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24.人生はままならないものなんだ

 アヴァロン島で暮らす人々は早起き文化で、街はすっかり活気に満ちていた。


 街角にある茶餐廳(チャーチャンテン)は朝の五時から営業していて勤め人や学生で満席だったし、合法だか違法だかわからない屋台からはガウロン語でまくしたてる客引きの声が響いていた。


 バターを挟んだ熱々のパイナップルパン、卵と牛乳をたっぷりと染み込ませてフライパンでこんがりと焼いたトースト、アレンジされた即席麺にさまざまな種類のお粥。


 空腹なはずなのに、どれも食べる気にはならない。


 濃い紅茶にエバミルクを加えたアヴァロン式ミルクティーだけを屋台で買い、安っぽい紙コップに注がれた甘い紅茶を空っぽの胃に流し込む。


 デシーカは人々をかき分けて進み、交差点にある公衆電話のもとで足をとめた。


 紙コップを握り潰して投げ捨てると、紅茶を買ったお釣りの硬貨を電話機の前に並べ、内ポケットの茶封筒からメモを取り出した。


 公衆電話の受話器を取りあげて、硬貨を投入してメモの番号に架電する。


 何度目かのコールで相手が出た。


『はいはい、どちらさん?』

「デシーカだ」


 名乗った瞬間、受話器の向こうで笑い声がもれた。


『ホンマに電話してくるとは思わんかったわ。くっくっ……』

「ロクサーナ、お前に聞きたいことがある」

『なんや物騒な声やな、耳長』


 電話の相手――アヴァロン警察のロクサーナ・セクリスタは、こちらの様子が以前とは違うことを察して声を低くした。


「ああ、仕事を探しているわけじゃないからな」

『おいおい。うちは忠告したやろ、ボケ』

「人生なんてものは、ままならないものだ。聞きたいのは賞金首の件だ。いまから会えるか?」

『うちはアヴァロン警察の警視様やぞ。気軽に呼び出すなや』

「いやなら警察本部を訪ねてもいいんだぞ? 受付で名乗ってお前をまつさ」

『わかったわかった。無駄な騒ぎを起こすな。金は?』

「五〇万ロンガン」

『あかんあかん。七〇』

「五五。ロレッタと直接話した。その情報を教えてやる」

『ほー、そら重畳やな。迷宮アパートに逃げ込んだせいでこっちは見つけられん。六〇』

「五七」

『……よし、五七で決まりや。公衆電話からやな? 管理番号を言え』


 硬貨を追加しながら、デシーカは電話機にある行政の管理番号を告げた。


 受話器を乱雑に電話機へ戻すと、デシーカは目に入ったコンビニで煙草を買った。


 公衆電話にもたれかかり、ロクサーナをまつ。足元に投げ捨てた煙草の吸い殻が五本目になったとき、近くに停車した高級車からクラクションが鳴った。


 運転席から顔を出した人狼が、サングラスをずらしてにやにや笑う。


「妹ちゃんと約束したご立派な禁煙はどうしたんや、耳長」

「言っただろう、人生はままならないものなんだ」


 ロクサーナが目線で助手席に乗るように促してくる。


 それに従い、デシーカは信じられないほど座り心地のいいシートに腰を沈めた。


 一睡もしていないこちらの顔を見て、ロクサーナが低く笑う。


「ひどい顔やな。美人が大なしやで」

「もともと大した顔じゃない」

「さよか」


 車はゆっくりと発進し、やがてアヴァロン島を一周する四車線の環状高速に入った。

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