12.親切な警察官みたいなことを言うじゃないか
ロクサーナは箸を放り投げると、少しだけ声のトーンを落とした。
それは普段の下卑たものとは別の、底冷えするような彼女の本質を秘めた声だった。
「忠告だと?」
「あんた、ロレッタ・イェンと会うたやろ。〈ティンパ商会〉の賞金首の件か?」
「ああ」
隠しても意味がないので、デシーカは正直に言った。
「ロレッタに復帰を頼まれたんやろうけど、戻るなんて考えんこっちゃ。あんたが〈ラウ書店〉に戻ったら、色々と面倒や。ルチアーノを殺ったあんたは、〈ティティス・レコード〉の跳ねっ返りどもからしたら是が非でも殺したい標的やぞ」
「私を復帰させて報復するために、エルフどもがやっていると言いたいのか?」
「さあな。けど現に、あんたは早く出てきたしな。刑務所にいる分には手出しできんし、ある意味で安心安全や」
「協定があるし、全面降伏した〈ティティス・レコード〉を仕切っているのは、共存共栄路線の穏健派だろう。お前たち警察の息もかかっている」
「そらそうよ。けどな、そんな腰抜けどもに跳ねっ返りが抑えられるかいな。〈シターン・レーベル〉を知っとるやろ?」
〈ティティス・レコード〉直系の武闘派組織だ。エルフ人の戦争屋。殺し屋部隊。言ってみれば〈ラウ書店〉と同じような立場の連中だった。
「この前の戦争で連中も大半が死んだけどな。生き残った連中がおるんよ。表向きは大人しくしとるけど、腹のなかはわからんわ」
ロクサーナはアルミの灰皿を引き寄せると、煙草を咥えて火を点けた。
「あんたも吸うか?」
「いや。イオと約束して、禁煙しているんだ」
「そらご立派」
ロクサーナはことさら美味そうな顔をして煙草を短くした。
なんていやなやつだ、とデシーカは思った。
「ここだけの話やが――〈ティンパ商会〉の一連の殺し、犯人はエルフやっちゅう噂もある」
紫煙と一緒に言葉を吐くと、ロクサーナは灰皿に煙草を押しつけた。
「それは確かな情報なのか?」
「噂や噂。うちにもわからんよ」
「どうにも気に食わない。〈シターン・レーベル〉の連中は確かに凄腕だが、単独でここまでの殺しをやれるやつはそういないぞ」
「単独かはわからんやろ」
「〈ティンパ商会〉の幹部を何人か殺して情報が出てこないということは単独に間違いない。複数でやればやるほど、どこかで誰かが見ているものさ」
「はんっ、〈耳長鬼子〉が言うと説得力あるわ」
ロクサーナはサングラスをかけると、テーブルにくしゃくしゃの一万ロンガン札を放り出して立ちあがった。
「ええか、耳長。うちは忠告したで。妹ちゃんと、せいぜいのんびりしとけ」
「ああ、言われなくてもそのつもりだ」
「くっくっ……なら結構や」
こちらを値踏みするようにして笑い、ロクサーナは踵を返した。
だが、途中で足をとめて振り返る。
「あんたみたいなもんが、正攻法で就職できるわけないやろ。うちが口利きしたるから、気が向いたら電話してこい。そんときはあんたの奢りやで」
思ってもみなかった言葉に、デシーカはきょとんとした表情を浮かべた。
こちらの返事をまつまでもなく、ロクサーナは店を出て人混みに消えた。
「ふふっ、親切な警察官みたいなことを言うじゃないか」
デシーカはテーブルに置かれたくしゃくしゃの一万ロンガン札を手に取った。
そこには電話番号が書いてあるメモも一緒にあって、思わず苦笑する。
案外と可愛い、丸い文字だった。




