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PM11:45 「Voigt-Kampff」Side:Jack


〝ネスト〟にて



 あからさまに後付けされている固定型の無人機のワークスペースや、何処で拾ってきたのかも分からないジャンク置き場やら、そんな区画を幾つか通り過ぎてたどり着いた先。

 医務室をそのまま流用したと思われる部屋に、重い足を踏み入れた。

 骨董品レベルの電気式蓄音機、積み重ねられた本、二十世紀を彷彿とさせる色褪せた映画ポスター。思わず、居心地の良さを覚える代物が沢山目に入る。ソファも、ローテーブルも。

 そこに異物のように存在する無機質なデスクの先に例の男の背が見える。だが、それより先に気になった⋯⋯

 いい匂いがする。コーヒーだ。近くのシアトルでも好まれるライトハウス・ロースターズとみた。

 マッド──黒人の老紳士──はアナログなコーヒーマシンの前に立ち、慣れた手つきで片付けていく。


「カメはひっくり返ったまま、腹を直射日光に焼かれている。元に戻ろうともがいているが、どうにも出来ない。君が助けない限りはね⋯⋯」

「倫理検査なんて今どきやらない」


 作業を終えて彼が振り向いた。マグカップを片手に、湯気で曇った丸眼鏡で俺の腕を見ている。


「ああ。でも⋯⋯良い義手を持ってるじゃないか。ちょっと聞きたくってね」

「技師が義肢に嫌味を言うのか? 人工皮膚でも考えとくべきか」


「剥き出しのクローム、なるほどサイバーパンクか」なんて言いながらマッドは蓄音機に手をかけた。

 流れたのは軽妙かつ陽気な音楽──ライダーが流していたものと同一。ここにカラクリの種を僅かに感じる。この男は、あるいはライダーとは何者なのか。本筋とは異なる疑問を浮かべるも、それを押し殺した上で、問答は始まった。


「今日の集団誘拐事件。一連の出来事は知ってるんじゃないのか。あのバイカーを遣わせたのがあんたなら⋯⋯一体何の目的で」

「知っている。知っているが、私はあくまで彼に情報提供をしただけだ。君とあの廃工場で鉢合わせたのは、私の意図とも、彼の偶然とも言える」


 示唆には富むが、肝心な部分を煙に巻かれているような気がする。急く姿勢のままに、要点に喰らいついた。


「つまり⋯⋯なんだ?」

「ああ、つまり⋯⋯私は君の存在自体を知っていた。今の君の動機もね」


 若干重たい瞼が閉じようとしたところで、マッドの言葉が強制的に脳を叩き起こした。

 銃を抜けるように微かに重心を入れ替える。すると俺の表情を見た彼は、両手を広げて宥めた。


「おっと、IMUTHESと私は何ら関係なんて持っちゃいない」

「⋯⋯怪しいにも程がある。わざとだろ?」

「私は演出家だ、面白いシーンが見たいわけさ」


 デスクの上にあったプロジェクターが映像を映し出す。部屋の灯りがみるみるうちに消え、視線は強制的に映像だけに絞られていった。

 写し出された「ジョナサン(ライダー)」のCGモデル、実際の写真、映像、全て〝他人に見せるためだけ〟に整理された資料のように見える。

 見やすく整えられ、視覚的に鮮やかで楽しめる設計。それだけで、マッドという人物の趣向がなんとなく分かった。


「復讐。それ自体は良いとして、彼は完成し過ぎた。デウス・エクス・マキナを喜ぶ奴なんてそういない」

「〝だから君のショーを見せてくれ〟って? 外連味が強すぎるのも考えもんだ」

「そう、呑み込みが良い。ここに呼んだのは取引の一環だ。拠点と情報の提供、その下見に来てもらった。現実的な話、無償で君を援助するだなんて言ってない。しかし私は物質的な報酬を求めるわけでもない」


 情報はともかく、拠点なんて長期戦を前提にしているのと同じだ。そんな悠長な話があるか。

 ひとしきり今出来ることを考えても、手持ちの情報は断片的で、アメリアに繋がるかどうかも不確かなものばかり。

 人手がいる。ライダーとマッド、この二人を使うという手は勿論ある──だが、もっと確実な〝知り合い〟がいるのも確かだ。正直な話、この連中は俺が使えると思えるような信用は到底持ち合わせていない。


「悪いが断る。知り合いに頼んだ方がマシだ。さっきの少年兵、こっちに渡してもらうぞ」


 俺は迷わず銃を抜いた。構えるまではせず、懐に抱えた娘へのプレゼントをしわくちゃにしながら、マッドを睨んだ。

 ────その時だった。背後のスライドドアが勢いよく開くと、俺は振り返る間もなく砲口を突きつけられた。

 この感じ、この銃口の広さからして背後にいたのがライダーなのは明らか。何よりあの特徴的な赤いライティングが、俺の足の間から差していた。

 一口、コーヒーを啜る音が聞こえる。


「〝イェーガー部隊〟かね」


 死角から殴られたような急襲。息が詰まった。

 緩やかに、しかし確かに耳の中を自分の鼓動が占領しだす。返す刀に抗する言葉は持ち合わせがなかった。


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