身の立場が警察内で危うくなった際に脅迫して交渉するための材料だ。
「アヴァロン中央駅のコインロッカー。番号は1111や。鍵は落とし物窓口で受け取れ」
「わかった」
「ここの後始末は特別サービスにしといたるよ」
ロクサーナはうんざりしたように嘆息すると、警察手帳を取り出してこちらに向かってくるパトカーにかざした。
その後ろ姿を一瞥し、デシーカは乗り捨てられた車の運転席に乗り込んだ。なにごともなかったかのように車をゆっくりと発進させる。法定速度を守る安全運転だった。




