PM11:30 「電気羊の夢」Side:Winter
夢。何か、鼻を啜る音が聞こえる。
辺りは暗く、遠目に真っ白な光だけが見えた。
少女はただ、二つの影が見えるその光に向かって歩き始めていた。
痛みも忘れるような冷たさの中へ、どこかへ消えてしまった熱を求めて。
もう、誰もいなかったのに。
〝ネスト〟にて
ごく僅かに意識が戻った時点で、自分が熱いシャワーにかけられていることだけ分かった。かと言って起き上がるほど意識ははっきりとしていないし、このまま放っておいてもそれは変わらない。
半覚醒──とにかく、意識があっても意思があるわけではない。
寝台の上で仰向けになり、蒸気のこもった無機質な部屋で、冷えた身体を癒すようにずっとシャワーを浴びせられていた。私自身が半目、かつ蒸気で見えないことも踏まえると、傍に立っていたのが誰なのか不明瞭だった。
少なくとも、真っ黒で大きな影が立っている。
人間らしい振る舞いは無く、それが淡々と戦闘用の黒いラバースーツを脱がしていくと、身体の力も一欠片と無いまま重力にだけ従って、真っ白な全身の肌を曝け出された。
意識があったとして、恥じらいなどない。あるとすれば警戒、業務的な思考のみだろうが、それすらも今の私には残されていなかった。
うたた寝をしている気分で、目の前の光景も現実なのか夢なのか、その判別すらつかなかったから。
小さな動作音が鳴ってシャワーが止まると、漂う蒸気が荒れ狂うのを止め、換気口に向かって波を形成していった。
金属と思しき硬質の手が近づき、喉から脈を測るように顎下を抑える。それがものの数秒で終わると、心地よい熱気の中、柔らかいタオルが身体のいたるところを拭いてゆく。
女性の基準ならさして長くはない頭髪。それ以外の箇所は、水滴の一つも残らないほど丁寧に拭われた。
頭髪に関してはシャワールームから運び出された後、ドライヤーで乾かされていたようだ。
大きな影は全て的確で無駄がない。これまでのスーツの代わりに、検診衣のようなダボッとしたものを着せられる。
下着こそ元から無いため、上に羽織った程度の検診衣では些か寒さを感じた。
上からもう一枚と被せられた布で、最低限は体温を保つ程度になる。そのまま抱きかかえられ、金属質の冷たい廊下をしばらく渡っていた。
私を抱えた影が歩くたび、床に響く重い振動が辺りに木霊する。
長い、長い廊下は洞窟のようで、常世との狭間にいるようだった。




