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16.あなたらしくもない

「あなたは、一体、何者なの……」


 どうにか八卦功夫の呼吸を維持して、ロレッタはうめいた。


 これ以上呼吸が乱れれば、自分の四肢は一瞬で焼け焦げて炭になってしまう。


 いや、どの道、あの灼熱の魔術刀に斬られる運命だ。


 お面野郎が白無垢鉄火の柄に左手を添え、上段に構えた。


 あれを振りおろされれば、わたしは死ぬ。


 ロレッタは目を閉じなかった。


 灼熱の刃が、空気を焦がして疾駆する。


「……イェン小姐(シャオジェ)!」


 不意に、そう叫んだオードリーが飛び込んできた。


 お面野郎に体当たりする。


 振りおろされた灼熱の刃は、ロレッタを掠めるようにして空振りした。


「オードリー! 手を出さないで! 死ぬぞ!」


 お面野郎に強烈な膝蹴りを喰らって、オードリーが膝から崩れ落ちた。


 白無垢鉄火が振りあげられる。


 その様子はまるで、オードリーが介錯されるかのようだった。


「オードリー!」


 ロレッタは渾身の力を込めて暴れたが、彼女を縛る鎖はどうにもならなかった。


 灼熱の刃に気づいたオードリーが、身を投げ出すようにしてそれをかわす。


 だが、間に合わなかった。


 オードリーの左腕が落ちた。


 ロレッタの目には、それが映画かなにかを見ているかのように思えた。


 それくらい現実感がなかった。


 血飛沫はあがらず、斬られた傷は瞬く間に炭化した。


「――――――っっっっっっっっっっ!」


 オードリーが声にならない悲鳴をあげてのちうち回る。


 それでも掠れた声で、オードリーは言った。


「……イェン小姐(シャオジェ)、あなたらしくもない」


 とどめをさすために近づくお面野郎を無視して、彼女は続けた。


「……デシーカさんが、戻らないからといって、そんな弱気な態度は」


 ロレッタは性根を看破された気がして、ハンマーで殴られたような気分になった。口では耳障りのいいことを言いながら、どこかで無理かもしれないと諦めてしまっていたのだろうか。どこかで楽になりたいと思っていたのだろうか。


「……ロレッタ・イェンは、もっと執念深い女ですよ。やると言ったら、やる女でしょう」


 オードリーは死が間近に迫っても笑っていた。誰も彼もが死んでたった一人だけ残された部下の忠誠心は、自分にはもったいないくらいだった。そんな彼女を死なせるわけにはいかなかったし、オードリーが死ねばロレッタは独りになってしまう。


 たとえ〈ラウ書店〉を守ったところで、誰もいなくなってしまう。


「こんのおっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ロレッタは力の限り叫んだ。喉が潰れて血の味がした。


 彼女の全身から、いままでよりも遥かに強烈な紫電が迸る。


 それは空気を焦がすだけではなく、そこらで無数の爆発が起こった。


「こんなところで! くたばってられるかっ!」


 ロレッタは自身がうまく制御できないほどの威力で魔氣を練りあげた。


 紫電は彼女の身体も焦がし、右腕の竜鱗は焦げて一枚一枚が逆立っていた。


 自分の内臓が焼かれる痛みを無視して、ロレッタは息を吐いた。


 強烈な紫電は四肢を縛る灼熱の鎖にも伝播して、ぎしぎしという耳障りな音を立てた。


 灼熱の鎖のどこと言わずひびが入り、弾け飛び、ロレッタは力任せに引き千切った。


 解放されるなり、彼女は全身の筋肉を爆発させるかのように跳躍した。


 眼下にお面野郎を捉える。


 ロレッタは空中で大きく右足を振りあげた。


「〈導雷――」


 落下の勢いに合わせて振りおろした右足で、アスファルトを踏み砕く。


「――針脚〉!」


 落雷のような爆発。


 着地したロレッタを中心にアスファルトが大きく陥没し、放射状に大小のひびが走った。


 全方位から紫電がバシバシと音を立て、続けざまに無数の爆発が起きる。


 数秒の間があって――底が抜けるようにして橋が崩落した。


 アスファルトとコンクリートの大小の破片が次々と海に落下して、水飛沫があがる。


 ロレッタは崩落に巻き込まれながらも、空中でオードリーを抱き締めた。


 お面野郎は橋に残されたのか、一緒に落ちたのかわからなかった。


 海面まではほんの一瞬で、二人は夜の海に着水した。


 アヴァロン島はいつも蒸し暑いというのに、水は思ったよりも冷たかった。


「言ったでしょう、代わりに死んだりなんてやめてよね」

「……もったいないお言葉ですよ、イェン小姐(シャオジェ)


 海の底に沈みながら、ロレッタはそんな言葉を交わした気がした。

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