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19.わたしはついている

「オードリー、煙草を買ってきてくれる?」


 二人にしてくれという意味が込められたロレッタの言葉に、オードリーは素直に従った。


「……デシーカさん、出過ぎたことを言いました。忘れてください」


 乱れた服を直すと、オードリーは頭をさげて部屋を出ていく。残されたデシーカは所在なさげにしていたが、ロレッタが「座って」と言うのでパイプ椅子に腰を落とした。


「オードリーが連絡したのね。まったく、もう」

「気にするな。友人が闇医者に運び込まれたのなら見舞いにもくるさ。それにしたって、こんな有様。お前らしくもないな、ロレッタ。ひどいのか?」

「大丈夫よ。八卦功夫で練りあげる魔氣の出力調整を無視したせいで、わたし自身の魔氣で内臓をやられているのよ。しばらくはシー女士(ヌイシー)の不味いお粥しか食べられそうにないわ」

「それはダイエットによさそうだな」

「あいにく、わたしは体重で悩んだことはないの」


 ロレッタがわざとらしく澄ました顔で言ってくる。すらりとした小柄な体型は子どものときからで、それもあって少し幼く見えるのが彼女の昔からの悩みだった。


「そうだったな。結局、背もあまり伸びなかったし」

「ちょっと!」

「胸も――」

「それは言わないでくれる?」

「牛乳を飲まないから」

「飲んでいたし! 小魚も食べてた!」

「身長も胸も育たずに骨が丈夫になったものな」

「……ぶっ飛ばすわよ?」


 二人は顔を見合わせ、どちらともなく吹き出した。


「まったく。わたしをそんなことでからかってくるのは、あなたくらいのものだわ」

「それは本当にぶっ飛ばされるからな」

「暴力女みたいに言わないでくれる? こう見えても優しいロレッタお姉ちゃんとして子どもにだって人気なのよ?」

「ああ、知ってるさ」


 ロレッタは下町の連中に慕われている。愛想もいいし、面倒見もいい。デシーカは彼女みたいにはなれなかったし、結局のところ自分にはないロレッタのそういうところが好きだった。


 だから、彼女がこんな有様になっていることに心がざわつくのは確かだった。


「ロレッタ、お前がサシで勝てないようなやつがそういるとは思えないが」

「はっ……初見の相手ということもあるけれどね」


 ロレッタからは先ほどまでの笑顔はきれいさっぱり消えていた。


「それを差し引いても、かなりの使い手だったわ。ましてや、撃剣魔術士だった」

「撃剣魔術士か。そんなやつがアヴァロンにいたなら、とっくの昔に有名人だ」

「あなたみたいにね、デシーカ」


 魔術刀はエルフ人のマグ・メル王国が伝承してきた製造方法が失われてしまったこともあり、その希少性は大変なものだった。現存しているものの大半は神聖帝国が厳重に管理しており、デシーカのように実戦に使っている者など皆無に等しい。


 つまるところ魔術刀を使うエルフ人――撃剣魔術士は、絶命危惧種のようなものだった。


「フリーの殺し屋の撃剣魔術士なんてやつがいれば、噂くらいは流れてきそうだが。ロレッタ、賞金首を諦める気はないのか」

「ええ、ないわ」


 静かだが、強い意志が込められた声。


「言ったでしょう。この機会を逃せば〈ラウ書店〉は閉店することになる。わたしには、それは耐えられないことなのよ。あそこはわたしの、唯一の帰るべき場所だから。あなたにとっての、イオちゃんのようにね」


 そう言われてしまっては、デシーカはなにも返せなかった。


「だから、戻ってきてとはもう言わない。イオちゃんがいるのに、あんな話をしてしまったことは本当にごめんなさい」

「気にするな。イオだって、お前のことはきらいになんてならないさ。長いつき合いだ」


 ロレッタがデシーカに黒社会への復帰を求めないように、デシーカがロレッタに賞金首を狩ることをやめさせることもできない。二人の居場所は違うが、自身にとって大切なもののために立っている。


「それにね、デシーカ。こんな有様になってしまったけれど、わたしはついている」


 ロレッタを見ると、彼女は身体の調子を確かめるように右手を何度か握っては開いた。


「賞金首は明確にわたしを殺しにきていた。わたしが標的になっているのなら、勝手に向こうからやってきてくれるわ」

「……どうしてロレッタが標的になる必要がある?」


 いままで殺されたのは〈ティンパ商会〉の直系か系列組織の幹部ばかり。ルールーから閉店を迫られている〈ラウ書店〉の副店長をわざわざ殺す意味がない。


「さあ、わたしにもわからないけれど。わたしがキルシェトルテに会うのがいやだったのか。わたしのような戦争屋に嗅ぎ回られるのがいやだったのか。なんにせよ――いままでの殺しに魔術刀は使わなかった。これで腕に覚えのないやつは退くでしょう。かえって好都合だわ」


 ロレッタは右拳をきつく握り、左手を添えて右袖をめくった。


「それに、あなたには言っておかなければいけないことがある」

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