1.デシーカ・デグランチーヌ
無骨な編みあげブーツの靴底が血溜まりを踏みつけ、磨き抜かれた床にぎちぎちという音とともに赤い足跡を残していく。
転がる死体と薬莢を踏み越えて、彼女は眉根ひとつ動かさなかった。
「っ……」
血溜まりに沈む男がか細い声をもらしたので、左手にある自動拳銃の銃口を男に向ける。
念入りに撃ち込むと、弾倉が空になってスライドが開き切った。
「ふむ」
彼女は自動拳銃を投げ捨てると、軽く肩をすくめた。
目的の部屋はもうすぐそこで、重厚な扉の前には護衛の男が張りついていた。
「うっ、ああっ!」
最後の一人になったその護衛は、恐怖に引き攣った顔で自動拳銃を構えた。
真昼間だというのに私が幽鬼にでも見えているのか、と彼女は思った。
思ってから、そうかもしれないと考えなおす。なにせこの立派な邸宅はいまや死屍累々で、彼女が歩いてきたあとには死体が無造作に転がっていた。
「デシーカ・デグランチーヌ……!」
「ああ、そうとも」
男の震える声に、彼女――デシーカは淡々と応じた。
「泣く子も殺す〈耳長鬼子〉とは私のことさ」
そこには温情も、冷酷さも、愉悦もない。
デシーカは右手に握っていたサーベルをゆっくりと構えた。
実戦仕様の無骨な拵えで、刀身は鈍い橙色。
まるで炉から出されたばかりのように、熱を帯びている。
灼熱の魔術刀――銘は白無垢鉄火。
このアヴァロン島の黒社会で彼女を知らない者はモグリだ。
〈ティンパ商会〉直系組織〈ラウ書店〉の殺し屋――デシーカ・デグランチーヌ。
なんの躊躇もなく、デシーカは魔術刀を振りおろした。
灼熱の刃が男の左鎖骨からすっと入る。
人の肉と血が焼け焦げるにおい。
傷口が一瞬で炭化して、悲鳴をあげる暇もない。
肺まで達した魔術刀を引き抜き、デシーカは絶命した男を蹴り飛ばした。
死体に一瞥すらくれず、男が守っていた部屋に静かに足を踏み入れる。
「ルチアーノ、戦争はお前たちの負けだ」




